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ネリーは驚きのあまり、一瞬、息をするのも忘れてしまっていた。

自分の意志とは関係なく、心臓が痛いほどに飛び跳ねている。
しかしそれは不思議と、嫌な痛みではなかった。

「そ、それはまた……急なお話ですな」

伯爵が言うと、シェイマスは軽く頭を下げた。

「申し訳ありません。
ただ、万が一マーティとネリー嬢の婚約が、元通り継続することにでもなっては、遅いと思ったものですから。
マーティのご両親との話し合いの前に、私の思いを伝えておきたかったのです」
「はあ……なるほど」

伯爵は鷹揚に頷いた。
そして

「どう思うね、ネリー?」

と意見を求められて、ネリーは思わず飛び上がりそうになってしまった。

両親が心配そうな目を向けてくる。
その上チラッと見れば、シェイマスも、じっとこちらを見ている。

皆の視線を意識してしまえば、みるみる頬が熱くなって。
鏡など見なくても、耳まで赤くなっているだろうことは予想がつくほどだった。


正直、嬉しくないはずがなかった。


しかし、マーティとの婚約を破棄した途端に、今度はシェイマスと婚約をするというのは、どうにも躊躇われて。

言葉が出てこない。

それに、マーティに裏切られた心の傷が、まだ塞がっていなかった。
その上、次はシェイマスにまで裏切られたらと思うと、怖くて。
不安に頬が引きつるばかりだ。

そんな娘の様子を案じたのだろう。

まだ何も言えずにいるネリーの代わりに口を開いたのは、伯爵夫人だった。

「本当に、ありがたいお話だと思いますわ。
ただ、まだネリーは、気持ちの整理がつかないようですので……」

と、娘の肩を撫でながら言いかけたのだったが、突然のノックの音が、またしてもそれを遮った。

「またか……」

伯爵がため息をつきながら、「なんだ?」と扉に向かって声をかけると、使用人の声が答えた。

「アリス様がいらっしゃっております。
どうもシェイマス様に急用があるとか……」

言い終わらないうちに、ノブが音を立てて回ったものだから、その場にいた皆が一斉に息を呑んだ。
そして、まるで飛び込むようにして入ってきたアリスに、目を丸くした。

「シェイマス!ああ、やっと会えた!」

アリスは一目散にシェイマスへと駆けて行くと、彼が口を開く隙も与えずに、その胸に抱きついた。
目を丸くしているネリーと、シェイマスの目が、アリスの肩越しにバチリと合う。

ネリーは、ぐっと下唇を噛み締めた。
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