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「そう……ですね」 

答えたアリスの声が、いつになく暗い。
しかし、それに対するイーディスの返事は、底抜けに明るかった。

「やっぱり、そう思いますよねー!
うんうん。良かったわね、ネリー」
「あ……うん。そうね」

ネリーは言いながらも、チラリと横目でアリスを見た。
しかし意外にも彼女は、いつも通りの笑顔を浮かべているように見えた。

むしろ怪訝な顔をしているのは、マーティの方のようにネリーには思えた。
婚約者とお似合いだと、真っ当な褒め言葉をかけられただけだというのに、だ。

ひそめられたマーティの眉を見ていると、ネリーの胸は一瞬、ズキンと痛んだ。
が、すぐに彼女はマーティから目を逸らすと、ぶるぶる頭を振った。


とにかく今日は、何も考えない!
どうせ今夜は頭が回らないし、考えたところで、悪い想像ばかりが膨らんでいくに決まっているんだから!


そう心の中で、繰り返し唱える。

軽く目を閉じて、深く息を吸って。
再び開いた、その時。

アリスとバチリと目が合って、ネリーは思わずギョッとしてしまった。
しかしアリスはただ、いつもの天使のような微笑みを浮かべただけだった。
そして、大きな瞳をクルッと回してイーディスに向けると

「そうだ!今度イーディス様も、私の家にいらっしゃいませんか?
この前、ネリー様とマーティ、シェイマスに私の4人でお茶会をしたんです。
次はそこにイーディス様が来てくだされば、もっと楽しくなりそうだわ」

と、無邪気な笑い声を上げた。
そしてイーディスが

「まあ、楽しそうですね。
私も是非伺いたいですわ」

と言うのを聞くと、「嬉しい!」とピョンピョン飛び跳ねる。
そして、何気なくマーティの横に並んだ。

ただ、それだけのことだったはずだ。
それなのに。

ネリーは自分の目を疑って、化粧が崩れることなど気にもせずに、グリグリと目をこすった。

アリスが、大きく膨らんだスカートに隠すようにして、マーティの手を握った……ように見えたのだ。


……いや、まさか……そんな大胆な……ね。


ネリーは目を見開いたが、アリスとマーティ2人とも、手を背中で組むようにして立っている為、互いの手を取っているのかどうかまでは分からなかった。
彼らの後ろはすぐ壁だから、万が一手を繋いでいたとしても、他の人からは全く見えないだろう。


……見間違いに決まってるわ。


そう思ってアリスに目をやると、彼女は長いまつ毛の下から、美しい瞳を向けてきた。
ゾクリとするほどのまっすぐな視線に、思わずネリーは目を逸らしてしまった。

それから、恐る恐る目を戻すと、もうアリスはこちらを見てはいなかった。
そして、アリスとマーティとの間には、わずかに隙間が空いていた。

「やだもう!イーディス様ったら、お話が上手ですのね」

アリスの笑い声が頭に響く。
ネリーは耳の奥に痛みを感じて、顔をしかめた。
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