完結⭐︎檻の中で

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初めてのヒートからは、穏やかな日々だったかのように思う

ヒートから開けて陽が登校する時には一条も付き添うようになり、首輪を外して欲しがるものの一条も強引な事はしてこなかった

ただ、たまに陽の首輪を撫で、早く信用してほしいと呟く

その度に胸が疼き、首輪を外して一条に全て捧げてしまいたかった

首輪を撫でる一条は、子犬みたいで拗ねていて本当に可愛い

番いになったら、どうなるんだろうか?

それはとっても幸せで甘美なものに違いない

暖かな気持ちで一条と過ごす時間は、陽にとってもかけがえのないものとなり、本当の恋人のように一条も陽の側から離れなかった

そう、学年が上がり、後輩に弟である正井賛が入学してくるまではーーー


「陽兄!陽兄てば!」

薄い日差しが入り込む教室で、病弱だった弟の賛が入り込んで来た時

嫌な予感が陽の胸の中で確かに広がった

輝かんばかりの美しい弟は、はにかみながら陽の忘れ物を届けてくれた

ただそれだけだ

なのになんでこんなに嫌な気持ちが胸に広がるんだろうか

受け取った教科書に爪が食い込むほど力が入る

陽は後ろを振り向けなかった

なぜなら、賛が後ろにいた一条を見つけ嬉しそうな顔で、駆け寄っていったからだ

「一条先輩、こないだはありがとうございました!感動しちゃいました!あんなの本当に貰っていいんですか?」

嬉しそうな賛の声に、一条が優しく、本当に優しく答える

ゆっくりと振り向き、陽は見てしまった

優しく賛の髪を撫で、今までになく嬉しそうな一条の顔に

庇護すべきオメガと出会った表情に、胸が引き裂かれそうだった

「あっ…、俺、ちょっと先に行くね」

惨めにも絞り出した陽の声は届いただろうか?

心臓がばくばくする

足早に非常階段まで走る

誰もいない、息ができない

一条は追って来なかった。陽の様子はおかしかったはずだ。なのにその事実に、その場で膝から崩れ落ちた


誰だって、高位オメガである賛が良いに決まってる。自分はそもそも賛の身代わりだったのだ

ああ、それなのに気を許して何度もセックスしてしまった

自分は馬鹿みたいに一条を好きになってしまっている

胸が苦しい

涙がぼたぼたとこぼれ落ちる

いじめられていた時すら、こんなに辛くなんてなかった

膝を抱えて、鼻を啜る

そうして何時間経っただろうか?お尻が冷たくなってきた

一条は自分を探してすらないだろう

このまま凍死したいーー
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