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「死が二人を別つまで」でよりも重く
しおりを挟む「それで求婚を受けたの?」
問い掛けてくるレイにクローディアは真っ赤な顔で頬を膨らませた。
場所はジルベルトの屋敷のサロン。
因みに現在サロンの中に居るのはクローディア。そして未だ外出自粛中のクローディアの為に偶に遊びに来てくれるレイとシャーロット。給仕としてクレアとマリー。
女子会である。
屋敷の主たるジルベルトは仕事で留守。子供達は今日は御呼ばれで外出中なのを狙って一人訪れたシャーロット。
執事であるクロードは早々に追い出した。
なにせ女子会。男子禁制である。
テーブルに並ぶクローディアの力作のスイーツは今はさほど手を付けられていない。
席についてすぐは感嘆と共に舌鼓をうってくれていたけれど、シャーロットにジルベルトとの話を振られて以降は話に集中。
もはや身を乗り出して近況を問うシャーロットに、そつなく給仕を熟しながら興味津々なクレア。分かり易く眼を輝かせたり憤慨したり、表情をころころ変えるマリー。
女子は恋バナが好きなのだ。
そして、ぽつりぽつりと愚痴を含めて話すクローディア。
「受けてないわよっ!大体、そんな素直に求婚を受け入れられるぐらいならこんな拗らせてないわ!!」
猫はもはや完全に逃走中。
「何なの、あの人っ!!そんなキャラじゃないじゃないっ!!!」
そして暴走中のクローディアを宥めるレイ。
よしよしと頭を撫でて、手に取ったクッキーをクローディアの口へ。
差し出されたそれを素直に咥えてもぐもぐと租借をすれば流れるように紅茶を差し出される。
礼を言って、それを口にしながら心を一旦落ち着かせる。
本当に被っていた猫ちゃん達、どうか今すぐ戻ってきて欲しい。
迷子の猫ちゃんを見つけた方、至急連絡をお願いします。
自分のキャラも大分崩れてしまっているのは承知の上だが、ジルベルトのキャラが可笑しい。だって素で甘い言葉を紡ぐキャラじゃないじゃない。
もっと何処か陰があって、真面目で堅物な憂い気なキャラじゃなかった?
一旦落ち着かせた筈のクローディアの思考はまた迷走を始める。
だけどよく考えればジルもそんなところがあった。
不意に「可愛い」とか爆弾を投げつけられてよく翻弄されていた気がする。あと此方が慌ててるのを見て愛おし気に笑ってたり・・・。
考え始めたらたまらなくなって、レイに抱き着いてぐりぐりと頭をすりつける。
「正直ちょっと複雑。ディーを利用しようとしたことと約束をすっぽかしたことについては僕は許してないし。だけどジルベルトさんがディーを大事にしてるのは見ててわかるし。そうじゃなきゃ一発ぶん殴ってたんだけど」
「その点についはジル君が完全に悪いわよね」
レイの言葉にシャーロットが肯定をし、侍女sがうんうんと大きく頷く。
「でもクローディアちゃんが出て行ってしまうのは嫌だもの。クローディアちゃん、もし 如何してもこの家から出ていくことになったら家に来てもいいわよ」
まさかのお誘い。
思わずシャーロットーを凝視するも、「あの子たちも喜ぶもの」と軽く流された。
「私としてはジルベルト様と無事結ばれて頂きたいのですが。正直、今後別の女性を連れて来られても素直に祝福できるとは思いませんし」
しれっと告げたクレアに頷くマリー。
「私もですっ!それにやっぱりクローディア様もジルベルト様のことを好きなんですよね?」
マリーは無邪気にさらっと爆弾ぶん投げてきた。
「・・・知らない」
レイにしがみ付く力を強くすれば、宥めるように再びお菓子が口に運ばれた。
それが一番の問題で。
どう否定しようとも、一番厄介なのは自分自身の心で。
そうしてこの感情は本人含め、もはや周囲に筒抜けなのが痛いところだ。
「だって」
思わず口から出た声。その先は声には出さず心の中で
好みなんだから仕方がないじゃない・・・。
ずっと、ずっと好きだったのだ。
拗らせて拗らせて、素直にこの気持ちを認められないぐらいにずっと。
悔しいから、セオやクロードの話を振って自分以外の話へと誘導した。
菓子や紅茶を囲みながら、女子会は姦しく続いていく。
「嫌」
返した一言にジルベルトは苦笑いを浮かべる。
「私を信じ切る事が出来ないから?」
「・・・」
かつて彼に返した言葉を放たれ、答えに迷って思わず唇を噛んだ。
「如何すれば貴女の信頼を得る事が出来ますか?」
「そんな方法ないわ」
だってこれは、最早自分の心の問題で。
「ずっと抑圧されてきた感情って厄介なのよ?言ったでしょう、泥沼だって」
「そうですね。綺麗なままで終わらせるにはもう既に遅すぎる。とっくに泥沼だし、抑圧された感情が厄介なことも私自身よくわかっています。だから諦めて」
諦めさせることを諦めろと、頬を手で包みながら紺碧の瞳が告げる。
「碌なことにならないわ。後悔するわよ」
「今この手を放す後悔に比べればましでしょう」
「貴方にはもっと相応しい女性が幾らだっているわ。盲目は人生を棒に振るわよ。溺れてる人間はね、周囲が見えなくて自分が助かろうと伸ばされた腕を掴んで相手すら溺れさせてしまうの」
言い聞かせるようにクローディアが語れば、不意にジルベルトが笑い出した。
「いいですね」
くつくつと震える喉と、返された言葉の意味がわからず戸惑う。
手を握っていた方の手も離され、もう片方の手と同様に頬へと伸ばされる。両の頬を挟まれたまま、真っすぐに視線がかち合う。
「ならばその時は、一緒に海に沈みましょう?」
瞳を見開く。
「一人で沈み、空へと昇ってしまうラストよりずっといい」
それはいつかデートで見た劇の原案。
ハッピーエンドにしたてられた劇とは違い、お伽噺の『人魚姫』のラスト。
「以前貴女が言ったように、私には自分の望みの為に誰かを犠牲にする覚悟は無いのかも知れない。
だけど自分の望みの為に自分の命を懸ける覚悟ならあります」
「・・・・・・ 莫迦じゃないの」
何とか絞り出した声は掠れていた。
その返しにすらジルベルトは楽し気に笑う。
「私は他に経験がないのでよくわかりませんが、恋とはそういうものじゃないのですか?
その想いの為ならば声も、尾も、命だって賭けられる。そんな無謀で盲目な」
もう、とっくに手遅れなことなんて知っていた。
「泡みたいに儚い約束を沢山重ねて、歪な土台の上に脆い砂の城を築き上げて、いつか泡が弾け砂の城が崩壊するまで如何か傍に居て下さい。
貴女が私を信じられなくなったその時は貴女共々海に沈んだって構わない」
だって
貴方は私の運命_______。
「地獄へならば、一緒に堕ちて下さるのでしょう?」
言葉と共に落とされた口づけ。
答える代わりに、そっと瞳を閉じた。
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