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しおりを挟む「酷い血じゃん!クロ、これはどうしたの!?」
確かめるように自分と瓜二つの少年は、ネロのシャツが破れて血がついた裂け目を確認したりしている
血は乾いていて、ネロは口を開く元気もなかったが不意にしっかりと見てしまった。
少年の口振りはいかにもネロを心配しているようだった。しかし、その口元が笑っているのが解りネロは固まった
もしかして怪我をしている事を喜んでる?
急に襲い掛かる嫌悪感に、少年の手を振り払うと、ミネルバから鋭い声で咎められた
「クロ!ネロが心配してくれているのに何だその態度は!!?ネロはずっとクロを探していたのに、お前ときたら…!」
今朝までと、あまりにも違うミネルバにネロも唇を尖らせて俯く
冷や汗とミネルバに怒鳴られた事で心臓まで凍りそうだ
「ミネルバ、そんなに怒らないで?クロの傷口に触れて痛かったのかも…」
ミネルバに取り成すように見えているが、こちらを向いている少年の目は爛々としていて、興奮しているかのようにネロを見下げてきて怖気が走る
少年に手を取られて宥められたミネルバも、手が触れた瞬間から照れた表情を浮かべて、先程までの剣呑な空気は、なりを潜めてデレデレとやにさがっていてネロは堪らない気持ちにさせられた
ミネルバの幻覚にしては、ミネルバの反応が奇妙すぎる
つまりミネルバが何か知りたくて、またネロに何らかのスキルをかけている可能性は低い
今、目の前にいる少年はネロもミネルバも知らない人物の可能性が高いだろうか?
しかしネロに成りすますにもメリットがわからない
ミネルバとネロの関係も知る人物はいないように思う
ただ、先程からミネルバに対する態度からしてミネルバに恋愛感情を持つ人物だろうか?
わからない。ひどく不気味なのに少年はミネルバもネロも知っているような気がする
「もう治してあるのに傷口が痛むわけがない。ネロは本当に優しいな?」
少年は甘えるようにミネルバの手を取ったまま、うっとりと微笑む
しかし爛々とした視線はネロを見つめたままだ
それにしても、この空気はまずい
今後、何を言っても恐らく少年が最優先されクロの言葉は何も信用されない、そう解るくらいミネルバの表情はネロを見る目が冷淡に戻ってしまった
「どうして怪我をしたの?」
少年がミネルバを見上げて聞くと、ミネルバは気まずそうに視線を逸らす
それはそうだろう、双子とされている弟を鞭打ったなど言えはしないだろう
ネロが意を決して口を開こうとすると、ミネルバはギラリとネロを睨んできた
「果樹園で梯子から落ちたのだ。クロ、今後気をつけるように」
早口で告げたミネルバの言葉を、きょとんとしながら少年は見上げていた
あどけなさそうな表情には悪気があるように見えないのが恐ろしい
「えっ?でもこれ、あちこち裂けてるし、梯子から落ちてこんなに綺麗になるかな?」
ネロの腕を再び少年が強い力で掴んだので、短く悲鳴を上げたが少年もミネルバも気にしていない
まるで、商品の検分のようだ
「落ちた時に、枝に引っ掛けたようだ。可哀想に。クロ、今後は気をつけるように。ネロを心配させないように今後は果樹園に出入りを禁止する」
顔色も変えず嘘をつくミネルバの言葉にネロは泣きそうになりながら顔を上げる
果樹園に出入りできなくなったら、ここに来てからの辛い時、心の支えにしてきたピークパッツァに会えない
「危ないなら行かない方がいいね?ミネルバはクロを治してくれたんだね?ありがとう」
少年にお礼を言われて、何の曇りもないかのように微笑むミネルバにキュッと下唇を噛む
こんな事、許されていいのだろうか?
幻覚なのか誰かなのか解らないが、ネロの気持ちはズタズタに引き裂かれている
2人して笑って、楽しそうにしてーーー
本来ならば、隣で笑っていたのはネロのはずである。
じわりと涙が浮かぶ
「あれ?なんかクロ泣きそう?」
再び意地悪そうに少年がネロの顔を覗き込む
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