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しおりを挟むぶくぶくと泡が水面に上がっていく。体が重たく、うねうねとした物が脚に絡みつく
ゴボッと喉から空気が溢れて、蛸の足のようなものが体に巻き付いていた
検分するように体を這い回る黒い脚に足掻こうとするが力が強すぎて外れない
「まだだ、まだ通ってない…」
かりかりと胸のあたりや下半身を蛸の足が掻く
ぴくんと体が反応すると、なんとなく蛸が喜んだ気配がした
「なんと可愛らしい、ああ、早く通らないかな」
蛸が人間に変化していく
すらりと長い手足が伸びてきて黒髪が水中に揺れ、グレーがかった涼しげな黒目がこちらを見る。妙に赤い唇に目が釘付けになった
この美しい顔は
「………アタリ」
呟くと、顔を撫でられる
「僕の夜須…」
ごぼごぼと濁流に飲まれるように、夢は消えていった
。
。
。
見慣れない景色に瞬きをする。大きなベッドに外は森林が広がっていて海が見える
目が覚めると、ぎゅうと何かに抱きしめられていた
バスローブは脱げ、素肌のままピタリとアタリと抱き合っていた
気持ちよさそうに眠るアタリは、もぞもぞと胸元に顔を埋める
寂しくてきたのかな?そう思いながら小さく欠伸をするとパチリとアタリの目が開いた
「おはよう、よく眠れた?」
笑いかけながら聞くと、もう一度ぎゅうと抱きついてきた
ぽんぽんと抱き返しながら、アタリもこの広い家で一人なのかなと思う
「うん。学校行く準備しなきゃね」
もぞもぞと起き出すと、アタリがベッドに引っ張り込んでくる
「今日は休もうよ。プロジェクターあるんだよ、この部屋」
「え?うーん、でも帰りにばぁちゃん見に行きたいし、夜じゃダメ?」
「いいよ。夜に一緒に観よう。顔洗って着替えようか。僕が夜須の服を考えるね」
顔を洗って歯を磨いて部屋に戻ると、アタリが考えたであろう組み合わせがベッドの上に置かれている
白いぱりぱりのシャツに短パンが用意されていて、黒のハイソックスを履く
なんとなく自分もいいところの坊ちゃんみたいだ
下の階に降りると、アタリも着替えたのか真新しそうなシャツと短パンだった
「てか、おそろじゃん」
「いいでしょ。さ、早く朝食摂って準備しないと真坂さんが来ちゃう」
真坂さんとは昨日の運転士さんだ
頷いて大食堂に入ると、準備されていたパンや果物が盛り付けられた大皿が置かれていた
「こうやって選べるのいいね。パンふわふわだ。朝から贅沢だよ。食べ過ぎそう」
パンを頬張っているとアタリはニコニコしながら、食べるのを見ている
「アタリは食べないの?」
「んー、まぁ基本的には食べないかな?気になるなら食べるようにするけど」
「無理にしなくていいよ。うーん、でもばあちゃん家でさ、食べる時ずっと、ひとりだったから、一緒にたべてくれると嬉しいな」
そう言うと、アタリはもそもそパンを食べだした
「俗世のものはあんまり口に合わないな…夜は僕は別のもの用意してもらうけど、一緒に食べようね」
アタリにそう言われて、大興奮してしまった。一緒にご飯を食べてくれる人が出来た!家族、お父さんとお母さんがいた時みたいだ
「一緒に食べてくれるんだ!じゃあさ、じゃあさ、お風呂も一緒?」
ゴフッとアタリが口をつけていた珈琲を吹き出す
「だ、大丈夫!?」
ナプキンで口元を拭きながら、アタリは動揺しているみたいだった
「い、いいの?」
どもるアタリに、力強く頷く
家族って、そういうことじゃないの?アタリも家族がいなさそうだからわからないのかもだけど
「じゃあ、今日から一緒に食事もするし、お風呂も寝るのも一緒でいいんだな?」
最後の寝るのは別々でも良かったけれど、何となく言いづらい
「うん。いいよ。楽しみだなぁ」
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