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1章-エルファッタの想いは伝わらない-
007
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書斎につき、入る前に執事を呼ぶ。
「おい、人を近づかせるな」
皇帝が命じる。アルファスは暗い顔をして、冷や汗をかいていた。
そして書斎に入って行った。
「……アルファス、もう一度聞く。何を言った」
こうやって何回も聞くのは、本人から自白した内容を皇帝皇后両陛下が聞くためだ。
「……エルファッタが憎かったんです。だからっ…!」
そこまで言ってはっとする。自分自身も驚いた。言おうと思っていた言葉と違っていた。
「ほう…?」
レイナの蔑む視線が痛い。小さい頃も、いい年になっても、泣きそうになる程怖い。
「アルファス」
レイナの言葉は重い。
今は言うタイミングではないが、アオイが呟いた。
「皇帝皇后両陛下は早く、いなくなれば……」
そこまで言ってはっと気がつく。
「転移者殿……何を言っておられるのだ」
レイナとエルカードの厳しい目線がアオイにも向けられる。
思わず呟いてしまった。だが、もう遅い。
「アルファスよ、この女を教育しろと我は言ったはずだ」
さらに厳しくなる。アオイは顔を青くしていた。
「教育しましたが、私の監視不足です」
今よりももっと頭を深く下げる。レイナは何とも思わなかった。無様だなと、愚かだなとエルカードは思う。
レイナはにこりと心のこもっていなさそうな笑顔を作り、扇を口を隠すように覆う。
「まぁ良い。そなたの継承権は第二皇子に受け継がれるのだからな。代わりはいくらでもいる」
それが心に刺さり、じくじくと痛んで、血を出していた。
もう、終わりだと最悪の場合まで想像してしまった。
------
「ぐすっ……お兄様、ありがとうございます」
いつの間にか泣き止んでいた。鼻と目元を赤くしている。
「いや、俺は聞いただけだから」
優しい目でエルファッタを見ていた。頭を撫でようとし、手を止める。その手を握りしめた。掌に爪が食い込むほどに。
エリファは思った。エルファッタはもう赤ん坊、子供ではない。それに俺もエルファッタもいい大人だ。子供と同じに扱ってはいけないと。
エルファッタの肩にイロハの手がちょんちょんと当たる。エルファッタがイロハの方を見ると、イロハの指は時計を指し、「時間です」と言った。もうすぐ時間だと言うことを教えてくれた。エルファッタはわかったと言うことを伝えるためにこくりと頷く。
エルファッタはエリファの方を向く。
「お兄様、時間なのでこれでお暇させていただきますわ」
エルファッタはにっこり笑った。さっきまでの自分を殺す。もう完璧な淑女になっていた。
「ああ」
そのことに悲しみながら頷く。
エルファッタは淑女の礼をして去る。
「イロハ行くわよ」
「はい、かしこまりました」
イロハと呼ばれるメイドはエリファをチラッと少し見てエルファッタに視線を戻す。そして、二人とも部屋から出て行った。失礼だが、エルファッタの友達だから許す。イロハは何が言いたかったのかわからない。もしかしたら軽蔑していたのかもしれない。
エリファは名残惜しそうにいつまでもエルファッタが出て行ったドアを見つめていた。
エルファッタ、と口の中で呟く。過去の記憶に思いを馳せながら。
「おい、人を近づかせるな」
皇帝が命じる。アルファスは暗い顔をして、冷や汗をかいていた。
そして書斎に入って行った。
「……アルファス、もう一度聞く。何を言った」
こうやって何回も聞くのは、本人から自白した内容を皇帝皇后両陛下が聞くためだ。
「……エルファッタが憎かったんです。だからっ…!」
そこまで言ってはっとする。自分自身も驚いた。言おうと思っていた言葉と違っていた。
「ほう…?」
レイナの蔑む視線が痛い。小さい頃も、いい年になっても、泣きそうになる程怖い。
「アルファス」
レイナの言葉は重い。
今は言うタイミングではないが、アオイが呟いた。
「皇帝皇后両陛下は早く、いなくなれば……」
そこまで言ってはっと気がつく。
「転移者殿……何を言っておられるのだ」
レイナとエルカードの厳しい目線がアオイにも向けられる。
思わず呟いてしまった。だが、もう遅い。
「アルファスよ、この女を教育しろと我は言ったはずだ」
さらに厳しくなる。アオイは顔を青くしていた。
「教育しましたが、私の監視不足です」
今よりももっと頭を深く下げる。レイナは何とも思わなかった。無様だなと、愚かだなとエルカードは思う。
レイナはにこりと心のこもっていなさそうな笑顔を作り、扇を口を隠すように覆う。
「まぁ良い。そなたの継承権は第二皇子に受け継がれるのだからな。代わりはいくらでもいる」
それが心に刺さり、じくじくと痛んで、血を出していた。
もう、終わりだと最悪の場合まで想像してしまった。
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「ぐすっ……お兄様、ありがとうございます」
いつの間にか泣き止んでいた。鼻と目元を赤くしている。
「いや、俺は聞いただけだから」
優しい目でエルファッタを見ていた。頭を撫でようとし、手を止める。その手を握りしめた。掌に爪が食い込むほどに。
エリファは思った。エルファッタはもう赤ん坊、子供ではない。それに俺もエルファッタもいい大人だ。子供と同じに扱ってはいけないと。
エルファッタの肩にイロハの手がちょんちょんと当たる。エルファッタがイロハの方を見ると、イロハの指は時計を指し、「時間です」と言った。もうすぐ時間だと言うことを教えてくれた。エルファッタはわかったと言うことを伝えるためにこくりと頷く。
エルファッタはエリファの方を向く。
「お兄様、時間なのでこれでお暇させていただきますわ」
エルファッタはにっこり笑った。さっきまでの自分を殺す。もう完璧な淑女になっていた。
「ああ」
そのことに悲しみながら頷く。
エルファッタは淑女の礼をして去る。
「イロハ行くわよ」
「はい、かしこまりました」
イロハと呼ばれるメイドはエリファをチラッと少し見てエルファッタに視線を戻す。そして、二人とも部屋から出て行った。失礼だが、エルファッタの友達だから許す。イロハは何が言いたかったのかわからない。もしかしたら軽蔑していたのかもしれない。
エリファは名残惜しそうにいつまでもエルファッタが出て行ったドアを見つめていた。
エルファッタ、と口の中で呟く。過去の記憶に思いを馳せながら。
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