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マーティがアリスにキスをした瞬間、ネリーは体中の血が凍り付いてしまったような気がした。
隣ではシェイマスが何か叫んでいるようだったが、まるで外国語でも話しているのかと思うほど、理解することが出来ない。
ショックのあまり、彼女の意思とは関係なく、脳が全てを遮断してしまったようだった。
しかし、不思議と悲しくはなかった。
もう涙は浮かんでこない。
代わりに胸の奥底からふつふつと沸き上がってきたのは、怒りだった。
ネリーは強く唇を嚙み締めて、マーティとアリスを睨んだ。
窓の向こうでは、アリスが言葉にならない悲鳴を上げながら、必死にマーティーの胸を押し返している。
それでも強引に彼女の白い指を懸命に握りしめながら、マーティーは訴えていた。
「確かに婚約しているのはネリーだ。
でも、アリスのことがずっと好きだったんだよ。
もう抑えきれないんだ!
それにアリスだって同じ気持ちだろう?」
「ちょっと、何おかしなこと言ってるのよ!
とにかく、離してちょうだい!」
アリスが強くマーティを押したものだから、彼は力なく座席にもたれかかった。
アリスの言葉がショックだったと見えて、しばらく口をパクパクさせていたが、そのまま動かなくなってしまった。
不意に、こちらに顔を向けてきたアリスと目が合った。
さすがの彼女も、いつもの可愛らしい笑顔を浮かべるどころではなく、青ざめてしまっている。
そして気まずそうに目を逸らした。
一方のネリーは、じっとアリスを見つめたままだった。
いつもなら、ネリーの方が先に目を伏せてしまうだろう。
しかし、今やアリスなど、どうでも良かった。
マーティさえも、もうどうでもいい、という気持ちだったのである。
「……もう、いい」
ネリーは呟いた。
「え?」
シェイマスが、驚いたように振り向く。
ネリーはまっすぐにアリスとマーティを見据えたまま、はっきりと言った。
「マーティ。あなたとの婚約は、今日限りで破棄させて頂きます」
冷静に、でも出来る限り大きな声で言った為、マーティとアリスにも聞こえたはずだ。
案の定アリスもマーティも目を見開いたまま、動かなくなってしまった。
が、すぐにマーティは動いた。
すぐさまアリスに向き直ると、満面の笑みを浮かべたのである。
「聞いただろう!?
これで僕たちの間に障害はなくなった!
結婚できるんだよ!」
……そんなことを言う前に、私に向かって何か言うことがあるでしょう。
ネリーはほとほと呆れてしまった。
こんな男に気持ちを寄せていた自分が、馬鹿らしく思える。
ところが、喜ぶマーティとは対照的に、アリスの顔には明らかに焦りの色が見えた。
「婚約を破棄されるなんて言われて、何を喜んでるのよ!
それに私はシェイマスと婚約しているのよ!」
と言い捨てて、必死に馬車の窓に飛びつくなり、シェイマスの名を呼んだ。
「助けて、シェイマス!
マーティが何か誤解しているみたいなのよ!」
こんな状況でさえも、涙を浮かべたアリスの、なんと可愛らしいことか。
首を傾げる角度も、上目をつかうタイミングも、全部計算通りなのではないかとさえ思えてくる。
こんなふうに助けを求められれば、きっとシェイマスも、ほいほい飛んでいくのだろう。
そう考えながら、ネリーはシェイマスを横目で見たのだったが。
思いがけず、彼は微動だにしなかった。
それどころか、いつになく厳しい顔で、じっとアリスを見ながら言ったのである。
「僕も、きみとの婚約は、今日限りで破棄させてもらうよ。アリス」
隣ではシェイマスが何か叫んでいるようだったが、まるで外国語でも話しているのかと思うほど、理解することが出来ない。
ショックのあまり、彼女の意思とは関係なく、脳が全てを遮断してしまったようだった。
しかし、不思議と悲しくはなかった。
もう涙は浮かんでこない。
代わりに胸の奥底からふつふつと沸き上がってきたのは、怒りだった。
ネリーは強く唇を嚙み締めて、マーティとアリスを睨んだ。
窓の向こうでは、アリスが言葉にならない悲鳴を上げながら、必死にマーティーの胸を押し返している。
それでも強引に彼女の白い指を懸命に握りしめながら、マーティーは訴えていた。
「確かに婚約しているのはネリーだ。
でも、アリスのことがずっと好きだったんだよ。
もう抑えきれないんだ!
それにアリスだって同じ気持ちだろう?」
「ちょっと、何おかしなこと言ってるのよ!
とにかく、離してちょうだい!」
アリスが強くマーティを押したものだから、彼は力なく座席にもたれかかった。
アリスの言葉がショックだったと見えて、しばらく口をパクパクさせていたが、そのまま動かなくなってしまった。
不意に、こちらに顔を向けてきたアリスと目が合った。
さすがの彼女も、いつもの可愛らしい笑顔を浮かべるどころではなく、青ざめてしまっている。
そして気まずそうに目を逸らした。
一方のネリーは、じっとアリスを見つめたままだった。
いつもなら、ネリーの方が先に目を伏せてしまうだろう。
しかし、今やアリスなど、どうでも良かった。
マーティさえも、もうどうでもいい、という気持ちだったのである。
「……もう、いい」
ネリーは呟いた。
「え?」
シェイマスが、驚いたように振り向く。
ネリーはまっすぐにアリスとマーティを見据えたまま、はっきりと言った。
「マーティ。あなたとの婚約は、今日限りで破棄させて頂きます」
冷静に、でも出来る限り大きな声で言った為、マーティとアリスにも聞こえたはずだ。
案の定アリスもマーティも目を見開いたまま、動かなくなってしまった。
が、すぐにマーティは動いた。
すぐさまアリスに向き直ると、満面の笑みを浮かべたのである。
「聞いただろう!?
これで僕たちの間に障害はなくなった!
結婚できるんだよ!」
……そんなことを言う前に、私に向かって何か言うことがあるでしょう。
ネリーはほとほと呆れてしまった。
こんな男に気持ちを寄せていた自分が、馬鹿らしく思える。
ところが、喜ぶマーティとは対照的に、アリスの顔には明らかに焦りの色が見えた。
「婚約を破棄されるなんて言われて、何を喜んでるのよ!
それに私はシェイマスと婚約しているのよ!」
と言い捨てて、必死に馬車の窓に飛びつくなり、シェイマスの名を呼んだ。
「助けて、シェイマス!
マーティが何か誤解しているみたいなのよ!」
こんな状況でさえも、涙を浮かべたアリスの、なんと可愛らしいことか。
首を傾げる角度も、上目をつかうタイミングも、全部計算通りなのではないかとさえ思えてくる。
こんなふうに助けを求められれば、きっとシェイマスも、ほいほい飛んでいくのだろう。
そう考えながら、ネリーはシェイマスを横目で見たのだったが。
思いがけず、彼は微動だにしなかった。
それどころか、いつになく厳しい顔で、じっとアリスを見ながら言ったのである。
「僕も、きみとの婚約は、今日限りで破棄させてもらうよ。アリス」
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