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under the rose
しおりを挟む「次にわたくしの傷が癒えた事についてお話ししますわね」
宝石を撫でていた指を一本立てて彼へと向ける。
「あれはわたくしが行ったのではありませんわ。彼がした事です」
見開かれる幾つもの瞳。
クローディアの指さした先に居るのは____ジルベルト。
「実際には彼が、というよりもあの短剣の力ですけれど」
「ちょっと待ってください、それは一体・・・?」
「お義母様の持ち物だったという短剣、あれはシュネールクラインの宝具ですの。わたくしも実物を見るのは初めてだったので気づかなかったですが、そうと考えれば全て説明がつきますもの」
「母の?」
突然の会話にテオドールが戸惑いの声を上げる。
「ええ、薔薇の装飾がなされた真紅の短剣ですわ。先日カイル様から頂きましたの。テオドール様はその短剣についてお母様から何かお聴きになったことはあられて?」
問い掛けに緩く首を振られる。
「いいえ、母からは何も。それは確かなのですか?何故そんなものを母が・・・」
「それに 如何してカイルがクローディアちゃんに?」
「お母様の持ち物を勝手に遣り取りして申し訳ありません。先日カイル様のお部屋で色々見させて頂いた折にあまりに美しい短剣なので一目惚れしてしまいましたの。なのでクリストファー様をお助けする約束をした際に約束の証として頂いたんですの」
因みに短剣はジルベルトに没収されたままクローディアの手元には戻っていない。
「何故お母様がお持ちだったのかはわかりませんが、かの国で紛失して随分時間が経っているのでもしかしたらお母様も由来はご存じなかったのかも知れません。わたくしも書物で記述を眼にした事があれど、実物を見ても気づきませんでしたから」
「ソレがその宝具なの?」
紅玉をキラキラと輝かせて「見せて、見せて」と騒ぐゼロスはオズワルドに頭を叩かれていた。
空気呼んで空気。
自分を棚にあげてそう思う。
「ジルベルト様はあの短剣に血を与えた事がおありでなくて?」
首を傾げれば、ジルベルトは何かを思い出そうとするように瞳を細めた。
「・・・そういえば、引き取られて暫く経った頃に細工が美しい短剣を眺めていて、鞘を抜いた時にうっかり指先を切ってしまった事がありました」
「そう」
ならば、やはりそうなのだろう。
「書物で眼にした宝具には、様々なモノがありましたの。聖女をいいなりにするための隷属の効果のある首輪。能力を増幅する、と言えば聞こえがいいですが命を削ってまで能力を絞り出す額飾り。能力を溜めて置くための手鏡。忘却の腕輪に他にも色々」
「この前キミが教えてくれたモノとは違って随分ダークなモノが多いね」
「あまり表には出せない暗部ですしね。存在自体知らない方が多いんじゃないかしら?わたくしは趣味で幅広く閲覧制限のある書物まで眼を通していたけれど王族の方だって知ってらっしゃるか如何か」
何せ書庫にある本は割と片っ端から読み耽った覚えがある。
「ゼロス様、質問です。
そんな国にとって便利な道具って何だと思います?」
「自分が聖女の能力を使える道具」
間髪入れずに答えた彼に「流石」と微笑む。
「沢山の聖女を集めるより、言う事を聞かせて管理するより、自分が手っ取り早く聖女の能力を使える方が魅力的だろうね。成程、あの短剣はソウ何だ?血を与える事が契約者たる条件。それじゃあ対価は?」
「勿論、聖女の命ですわ」
正しくは聖女の能力と言うべきか。
だけど実際多くの聖女がそれによって殺されたのであろうことを考えれば聖女の命と言い換えても間違いではないだろう。
今なら何故あんなにもあの短剣に惹かれたのかわかる。
「あの短剣で聖女を刺す。そして能力を溜める。別に一人でなくても構いませんの。大きな願いがあるのならそれに見合うだけの数の聖女が要りますわ。そうして願いを言えば場合によってはそれが叶う。聖女の存在と同じく原理は不明。もしかしたら宝具は歴代の聖女の能力で創られたモノ、いえ、創らされたモノなのかも知れませんわね」
口元を手で覆って「ひどい」と呟くシャーロットの声が震えていた。
「貴女があの短剣で自分を刺し、その能力を吸った短剣が私の願いに反応したという事ですか」
「ええ、貴方が「死ぬな」と叫んだ途端ソレは起きたのでしょう?あの短剣はわたくしの傷を癒した。流石に蘇生は無理でしょうし、わたくしが息絶えていなかったから間に合ったのでしょうけど。だけど直前に能力を行使したばかりの事もあって、わたくしの中の全ての能力を吸い上げても傷を完全に塞ぐには足りなかった。それを貴方とゼロス様の化け物染みた魔術が癒して下さったというのがきっと真相ね」
「失礼な」
「ごめんなさい。きっとゼロス様達にはお礼を言うべきなのでしょうけど、正直不満が勝ってますの」
「別にそんなモノは要らないケドね」
クローディアは肩を竦める。
「本当、こんな偶然があってたまるかって感じでしょう?」
揶揄するようにローズピンクの垂れ眼を見つめた。
流石にアルバートも言葉が出ないようだ。
「あの短剣は失われこの国にありましたが、シュネールクラインでは今も尚、そのような非人道的な行いが成されているのですか」
厳しい表情で問いかけてくるオズワルドには首を振る。
「他の宝具も失われているモノが多く現状そのような話は聞きません。現王族の方々もそのような事をなさる方ではありませんし。ですが昔は普通に行われていたことなのでしょう」
「そんな・・・」
震える手を組む妻にテオドールがそっと肩を抱く。
彼の母も聖女であったから色々と思うところがあるのかも知れない。
「お母様が聖女であられたテオドール様達の前でこんな事を言うのは失礼なのは承知の上ですが、聖女の扱い方としてはそう可笑しなことではありませんのよ」
かつてのシュネールクラインで失われた歴史。
「そもそもだからこそあの国では後宮制度があったのですから」
「必要なトキまで聖女を飼っておく箱庭ってコトか」
かつてクローディアも同じようなことを思った。
「わたくし達は薔薇だから」
「薔薇?」
「少女だった頃に聖女の様々な真実を知ってそう思いましたの。聖女は薔薇だって。ふふっ、夢見がちな少女らしい例えでしょう」
「そういえばクローディアは魔術でも茨や薔薇を使用しますね」
「想い入れが強いので。わたくし達は薔薇で、だから美しく大輪に咲くことを求められる。そう在れない薔薇は他の薔薇が美しく咲く為に間引かれてしまうの。そういった歴史がかつて在った。
知ってるでしょう?薔薇の下には秘密が埋まっているの」
美しい薔薇の下にあるのは、深い闇に隠されたおぞましい真実。
その歴史を知っていたからこそ、ジルベルトが自分を利用しようとした時だってそれを特別酷いことだなんて思わなかったのかも知れない。
「あの短剣の名前はね、血濡れの薔薇というのよ」
まさかそれに命を救われるなんて考えもしなかった。
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