46 / 73
46
しおりを挟む
「まったくマーティ様ったら、何を考えているのかしら!
いくら政略結婚とは言え、ネリーという婚約者がありながら、アリス様と抱き合っているなんて!
そもそもアリス様も悪いのよね。
シェイマス様がいるのに、マーティ様の気も引こうとして……」
とイーディスは止まらない。
「いくらなんでも、不貞行為までしているとは思わなかったわ」
「不貞行為……よね、あれは」
「そりゃそうよ!もしかしたら、抱き合う以上のことだって……」
言いかけたイーディスの声が、ふっと消えた。
そして心配そうな目つきになって、顔を覗き込んでくる。
「……ごめんなさい。
怒るより、まずは、あなたを慰めるべきだったわよね」
そう言いながら頬を撫でられて、イーディスは初めて自分が泣いていることに気がついた。
ネリーは慌ててハンカチを取り出すと、顔に押し当てる。
「あれ……おかしいわね。
泣くつもりなんてなかったのに」
「大丈夫よ。私以外には誰も見ていないから。
いつも、マーティ様との婚約が羨ましいなんて言って、ごめんなさいね。
こんなにひどい方だったなんて!」
「いいの。私だって、まさかマーティが……こんなこと……」
ネリーはしばらくの間、声を殺して、ポロポロと涙を流した。
その間、イーディスは黙ったまま、まるで母親がするように優しく背中を撫で続けてくれた。
いつもお喋りが止まらない彼女が、口を閉ざして温かい眼差しを向けていてくれる。
その優しさが、傷ついたネリーの心に、じんわりと染み込んでいって。
少しずつ、嗚咽はおさまっていった。
「……なんだか、泣くだけ泣いたらスッキリしたわ」
ようやくハンカチを顔から離すと、ネリーは大きく息を吐き出した。
「それなら良かった」
少し顔色の良くなった友人を見て、イーディスの顔もパッと明るくなる。
「それで……どうするの?
不貞行為をしているとなれば、婚約は破棄することが出来るんじゃない?
完全にマーティ様が悪いもの」
「うーん……」
ネリーは、少し考えていたが、ゆるゆると首を横に振ると、力無く笑った。
「まだそこまでは頭が回らないわ。
今は何も考えたくない……。
とにかく今日は早く寝て、明日ゆっくり考えてみるわ」
「そう……?」
イーディスは不満そうに唇を尖らせてはいたが、それ以上は何も言わなかった。
しかし、
「でも、あの2人には釘を刺しておかないとね」
と独り言のように呟いたのだった。
いくら政略結婚とは言え、ネリーという婚約者がありながら、アリス様と抱き合っているなんて!
そもそもアリス様も悪いのよね。
シェイマス様がいるのに、マーティ様の気も引こうとして……」
とイーディスは止まらない。
「いくらなんでも、不貞行為までしているとは思わなかったわ」
「不貞行為……よね、あれは」
「そりゃそうよ!もしかしたら、抱き合う以上のことだって……」
言いかけたイーディスの声が、ふっと消えた。
そして心配そうな目つきになって、顔を覗き込んでくる。
「……ごめんなさい。
怒るより、まずは、あなたを慰めるべきだったわよね」
そう言いながら頬を撫でられて、イーディスは初めて自分が泣いていることに気がついた。
ネリーは慌ててハンカチを取り出すと、顔に押し当てる。
「あれ……おかしいわね。
泣くつもりなんてなかったのに」
「大丈夫よ。私以外には誰も見ていないから。
いつも、マーティ様との婚約が羨ましいなんて言って、ごめんなさいね。
こんなにひどい方だったなんて!」
「いいの。私だって、まさかマーティが……こんなこと……」
ネリーはしばらくの間、声を殺して、ポロポロと涙を流した。
その間、イーディスは黙ったまま、まるで母親がするように優しく背中を撫で続けてくれた。
いつもお喋りが止まらない彼女が、口を閉ざして温かい眼差しを向けていてくれる。
その優しさが、傷ついたネリーの心に、じんわりと染み込んでいって。
少しずつ、嗚咽はおさまっていった。
「……なんだか、泣くだけ泣いたらスッキリしたわ」
ようやくハンカチを顔から離すと、ネリーは大きく息を吐き出した。
「それなら良かった」
少し顔色の良くなった友人を見て、イーディスの顔もパッと明るくなる。
「それで……どうするの?
不貞行為をしているとなれば、婚約は破棄することが出来るんじゃない?
完全にマーティ様が悪いもの」
「うーん……」
ネリーは、少し考えていたが、ゆるゆると首を横に振ると、力無く笑った。
「まだそこまでは頭が回らないわ。
今は何も考えたくない……。
とにかく今日は早く寝て、明日ゆっくり考えてみるわ」
「そう……?」
イーディスは不満そうに唇を尖らせてはいたが、それ以上は何も言わなかった。
しかし、
「でも、あの2人には釘を刺しておかないとね」
と独り言のように呟いたのだった。
0
お気に入りに追加
427
あなたにおすすめの小説
余命七日の治癒魔法師
鈴野あや(鈴野葉桜)
恋愛
王太子であるレオナルドと婚約をし、エマは順風満帆な人生を送っていた。
しかしそれは唐突に終わりを告げられる。
【魔力過多症】と呼ばれる余命一年を宣告された病気によって――。
※完結まで毎日更新予定です。(分量はおよそ文庫本一冊分)
※小説家になろうにも掲載しています。
私を嫌っていた冷徹魔導士が魅了の魔法にかかった結果、なぜか私にだけ愛を囁く
魚谷
恋愛
「好きだ、愛している」
帝国の英雄である将軍ジュリアは、幼馴染で、眉目秀麗な冷血魔導ギルフォードに抱きしめられ、愛を囁かれる。
混乱しながらも、ジュリアは長らく疎遠だった美形魔導師に胸をときめかせてしまう。
ギルフォードにもジュリアと長らく疎遠だったのには理由があって……。
これは不器用な魔導師と、そんな彼との関係を修復したいと願う主人公が、お互いに失ったものを取り戻し、恋する物語
死ぬはずだった令嬢が乙女ゲームの舞台に突然参加するお話
みっしー
恋愛
病弱な公爵令嬢のフィリアはある日今までにないほどの高熱にうなされて自分の前世を思い出す。そして今自分がいるのは大好きだった乙女ゲームの世界だと気づく。しかし…「藍色の髪、空色の瞳、真っ白な肌……まさかっ……!」なんと彼女が転生したのはヒロインでも悪役令嬢でもない、ゲーム開始前に死んでしまう攻略対象の王子の婚約者だったのだ。でも前世で長生きできなかった分今世では長生きしたい!そんな彼女が長生きを目指して乙女ゲームの舞台に突然参加するお話です。
*番外編も含め完結いたしました!感想はいつでもありがたく読ませていただきますのでお気軽に!
今さら後悔しても知りません 婚約者は浮気相手に夢中なようなので消えてさしあげます
神崎 ルナ
恋愛
旧題:長年の婚約者は政略結婚の私より、恋愛結婚をしたい相手がいるようなので、消えてあげようと思います。
【奨励賞頂きましたっ( ゚Д゚) ありがとうございます(人''▽`)】 コッペリア・マドルーク公爵令嬢は、王太子アレンの婚約者として良好な関係を維持してきたと思っていた。
だが、ある時アレンとマリアの会話を聞いてしまう。
「あんな堅苦しい女性は苦手だ。もし許されるのであれば、君を王太子妃にしたかった」
マリア・ダグラス男爵令嬢は下級貴族であり、王太子と婚約などできるはずもない。
(そう。そんなに彼女が良かったの)
長年に渡る王太子妃教育を耐えてきた彼女がそう決意を固めるのも早かった。
何故なら、彼らは将来自分達の子を王に据え、更にはコッペリアに公務を押し付け、自分達だけ遊び惚けていようとしているようだったから。
(私は都合のいい道具なの?)
絶望したコッペリアは毒薬を入手しようと、お忍びでとある店を探す。
侍女達が話していたのはここだろうか?
店に入ると老婆が迎えてくれ、コッペリアに何が入用か、と尋ねてきた。
コッペリアが正直に全て話すと、
「今のあんたにぴったりの物がある」
渡されたのは、小瓶に入った液状の薬。
「体を休める薬だよ。ん? 毒じゃないのかって? まあ、似たようなものだね。これを飲んだらあんたは眠る。ただし」
そこで老婆は言葉を切った。
「目覚めるには条件がある。それを満たすのは並大抵のことじゃ出来ないよ。下手をすれば永遠に眠ることになる。それでもいいのかい?」
コッペリアは深く頷いた。
薬を飲んだコッペリアは眠りについた。
そして――。
アレン王子と向かい合うコッペリア(?)がいた。
「は? 書類の整理を手伝え? お断り致しますわ」
※お読み頂きありがとうございます(人''▽`) hotランキング、全ての小説、恋愛小説ランキングにて1位をいただきました( ゚Д゚)
(2023.2.3)
ありがとうございますっm(__)m ジャンピング土下座×1000000
※お読みくださり有難うございました(人''▽`) 完結しました(^▽^)
不要なモノを全て切り捨てた節約令嬢は、冷徹宰相に溺愛される~NTRもモラハラいりません~
美杉。節約令嬢、書籍化進行中
恋愛
皆様のお陰で、ホットランク一位を獲得しましたーーーーー。御礼申し上げます。
我が家はいつでも妹が中心に回っていた。ふわふわブロンドの髪に、青い瞳。まるでお人形さんのような妹シーラを溺愛する両親。
ブラウンの髪に緑の瞳で、特に平凡で地味な私。両親はいつでも妹優先であり、そして妹はなぜか私のものばかりを欲しがった。
大好きだった人形。誕生日に買ってもらったアクセサリー。そして今度は私の婚約者。
幼い頃より家との繋がりで婚約していたアレン様を妹が寝取り、私との結婚を次の秋に控えていたのにも関わらず、アレン様の子を身ごもった。
勝ち誇ったようなシーラは、いつものように婚約者を譲るように迫る。
事態が事態だけに、アレン様の両親も婚約者の差し替えにすぐ同意。
ただ妹たちは知らない。アレン様がご自身の領地運営管理を全て私に任せていたことを。
そしてその領地が私が運営し、ギリギリもっていただけで破綻寸前だったことも。
そう。彼の持つ資産も、その性格も全てにおいて不良債権でしかなかった。
今更いらないと言われても、モラハラ不良債権なんてお断りいたします♡
さぁ、自由自適な生活を領地でこっそり行うぞーと思っていたのに、なぜか冷徹と呼ばれる幼馴染の宰相に婚約を申し込まれて? あれ、私の計画はどうなるの……
※この物語はフィクションであり、ご都合主義な部分もあるかもしれません。
国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。
ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。
即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。
そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。
国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。
⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎
※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした
葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。
でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。
本編完結済みです。時々番外編を追加します。
心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。
木山楽斗
恋愛
人の心の声が聞こえるカルミアは、婚約者が自分のことを嫌っていることを知っていた。
そんな婚約者といつまでも一緒にいるつもりはない。そう思っていたカルミアは、彼といつか婚約破棄すると決めていた。
ある時、カルミアは婚約者が浮気していることを心の声によって知った。
そこで、カルミアは、友人のロウィードに協力してもらい、浮気の証拠を集めて、婚約者に突きつけたのである。
こうして、カルミアは婚約破棄して、自分を嫌っている婚約者から解放されるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる