上 下
30 / 63

29

しおりを挟む

「酷い血じゃん!クロ、これはどうしたの!?」

確かめるように自分と瓜二つの少年は、ネロのシャツが破れて血がついた裂け目を確認したりしている

血は乾いていて、ネロは口を開く元気もなかったが不意にしっかりと見てしまった。

少年の口振りはいかにもネロを心配しているようだった。しかし、その口元が笑っているのが解りネロは固まった

もしかして怪我をしている事を喜んでる?

急に襲い掛かる嫌悪感に、少年の手を振り払うと、ミネルバから鋭い声で咎められた

「クロ!ネロが心配してくれているのに何だその態度は!!?ネロはずっとクロを探していたのに、お前ときたら…!」

今朝までと、あまりにも違うミネルバにネロも唇を尖らせて俯く

冷や汗とミネルバに怒鳴られた事で心臓まで凍りそうだ

「ミネルバ、そんなに怒らないで?クロの傷口に触れて痛かったのかも…」

ミネルバに取り成すように見えているが、こちらを向いている少年の目は爛々としていて、興奮しているかのようにネロを見下げてきて怖気が走る

少年に手を取られて宥められたミネルバも、手が触れた瞬間から照れた表情を浮かべて、先程までの剣呑な空気は、なりを潜めてデレデレとやにさがっていてネロは堪らない気持ちにさせられた

ミネルバの幻覚にしては、ミネルバの反応が奇妙すぎる

つまりミネルバが何か知りたくて、またネロに何らかのスキルをかけている可能性は低い

今、目の前にいる少年はネロもミネルバも知らない人物の可能性が高いだろうか?

しかしネロに成りすますにもメリットがわからない

ミネルバとネロの関係も知る人物はいないように思う

ただ、先程からミネルバに対する態度からしてミネルバに恋愛感情を持つ人物だろうか?

わからない。ひどく不気味なのに少年はミネルバもネロも知っているような気がする

「もう治してあるのに傷口が痛むわけがない。ネロは本当に優しいな?」

少年は甘えるようにミネルバの手を取ったまま、うっとりと微笑む

しかし爛々とした視線はネロを見つめたままだ

それにしても、この空気はまずい

今後、何を言っても恐らく少年が最優先されクロの言葉は何も信用されない、そう解るくらいミネルバの表情はネロを見る目が冷淡に戻ってしまった

「どうして怪我をしたの?」

少年がミネルバを見上げて聞くと、ミネルバは気まずそうに視線を逸らす

それはそうだろう、双子とされている弟を鞭打ったなど言えはしないだろう

ネロが意を決して口を開こうとすると、ミネルバはギラリとネロを睨んできた

「果樹園で梯子から落ちたのだ。クロ、今後気をつけるように」

早口で告げたミネルバの言葉を、きょとんとしながら少年は見上げていた

あどけなさそうな表情には悪気があるように見えないのが恐ろしい

「えっ?でもこれ、あちこち裂けてるし、梯子から落ちてこんなに綺麗になるかな?」

ネロの腕を再び少年が強い力で掴んだので、短く悲鳴を上げたが少年もミネルバも気にしていない

まるで、商品の検分のようだ

「落ちた時に、枝に引っ掛けたようだ。可哀想に。クロ、今後は気をつけるように。ネロを心配させないように今後は果樹園に出入りを禁止する」

顔色も変えず嘘をつくミネルバの言葉にネロは泣きそうになりながら顔を上げる

果樹園に出入りできなくなったら、ここに来てからの辛い時、心の支えにしてきたピークパッツァに会えない

「危ないなら行かない方がいいね?ミネルバはクロを治してくれたんだね?ありがとう」

少年にお礼を言われて、何の曇りもないかのように微笑むミネルバにキュッと下唇を噛む

こんな事、許されていいのだろうか?

幻覚なのか誰かなのか解らないが、ネロの気持ちはズタズタに引き裂かれている

2人して笑って、楽しそうにしてーーー

本来ならば、隣で笑っていたのはネロのはずである。

じわりと涙が浮かぶ

「あれ?なんかクロ泣きそう?」

再び意地悪そうに少年がネロの顔を覗き込む
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寵妃にすべてを奪われ下賜された先は毒薔薇の貴公子でしたが、何故か愛されてしまいました!

ユウ
恋愛
エリーゼは、王妃になる予定だった。 故郷を失い後ろ盾を失くし代わりに王妃として選ばれたのは後から妃候補となった侯爵令嬢だった。 聖女の資格を持ち国に貢献した暁に正妃となりエリーゼは側妃となったが夜の渡りもなく周りから冷遇される日々を送っていた。 日陰の日々を送る中、婚約者であり唯一の理解者にも忘れされる中。 長らく魔物の侵略を受けていた東の大陸を取り戻したことでとある騎士に妃を下賜することとなったのだが、選ばれたのはエリーゼだった。 下賜される相手は冷たく人をよせつけず、猛毒を持つ薔薇の貴公子と呼ばれる男だった。 用済みになったエリーゼは殺されるのかと思ったが… 「私は貴女以外に妻を持つ気はない」 愛されることはないと思っていたのに何故か甘い言葉に甘い笑顔を向けられてしまう。 その頃、すべてを手に入れた側妃から正妃となった聖女に不幸が訪れるのだった。

BL短編集②

田舎
BL
タイトル通り。Xくんで呟いたショートストーリーを加筆&修正して短編にしたやつの置き場。 こちらは♡描写ありか倫理観のない作品となります。

いつも余裕そうな先輩をグズグズに啼かせてみたい

作者
BL
2個上の余裕たっぷりの裾野先輩をぐちゃぐちゃに犯したい山井という雄味たっぷり後輩くんの話です。所構わず喘ぎまくってます。 BLなので注意!! 初投稿なので拙いです

兄の恋人(♂)が淫乱ビッチすぎる

すりこぎ
BL
受験生の直志の悩みは、自室での勉強に集中できないこと。原因は、隣室から聞こえてくる兄とその交際相手(男)のセックスが気になって仕方ないからだ。今日も今日とて勉強そっちのけで、彼らをオカズにせっせと自慰に励んでいたのだが―― ※過去にpixivに掲載した作品です。タイトル、本文は一部変更、修正しています。

私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。 彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。 それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。 そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。 公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。 そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。 「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」 こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。 彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。 同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。

【BL】白豚皇帝と呼ばれた俺が革命で死に戻ったら、俺を殺した弟が滅茶苦茶慕ってくるようになって可愛いけど怖い

砂礫レキ
BL
「暗愚皇帝レオンハルト、何か言い残すことはあるか?」 「別に白豚と呼んで構わんぞ。咎めはしない」 レオンハルト・ライゼンハイマーは愚かな皇帝だった。 五歳下の腹違いの弟カインにコンプレックスを抱き、僻地へ追放してから本格的に人生が狂いだした。 自分に甘い言葉を囁く人間だけ重用した結果、国は荒れ結果クーデターを起こされる。 そして革命軍を率いていたのは「黒髪の獅子」と呼ばれるようになった弟だった。 彼の剣によって命を落としたレオンハルトは、しかし次に目覚めた時少年の姿に戻っていた。 それはカインの腹心であるリヒトの仕業だった。彼はレオンハルトに命じる。 「弟をベタベタに可愛がって死ぬまで仲良く暮らさないと地獄に落とす」 十二歳に戻ったレオンハルトは仕方なく、ぎこちなくも弟とスキンシップを取り始めた。 結果カインは堂々としたブラコンに成長し天才と呼ばれるカインに慕われるレオンハルトの評価も上がっていくが……? 光のヤンデレブラコンと苦労性ツンデレ賢者と反省系鈍感主人公がゆるく悲劇回避する話になる予定です。 他のキャラも出ます。 FANBOXの方にたまに短編など投下しています。

超絶美形だらけの異世界に普通な俺が送り込まれた訳だが。

篠崎笙
BL
斎藤一は平均的日本人顔、ごく普通の高校生だったが、神の戯れで超絶美形だらけの異世界に送られてしまった。その世界でイチは「カワイイ」存在として扱われてしまう。”夏の国”で保護され、国王から寵愛を受け、想いを通じ合ったが、春、冬、秋の国へと飛ばされ、それぞれの王から寵愛を受けることに……。  ※子供は出来ますが、妊娠・出産シーンはありません。自然発生。 ※複数の攻めと関係あります。(3Pとかはなく、個別イベント) ※「黒の王とスキーに行く」は最後まではしませんが、ザラーム×アブヤドな話になります。

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

処理中です...