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しおりを挟む「シェリナ様!」
ウォーレンは馬車を降りるなり、駆け寄ってくると
「約束もしていないのに、押しかけてすみません。
ウォーレン・トルストイと申します」
と、まずはルキアに向かって頭を下げた。
「母のルキア・ブライスです。
ええ、もちろん存じておりますわ。
お噂は夫と娘から、色々と聞いていますのよ」
ルキアがニヤニヤ笑いながら見て来るものだから、シェリナは、ぷいっと顔を背ける。
が、今度は、その先にいたウォーレンとバッチリ目があってしまって、慌てて目を伏せた。
「とにかく中へどうぞ。
すぐにお茶を持って来させますから」
ルキアの言葉で、一同は応接間へと移動した。
そしてソファーに腰掛けるなり、口を開いたのはウォーレンだった。
「お優しいシェリナ様のことですから、色々と気にしていらっしゃるのではと心配で……。
いても立ってもいられず、来てしまいました」
「あらあら、そうでしたの。
親切にしていただいて……シェリナは幸せな娘ですわ」
ルキアは小さく頭を下げた。
それから
「夫は、ちょうど今、モーリスの家に話し合いに出かけたところですの。
だからシェリナも色々考えて、気分が塞いでしまっているようでしてね。
タイミング良くウォーレン様がいらっしゃって、助かりましたわ」
とウォーレンに微笑んでみせた。
「私は少し用事があるものですから、これで失礼しますわ。
でもウォーレン様は、どうぞ、ゆっくりしていって下さいね」
「ありがとうございます」
ルキアが立ち上がったのと同時に、使用人がお茶を運んできた。
ティーポットやカップが手際よく並べられていくのを横目に、ルキアは部屋を出て行こうとしたが、扉を出たところで振り向いた。
「ちょっと」
「はい、奥様」
使用人が背筋を伸ばす。
するとルキアは彼の耳元に顔を寄せると
「シェリナとウォーレン様を2人きりにさせてはダメよ。
私はトーマスみたいに甘くはないんですからね」
と、内緒話でもするように言った。
が、わざとシェリナとウォーレンにも聞こえるように大きな声で言ったのだろう。
完璧に聞こえてしまった2人は、思わず顔を見合わせてから、耳まで真っ赤になってしまって、慌ててお互いそっぽを向く羽目になったのだった。
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