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【その後】
転生司祭は看病する 5
しおりを挟む夕食を食べさせ、薬を飲ませたあとは症状もかなり回復していた。
まだ少しとろりとしているものの、焦点が怪しかった瞳も戻り、荒かった息遣いも少しは落ち着いた。
「熱も、大分下がったようですね」
掌で額の温度を測りながらそう告げる。
流石の若さと体力だ。
具合が悪くても基本的に一日で治してしまうアーサーの治癒力は驚異的だ。
前なんて、毒を喰らったのに一日経ったら治ったからね。
因みにその時、僕もユリアも一緒じゃなかった。一緒ならすぐに解毒できたんだけど。
魔物の毒を喰らって魔法も治療もなしに自然治癒するとかどんな体の造りしてんの?驚異的すぎるんだけど。
背もたれにしていたクッション代わりの枕を取り去り、頭を枕へと横たえる。
掛け布団を引き上げ整えていると伸ばされた指が腕を掴んだ。
弱々しい動きに反して力は強い。
「………………」
もごもごと言葉を発することなく動く唇。
上目遣いで見つめる、縋るような瞳。
小さく笑みを浮かべ、布団の上から肩口を反対の手でポンポンと叩いた。
「眠るまでここに居ますよ」
安堵したように緩む指先に「だから、安心してお休み」と声を掛けた。
読んでた本に栞を挟んで閉じる。
穏やかな寝顔と健やかな寝息。
すこしズレた掛け布団を再び引き上げ、「お休み」と夢の中の彼へと声をかけサイドテーブルに置かれたランプを消した。
簡易キッチンで温かい飲み物を淹れる。
蜂蜜入りのホットミルクが二つと、コーヒー二つ。
会話の内容までは聞き取れないが、話し声が聞こえたのでアーサーの見舞いに訪れた彼らはまだ居るのだろう。
お盆に4つのカップを乗せ、扉を開ければ予想通り三人はテーブルを囲んで会話していた。
ジャンさんとヨハンくんの表情が引き攣ってるのがちょっと気になる……。
「あっ、ミシェル様。アーサー寝ました?」
「ええ、体調も大分良さそうですよ。明日には回復してるでしょう」
たった数歩の距離なのに席を立って迎えにくるユリアにそう告げる。
「良かった。まぁ、アーサーですもんね」
顔を見合わせ笑う。
「どうぞ」
ことりとカップを置けば、それぞれがお礼を言って口をつける。
「プリンご馳走様でした」
ぺこりと頭を下げて「美味しかったです」とはにかんでくれるヨハンくんに嬉しくなる。作ったものを喜んでもらえるのは嬉しいよね。
思わず手が伸びてその頭を撫でた。
「ヨハンもあまり無理しちゃダメですよ?最近頑張りすぎです。アーサーみたいになる前にちゃんと休息もとりなさい」
「はい」
照れくさそうに俯くヨハンくんの横でユリアが「自分も!」とばかりにプリン美味しかったですアピールと頑張ってますアピールを始める。
……なんでこの子らこんな張り合うの。
ヨハンくんの頭に置かれた手をガン見しながらのアピールにユリアの頭も撫でれば猫みたいに瞳を細めてご機嫌な表情だ。
「そういうミシェルこそ体調は平気なのか?最近、やたら宰相とかに頼られてんじゃん」
「あー、まぁぼちぼち?」
曖昧に言葉を濁して緩く笑う。
なんか割と宰相さんと話が合っちゃったんだよね。
多分、苦労人の胃痛持ち属性だからだと思う。
……で、エセ神託情報とか、あとは前世知識で孤児院で実践してた教育法だの就職に活かせる知識だのポロっと零しちゃったら王様や宰相さんたちにめっちゃ食いつかれちゃった。
あとはさっき言ってた胃薬の横流し。
宰相さんも補佐室の皆さんにも胃痛持ちに大人気なんだ、僕の薬。
まぁ、効果は自身で実証済みだからわからないでもないんだけど。
「迷惑かけられたらすぐに言ってくださいね?」
可愛い笑顔で小首を傾げてくれるユリアだが…………迷惑かけられたら絶対に言っちゃいけない人選だよね。どう考えても。
不幸な結末しか見えないよ。
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