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シェイマスの深い緑色の瞳に、まっすぐ見つめられると、ネリーの心臓は大きく跳ね上がった。
すっかり冷たくなってしまっていたはずの耳が、急に熱を帯びていく。

彼の瞳から目を逸らすことが出来ぬまま、つい手を取りそうになったが、寸前で動きを止めた。

「で、でも……」

ネリーが躊躇っていると、シェイマスは彼女の気持ちを察したのだろう。
さっと彼女の手を握ると、クルリと回して、ネリーをひと回りさせた。
そして、キョトンとしている彼女に優しい眼差しを向けながら、反対の手をネリーの背に当てて、滑らかに足を動かし始めたのである。

「だったら、テラスで、こっそりなら良いでしょう?
ここなら誰も見ませんよ。
マーティもアリスも、ね」

歯を見せて笑うシェイマスの表情は、まるで悪戯っ子のようだった。
これにはネリーもつられて微笑んでしまった。

「……そうですね」

部屋の中からは、音楽とともに、楽しげな笑い声や歓声が聞こえてきていた。
しかし2人のいるテラスは、あまりにも静かで。
その音も、どこか別の世界から聞こえてくるもののようにさえ思えた。

分厚い雲が流れ、ぽっかりと月が姿を見せる。
その柔らかい光を、シェイマスは見上げた。

「もう少し天気が良ければ、月も綺麗に見えたでしょうに。
残念ながら今日は、雲が多いですね」
「ええ。もう、ほとんどまん丸の、綺麗な月ですのに」

月明かりのせいか、いつも以上にシェイマスは輝いているように見えた。
マーティと婚約する前だったら、決して彼には近づこうとも思わなかっただろう。
しかし今、彼は自分の手を取り、微笑んでいる。


……なんだか不思議な気分ね。


と、ネリーは思いながら、足を動かしていたのだったが、ふいにシェイマスが

「月明かりに照らされていると、ネリー様はいつも以上に美しく見えますね」

と呟いたものだから、ビックリしてしまった。
まさか、同じことを考えていたとは。

それも、自分のことを美しいと言うなんて。

貴族の間では、褒め言葉は単なるマナーだ。
頭ではそう分かってはいても、ネリーは思わず顔を赤らめずにはいられなかった。

仮面をしていて良かった、と心から思った。
これなら、シェイマスには気づかれまい。

「……ありがとうございます。
仮面をかぶっているせいで、いつもとは雰囲気が違って見えるのでしょうね」
「そういう意味では……」

シェイマスは言ってから、ふと黙り込んだ。
そして、まだ音楽が続いているというのに足を止めたものだから、ネリーは彼の胸に顔をぶつけてしまった。

「痛っ……」

何事かと彼を見上げると、シェイマスはそっと手を伸ばして、ネリーの仮面に手をかけた。
そして

「仮面をしていても、していなくても、あなたはとても魅力的ですよ」

と、まるで独り言のように呟いた。 
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