22 / 24
22
しおりを挟む
しばらく黙って走り続けた2人は、ようやく足を止めると、荒い呼吸を繰り返した。
「ああー、疲れた!
こんなに走ったのは、いつぶりだろう」
「ほ、本当に……疲れました!
もう足が動きません……」
無理に動かし続けた足は、ガクガクと震えていて、使い物にならなくなってしまっている。
アリシアは深く息を吐き出して、その場にへたり込んでしまった。
リアンもそれに倣って隣に腰を下ろすと、アリシアの顔を覗き込んできた。
「大丈夫?ビクター様、すごかったね」
「すごかったですね…….。
リアン様には大変ご迷惑をおかけして……」
アリシアは、しおらしく頭を下げたが、彼は笑顔さえ浮かべながら、そんなこと何でもないというふうに頭を横に振った。
「別に、迷惑じゃないさ。
むしろ面白かったよ」
「……面白がらないで下さいよ。
私は本気で困ってたんですから」
「でも、もうこれで大丈夫でしょ?」
リアンに言われて、アリシアは弱々しく微笑んだ。
「大丈夫……だと良いんですけど」
しかしリアンは、アリシアの不安など吹き飛ばしてしまいそうな明るい笑い声を上げると
「大丈夫だって!
なにしろ、アリシアにはもう、新しい婚約者がいるんだから」
と、素早くアリシアの肩に手を回してくると、ギュッと抱き寄せた。
途端にアリシアの頭がガクンと揺れて、リアンの肩にもたれかかったものだから、彼女は真っ赤になってしまった。
「ちょ、ちょっと!
その設定は、もう必要ないですって!」
と、慌てて否定しながら、体を起こそうと力を入れる。
ところがリアンが、肩にかけた手をどかそうとしないものだから、体を離すことができなくて。
無様にジタバタともがくばかり。
それを悠長に眺めながら、リアンは微笑んでいた。
「設定?なにそれ」
「だ、だから!私とリアン様が婚約したっていう……あれですよ」
「ああ、婚約ね」
「そう、それです!
で、ですから、離してください!
こんなところ誰かに見られたら大変ですよ!」
アリシアは、なんとか彼の腕をどかそうと奮闘していたが、リアンが静かな声で
「僕は本気だけど」
と言うのを聞くと、パタリと動きを止めた。
「本気……と言いますと?」
「だから、本気でアリシアと婚約したつもりでいるよっていうこと」
言いながら、リアンは体勢を整えると、アリシアに正面から向き合った。
それから、ポカンとしたままの彼女の手を取ると
「芝居なんかじゃなくて、本当に、私と婚約してくれませんか?」
と、満面の笑みを浮かべたのである。
「ああー、疲れた!
こんなに走ったのは、いつぶりだろう」
「ほ、本当に……疲れました!
もう足が動きません……」
無理に動かし続けた足は、ガクガクと震えていて、使い物にならなくなってしまっている。
アリシアは深く息を吐き出して、その場にへたり込んでしまった。
リアンもそれに倣って隣に腰を下ろすと、アリシアの顔を覗き込んできた。
「大丈夫?ビクター様、すごかったね」
「すごかったですね…….。
リアン様には大変ご迷惑をおかけして……」
アリシアは、しおらしく頭を下げたが、彼は笑顔さえ浮かべながら、そんなこと何でもないというふうに頭を横に振った。
「別に、迷惑じゃないさ。
むしろ面白かったよ」
「……面白がらないで下さいよ。
私は本気で困ってたんですから」
「でも、もうこれで大丈夫でしょ?」
リアンに言われて、アリシアは弱々しく微笑んだ。
「大丈夫……だと良いんですけど」
しかしリアンは、アリシアの不安など吹き飛ばしてしまいそうな明るい笑い声を上げると
「大丈夫だって!
なにしろ、アリシアにはもう、新しい婚約者がいるんだから」
と、素早くアリシアの肩に手を回してくると、ギュッと抱き寄せた。
途端にアリシアの頭がガクンと揺れて、リアンの肩にもたれかかったものだから、彼女は真っ赤になってしまった。
「ちょ、ちょっと!
その設定は、もう必要ないですって!」
と、慌てて否定しながら、体を起こそうと力を入れる。
ところがリアンが、肩にかけた手をどかそうとしないものだから、体を離すことができなくて。
無様にジタバタともがくばかり。
それを悠長に眺めながら、リアンは微笑んでいた。
「設定?なにそれ」
「だ、だから!私とリアン様が婚約したっていう……あれですよ」
「ああ、婚約ね」
「そう、それです!
で、ですから、離してください!
こんなところ誰かに見られたら大変ですよ!」
アリシアは、なんとか彼の腕をどかそうと奮闘していたが、リアンが静かな声で
「僕は本気だけど」
と言うのを聞くと、パタリと動きを止めた。
「本気……と言いますと?」
「だから、本気でアリシアと婚約したつもりでいるよっていうこと」
言いながら、リアンは体勢を整えると、アリシアに正面から向き合った。
それから、ポカンとしたままの彼女の手を取ると
「芝居なんかじゃなくて、本当に、私と婚約してくれませんか?」
と、満面の笑みを浮かべたのである。
10
お気に入りに追加
146
あなたにおすすめの小説
死ぬはずだった令嬢が乙女ゲームの舞台に突然参加するお話
みっしー
恋愛
病弱な公爵令嬢のフィリアはある日今までにないほどの高熱にうなされて自分の前世を思い出す。そして今自分がいるのは大好きだった乙女ゲームの世界だと気づく。しかし…「藍色の髪、空色の瞳、真っ白な肌……まさかっ……!」なんと彼女が転生したのはヒロインでも悪役令嬢でもない、ゲーム開始前に死んでしまう攻略対象の王子の婚約者だったのだ。でも前世で長生きできなかった分今世では長生きしたい!そんな彼女が長生きを目指して乙女ゲームの舞台に突然参加するお話です。
*番外編も含め完結いたしました!感想はいつでもありがたく読ませていただきますのでお気軽に!
記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。
ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。
毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。
【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。
早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。
宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。
彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。
加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。
果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?
28【完結】父と兄が居なくなり、私一人、、、助けてくれたのは好きな人
華蓮
恋愛
父と兄が当然この世からいなくなった。
どうしたらいいかわからなかったけど、
私の大好きな人が、結婚してくれて、伯爵を継ぐことになった。
大好きな人と一緒に過ごせるカルリーナは、幸せだった。
だけど、、、、
私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした
さこの
恋愛
幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。
誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。
数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。
お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。
片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。
お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……
っと言った感じのストーリーです。
好きな人と友人が付き合い始め、しかも嫌われたのですが
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ナターシャは以前から恋の相談をしていた友人が、自分の想い人ディーンと秘かに付き合うようになっていてショックを受ける。しかし諦めて二人の恋を応援しようと決める。だがディーンから「二度と僕達に話しかけないでくれ」とまで言われ、嫌われていたことにまたまたショック。どうしてこんなに嫌われてしまったのか?卒業パーティーのパートナーも決まっていないし、どうしたらいいの?
モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~
咲桜りおな
恋愛
前世で大好きだった乙女ゲームの世界にモブキャラとして転生した伯爵令嬢のアスチルゼフィラ・ピスケリー。
ヒロインでも悪役令嬢でもないモブキャラだからこそ、推しキャラ達の恋物語を遠くから鑑賞出来る! と楽しみにしていたら、関わりたくないのに何故か悪役令嬢の兄である騎士見習いがやたらと絡んでくる……。
いやいや、物語の当事者になんてなりたくないんです! お願いだから近付かないでぇ!
そんな思いも虚しく愛しの推しは全力でわたしを口説いてくる。おまけにキラキラ王子まで絡んで来て……逃げ場を塞がれてしまったようです。
結構、ところどころでイチャラブしております。
◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆
前作「完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい」のスピンオフ作品。
この作品だけでもちゃんと楽しんで頂けます。
番外編集もUPしましたので、宜しければご覧下さい。
「小説家になろう」でも公開しています。
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる