61 / 62
【その後】
転生司祭は帰省する 9
しおりを挟む「ねぇみんな。しばらく私を家事とかの当番から外してくれない?」
賑やかな場にポツリと呟きが落ちた。
真剣な顔をしてそんなことを言いだしたのはジャンさんに魔術の質問をしていたイレイスだ。
緑髪の落ち着いた美少女で、魔術に関する知識と実力は孤児院一の天才児。(ユリアは除外)
孤児院では料理や掃除、日常のあらゆる作業を当番制で行っている。
基本的にサボらずいい子でこなしてくれるし、なんなら当番じゃなくても「お手伝いします!」って率先して動いてくれる働き者が多い。
イレイスも決して怠け者の少女じゃないし、みんなも「何言ってんだよイレイス」とこぼしながらも非難っていうか「どうしたんだ?」ってニュアンスだ。
静かに瞳を閉じたイレイスはギュっと胸の前で握りこぶしをつくりつつ、決意を込めて瞳を開いた。
「私、転移術を覚える」
静かな、力強い宣言。
反応が遅れる周囲にたたみかけるようにイレイスは言葉を続けた。
「いい?私が転移術を習得すれば王都に行けるのよ?魔力消費だって激しいし、もちろんしょっちゅうはムリよ。でもエリザやザックたちだって王都に行ってみたいと思わないの?
私は行きたいわ!いいえ、絶対に一度は司祭様のお店に行ってみせるわ!!」
やたら熱く語るイレイス。
あれ……?
イレイスってこんな熱血な子だったっけ?
もっとこう、物静かで大人しい子だった気が……。
王都に憧れてるのかと思いきや、目的は僕の店かーい!!
いや、うれしいけどさ。
まだ開店してませんけどね。
ちなみにエリザやザックの名をあげたのはイレイスが親しいからと、二人は村に残留組だからだろう。
村を出る子はともかく、そうじゃない子は王都へ行く機会なんてそうそうない。
イレイスの演説を聞いた子どもたちは目をかっぴらいた。
台詞をつけるなら背後に浮かんでいるのは「その手があったか!」だろう。
「イレイス……!!貴女ならできるわ。…………ああっ、司祭様のお店……!!」
ガシッとイレイスの両手を握り瞳を潤ませるエリザ。
「さすがイレイス!そうだよな!敬愛する司祭様のお店だ、行かずに一生を終えるとか有り得ねぇよな」
力こぶを作りながら「掃除でも力仕事でも任せろ!お前は転移術に全てをかけろ」と激を飛ばすのは子どもたちをまとめる兄貴分のザック。他の子らも次々と続く。
「わたしもお手伝いがんばるー!」
「ぼくもー!!」
「イレイスおねーちゃん、がんばって!!」
健気に手をあげてお仕事がんばる!宣言する子どもたちは一見、助け合いの精神に溢れた美しい光景なんだけど…………目的おかしくない?
そして僕の店のハードルむちゃくちゃあげられてない?
特別なお店でもなんでもない飲食店だからね?
これでこの子らが本当に来て「なんだ……」ってガッカリされたら泣くよ?僕。
みんなに励ましと当番無期限免除を言い渡されたイレイスはキッと凛々しく顔をあげた。
「そういうことなんで、ご指導宜しくお願いします!師匠たちっ!!」
「し、師匠?!」
「わ……わたくしも、ですの?」
突然師匠呼ばわりされて怯むジャンさんと自分を指さして慌てるシルフィーナ。
151
お気に入りに追加
254
あなたにおすすめの小説
少年騎士
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。
運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)
太郎ちゃん
ドスケベニート
児童書・童話
きれいな石ころを拾った太郎ちゃん。
それをお母さんに届けるために帰路を急ぐ。
しかし、立ちはだかる困難に苦戦を強いられる太郎ちゃん。
太郎ちゃんは無事お家へ帰ることはできるのか!?
何気ない日常に潜む危険に奮闘する、涙と愛のドタバタコメディー。
村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~
めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。
いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている.
気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。
途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。
「ドラゴンがお姉さんになった?」
「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」
変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。
・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。
YouTuber犬『みたらし』の日常
雪月風花
児童書・童話
オレの名前は『みたらし』。
二歳の柴犬だ。
飼い主のパパさんは、YouTubeで一発当てることを夢見て、先月仕事を辞めた。
まぁいい。
オレには関係ない。
エサさえ貰えればそれでいい。
これは、そんなオレの話だ。
本作は、他小説投稿サイト『小説家になろう』『カクヨム』さんでも投稿している、いわゆる多重投稿作品となっております。
無断転載作品ではありませんので、ご注意ください。
稀代の悪女は死してなお
楪巴 (ゆずりは)
児童書・童話
「めでたく、また首をはねられてしまったわ」
稀代の悪女は処刑されました。
しかし、彼女には思惑があるようで……?
悪女聖女物語、第2弾♪
タイトルには2通りの意味を込めましたが、他にもあるかも……?
※ イラストは、親友の朝美智晴さまに描いていただきました。
ぼくの家族は…内緒だよ!!
まりぃべる
児童書・童話
うちの家族は、ふつうとちょっと違うんだって。ぼくには良く分からないけど、友だちや知らない人がいるところでは力を隠さなきゃならないんだ。本気で走ってはダメとか、ジャンプも手を抜け、とかいろいろ守らないといけない約束がある。面倒だけど、約束破ったら引っ越さないといけないって言われてるから面倒だけど仕方なく守ってる。
それでね、十二月なんて一年で一番忙しくなるからぼく、いやなんだけど。
そんなぼくの話、聞いてくれる?
☆まりぃべるの世界観です。楽しんでもらえたら嬉しいです。
いいよ、って言わなきゃ…。
まりぃべる
児童書・童話
あいちゃんは保育園に通っています。
でも、行きたくありません。
理由は、友達と遊ぶのが嫌だから。だって…。
☆★
ごめんなさい、完結付けてませんでした。。。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる