おままごとみたいな恋をした

文字の大きさ
上 下
56 / 65

この願いが叶うならば、神だろうと悪魔だろうと構いはしない

しおりを挟む



 話し合いも終わったようで、仕事場へと戻るオズワルド達を見送る。
 玄関へと付き添いながら、見舞いをくれたフレイヤやヴィンセント達にお礼を伝えてくれるように頼んでいた時、ゼロスが首を傾げながら問いかけた。

「クローディアはいつから来れるの?」

 ・・・はい?

「仕事、大分溜まっちゃってるんだけど」

「いえ、別にわたくしの仕事ではないのですけど」

「申し訳ありません、クローディア嬢」

 オズワルドに頭を掴まれたゼロスは不本意そうな表情をしている。
 いや、そんな表情される筋合いはありませんけど。

「別にいーじゃん。実際クローディア来てくれたら仕事捗るし、クローディアだって暇してんデショ?小部屋じゃなくてジルベルトやボクの執務室に避難してれば絡まれるコトもないし」

「団長、クローディアは団員でなければ貴方の秘書でもありません」

「何なら給料払うよ?あ、入団する?ボクの秘書兼お菓子係とかでもいーし。オマエだって仕事進むし、心配して早く帰宅する必要なくていいじゃん。セオだって侍女のコと会えなくてへこんでるし」

 マリーの顔が赤い。
 確かに、それは一考の余地がある。
 お菓子係云々は置いといて。

「考えておきますわ」

「大怪我をしたのですから、まだ彼女は安静です」

 過保護なさまにアルバートがニヤニヤと笑ってるのにイラッとした。

「クローディア嬢、報告とは関わりがありませんが私も一つ興味本位でお聞きしても宜しいでしょうか?」

 敷地を出る前、問いかけてきたオズワルドに足を止める。


「貴女は何故、あの夜聖女としての能力チカラをお使いになられたのですか?」

「隠し通す事も出来た筈なのに?」

 切れ長なオニキスの瞳を見返す。

「そうね。わたくしは『出来損ないの聖女』だもの。自分の能力チカラが失われていないと気づきながらもそれを取り戻そうとも誰かを積極的に救おうともしなかった」

「そういう意味では・・・」

「構いませんわ。実際、あの夜だって土壇場までわたくしは何とか場をやり過ごそうとしておりましたもの。わたくしは自ら能力チカラを取り戻す気も、救えたかもしれない誰かを探して手を伸ばそうともしませんでしたの」

 だから『出来損ないの聖女』という呼称よびなは相応しい。


「だけど」

 決めていたことがあった。

「自ら進んで責務を果たそうとは思わなかったけれど、たった一度だけ。眼の前で聖女としての自分が必要な事があれば役目を果たそうとそう、決めてましたの」

 例えそれが、どんな結果になろうとも。

「聖女になった日、初めて神様に願ったの。
ジルを助けてって。その為ならわたくしの命でも人生でも捧げたって構わないって。
そしてわたくしは聖女になった」

 クローディアが願ったのは魔女ではなく。

 だけど、神だろうと悪魔だろうと何だって構わなかった。

「願いは叶えられたわ」

 魔女の取引を非難したオズワルドは笑うだろうか、愚かだと。

「結果が望むものと違っていたからと言って、契約を投げ出すのはフェアじゃないでしょう?」

 挑むように、覗きこんでオズワルドを見上げる。
 それは消極的で、だけど譲れないクローディアの最低限の責務だった。

 真面目なオズワルドでは理解できないかも知れない。
 彼ならば役目を果たすと決めたのならば精一杯それに取り組むのだろう。聖女でなんか在りたくないと願いながら、惰性のように聖女の役目に拘るクローディアは彼の眼にはどう映るのだろう。



「失礼」

 掛けられた声と共に手を取られた。

 白い団服の膝をついて跪いた彼に眼を瞬かす。
 純白の団服に黒橡の髪のストイックなオズワルドが跪く姿は酷く絵になったが、何故急に自分が跪かれているのかが理解出来ない。
 恭しく掬われた手の甲に一瞬だけ落ちた唇。吃驚しすぎて肩が震えた。

「貴女がどのような想いを抱えておられようと、結果として貴女の行動で沢山の人が救われた。心からの敬意と感謝を。
我々の力が及ばず、お辛いご決断をさせて申し訳ありませんでした」

 瞳を見開く。

 声も出ないままオズワルドを見れば切れ長なオニキスの瞳と眼が合う。
 見慣れないアングルと突然の事に瞬いていれば、いつの間にか彼に倣うようにジルベルトやゼロスやアルバートも跪いて首を垂れている姿に息を呑んだ。

 珍しすぎる姿に茶化すことすら出来ない。



 若干思考が追い付かないまま、彼らを見送ることになった。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

溺れかけた筆頭魔術師様をお助けしましたが、堅実な人魚姫なんです、私は。

氷雨そら
恋愛
転生したら人魚姫だったので、海の泡になるのを全力で避けます。 それなのに、成人の日、海面に浮かんだ私は、明らかに高貴な王子様っぽい人を助けてしまいました。 「恋になんて落ちてない。関わらなければ大丈夫!」 それなのに、筆頭魔術師と名乗るその人が、海の中まで追いかけてきて溺愛してくるのですが? 人魚姫と筆頭魔術師の必然の出会いから始まるファンタジーラブストーリー。 小説家になろうにも投稿しています。

サメに喰われた人魚

猫パンダ
恋愛
アスティル王国の王女、セレニティは昔から海に近付くことを禁止されて育った。 ある日、義母の企みにより、セレニティは禁止されていたはずの海へ、置き去りにされてしまう。どうやって、城に戻ろうかと途方に暮れていたところ、彼女は海の生き物の言葉が理解出来ることに気付いた。 人懐っこく話しかけてくる魚達の相手をしていると、銀色に輝くボディを持つサメが、セレニティの前に顔を出す。 「お前、俺達の言葉がわかるのか?」 これは、サメの王子と人魚姫の娘である王女のお話ーー。

人魚姫とよばれた美少女は、王子様を助けた為に魔女にゴブリンにされましたが全く問題ありません

ハートリオ
恋愛
シレーヌはラメール王国という小さな島国の第一王女。 ある嵐の日、島の近くで沈没した船から投げ出された人々を救助したら、思わぬ方向へ運命が動き出し‥‥ *剣、ドレス、馬車の世界観の異世界です。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

聖女になんかなりたくない少女と、その少女を聖女にしたがる王子の物語

真理亜
恋愛
聖女求む! 第2王子リシャールは国を救い自身の婚約者となる予定の聖女を必死に追い求めていた。 国中探し回ってやっと見つけた!...と思ったら、なんかこの聖女思ってたのと違う!? 見た目は超絶美少女なのに中身はまだ子供!? しかも冒険者やってて魔法バンバン打ちまくるし、弓の腕前も一流だし。 聖女にはならないとか言い出すし... どうすればいいんだ!? 自由奔放な聖女に振り回される王子の話です。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

処理中です...