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うっかりときめく
しおりを挟む「コレとコレ。あとソレ2つづつお願いね」
テキパキと注文をしていくレイの後ろでクローディアは興味津々でその様子と屋台の品々を見ている。
今買っているのは様々な具材が挟まれたパンで、選んだのはパストラミとリーフレタス、アボカドとエビと玉葱、茹でて切った卵と潰して和えた卵がダブルで入っている卵サンドの三種だ。その前によったフルーツの店ではカットしたフルーツを容器に入れ、可愛いピックを刺してくれた。
「1つずつ半分に切ってくれる?こちらのお嬢さんはそんなに大きな口出来ないだろうし」
レイが店のおば様に声を掛ければおば様も「それは大変」と笑いながら食べやすいように切り分けたうえで紙へと包んでくれる。「ありがとうございます」と礼を告げれば、「可愛らしいお嬢さんだね」と惣菜をおまけしてくれた。
辿り着いた公園で大きな樹の近くにベンチを発見。
丁度付近に人も居ないし、優しく木漏れ日が差し込むその場所で食事をすることにした。
レイが敷いてくれたハンカチの上に座って、さてどれから食べようと悩む。一番食べやすそうなパストラミとリーフレタスのサンドを選んで、お手本とばかりにレイを見る。
包みを上半分だけ開いたレイがぱくりとかぶりつくのを見て成程と頷く。包みを全部取り去らない事で手が汚れないのかと納得し早速真似をする。隣でレイがくすくす笑った。
「美味しいわ」
「それは良かった。それで?さっき話を聞いて欲しいって言ってたけど」
飲み物を渡してくれながら問いかけるレイに、色々思い出して長い溜息を吐く。
「お疲れだね」
「本当よ。聞いて、もう最悪なの。前に破局した相手がね、わたくしと話がしたいとか言い出しやがったの。しかも今一緒に居る人を通して」
「それはまた。ディーが振ったの?」
「あっちからよ。しかも他の女がいるわ」
「なのに話がしたい、と。今の彼氏さんもよくそんな話を通したね」
「・・・・・」
パクリとかぶりついてもくもくと咀嚼する。
彼氏ではないのだけど。その言葉が言えないまま。
「ディーは彼氏さんがそんな話を振ってきた事が嫌なの?それとも元の相手に未練がある?」
「どっちでもないわ。そういうのじゃなくて・・・彼の言動がこの頃わからないの。自分の感情も」
込み入った事を話し過ぎだと思った。
だけど、吐き出さないととても今まで通り振る舞える自信がなかった。
「まるで、わたくしのことが気にかかるみたいな言動をするんだもの」
「えっ?そっち?だって付き合ってるんだよね、だったら気にするのは当然じゃない?」
「利用価値があるから傍に置いただけで恋愛感情なんてないもの」
「は?!」
飲み物を飲んでいたレイの動きが止まった。
真顔で見られる。
「待って、ディー。その男、大丈夫な男?」
「別に騙されてるわけじゃないし。それに彼は誠実で優しい人よ」
「思いっきり悪い男に引っかかった女の常套句なんだけど、それ」
真顔で突っ込まれて、確かにと思わず納得した。
傍から聞けば騙されてる女の典型だなと思う。尤も私たちは最初から偽物の関係なのはお互い様だし。
本気で心配してくれているレイに笑う。
「大丈夫。自分でちゃんと全て話して謝ってくれたし、真面目で嘘が吐けない人だからこっちは始めから気づいてたの。ただわたくしの方にも事情があってあえて乗っただけだし。それに裏のある付き合いや結婚なんて珍しくもないわ」
「確かに貴族間じゃ事情のある付き合いなんて珍しくないか」
言ってしまってから「あっ」とレイが口を押えた。
「ごめん。検索する気はないんだけど」
「別にいいわ。でもやっぱり気づいてたのよね」
「そりゃ勿論。どう見てもディーは庶民のお嬢さんには見えないし」
見えないのか…。と思わず自分の服を見下ろす。
相手は貴族だし、何なら前の男は王族。
自分も養子とはいえ元貴族で王妃候補だけど生まれと現状は庶民なんですけど。
心の中で色々突っ込むけど、そこまで言ったら確実に身バレするのでお口にチャック。
「それに元々、貴族様とは多少付き合いがあるしね」
肩を竦めるレイに首を傾げる。
「僕、商家の出なんだ。さっき後で話してあげるって言ったこの恰好もそれ関係っちゃそれ関係。結構大きな商会で貴族様ともそこそこ付き合いがあって、だけどウチ男の子が生まれなかったんだよね。父親が男が欲しかったって煩かったから思春期に当てつけで始めたのがこの恰好」
そう言って自分の服を指す。
「とても似合ってるわ。レイは顔が整ってるし女性の姿も似合うと思うけど。どっちも素敵」
真剣に告げれば「ありがと」とレイは笑う。
「もう跡継ぎ問題も解決したし、本当はこの恰好を続ける意味もないんだけどね。もうこの恰好の方が楽だし、それに女性客の評判もいいんだよね」
「凄く良くわかるわ」
「僕の事情はそんな感じ。ごめんね、ディーの話から逸れちゃって。それで事情があって付き合ってたけれど本当にディーが好きになっちゃったって話じゃないの?」
「・・・そんなわけないわ」
「何で?」
話に夢中になって手が止まっていたからレイから次のパンを渡された。アボカドとエビと玉葱のサンド。具が多くて零れそうなので慎重に口を開く。こくりと飲み込んでから俯く。
「好きになられる理由が見つからない」
「・・・理由。そんなの普通にディーが可愛いからじゃないの」
「可愛くなんてないわ」
パンは口に入っていなかったけれど頬を膨らませる。
自分が可愛気がないのは知ってるし、シュネールクラインでもレオンや周囲に散々言われた。取り繕う事ばかり覚えて、だけど取り繕いきる事さえ出来ない。
「男の人なんて皆、か弱くて可愛らしい女が好きじゃない」
フローラを思い出した。
守ってあげたくなるような、庇護欲をそそる女の子。
愛されて、無知で無邪気だからこそあんなにも純粋でいられる。自分がかつて見ていたような夢を見たままで生きられる女の子。
「それをこんな恰好してる僕に言うのもどうかと思うけど。まぁ、言いたい事はわかる」
「でも問題ないんじゃない?」と膨らんだ頬をぷすっと突かれた。
「ディーは凄く可愛い」
甘く微笑まれて、思わずときめきそうになった。
危ない。
言われ慣れない「可愛い」の言葉に頬が僅かに熱を持つ。レイが女性客に大人気なのに物凄く納得した。
結局、買ったパンはとても全部は食べられなかったのでレイに少し手伝ってもらって、名残惜しいながらも別れを告げる。愚痴を吐き出したお蔭で少しだけ気分がすっきりした。
別れ際、レイが商会の場所を教えてくれた。店のお客さんとしてじゃなくてもいいから、もし用があったら直接お店においでと。ふらふらうろついてまた絡まれるのを心配してくれた模様。まだ少し気晴らしに散策しようとしたけれどそれも一人じゃ危ないからと却下された。
ちゃんと撃退出来たわ!と訴えたのに。
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