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時を遡ること、数ヶ月前。
マデリンは自宅の庭で男達に囲まれていた。
白いパラソルの下で、紅茶を片手に微笑む彼女に、男達は入れ替わり立ち替わり話しかけてくる。
そのほとんどが自分よりも身分が高いのだと思うと、マデリンはニヤニヤ笑いが止まらなかった。
身分に関係なく、男達は自分に媚を売り、機嫌を取ろうと必死になる。
それが心地よくて、うっとりと目を閉じた。
「マデリン、今日は一段と美しいですね。新しいドレスが、よくお似合いですよ」
と1人が言えば
「本当にその通りです。
まあ、あなただったら、どんなドレスも着こなせるでしょうがね」
と1人が請け合う。
そんな様子を女達は遠目で見ながら、眉をひそめて、コソコソ囁いているのがマデリンにも分かっていたが、そんなことは気にならなかった。
むしろ妬まれるのは気持ちがいいくらいだ。
羨ましいでしょう、とばかりに女性達を横目で見ると、彼女達は慌てて扇で顔を隠す。
それを見ると、マデリンはますますいい気分になった。
そこへ1人の青年が声をかけて来たものだから、マデリンは顔を上げた。
「昨晩の舞台も素敵でしたよ。あなたの歌声に敵う人はいない。
まさに、あなたはこの国のプリンセスです」
「まあ、ありがとう」
と笑顔を浮かべたが、途端に目を伏せて、ちょっと唇をとがらせると、
「それで、一緒にいらしていた可愛らしい方はどなたでしたの?」
と、すねたように、呟いた。
すると青年は慌てたような口調になった。
「い、いやだな、気がついていたんですか。
彼女はただの友人ですよ。是非あなたのオペラが見たいというものですから……」
と必死になって言い訳をつらねてくる。
それをマデリンはクスクス笑いながら眺めていた。
「まあまあ、プリンセス。その辺にしておいてあげて下さい。
あんまり意地悪を言うと、可哀想ですよ」
と男の1人が助け舟を出す。
「あら、いやだ。意地悪だなんて。
ただ、他の女性といらっしゃるのを見たものですから、ヤキモチをやいてしまいましたのよ」
「おやおや。あなたにヤキモチをやいてもらえるのなら、私も女性と散歩にでも行くべきでしょうかね」
「まあ、それこそ意地悪なおっしゃりようですわ」
マデリンはここで、白い歯をほんの少し覗かせて、笑顔を浮かべた。
こうすれば、男達はハッとして見入ってしまうことを、彼女は知っていた。
オペラ歌手として舞台に上がっている時も、この笑顔を作り、堂々と歌い上げれば、どんな男も自分に夢中になる。
その自信が彼女にはあったのだ。
彼女を気に入った男は数知れなかったが、その中にギレット子爵もいた。
彼は舞台に立つマデリンを一目で気に入り、援助する為にと、養子にまでしてくれたのである。
おかげでマデリンは子爵令嬢という身分まで手に入れたのだった。
マデリンは自宅の庭で男達に囲まれていた。
白いパラソルの下で、紅茶を片手に微笑む彼女に、男達は入れ替わり立ち替わり話しかけてくる。
そのほとんどが自分よりも身分が高いのだと思うと、マデリンはニヤニヤ笑いが止まらなかった。
身分に関係なく、男達は自分に媚を売り、機嫌を取ろうと必死になる。
それが心地よくて、うっとりと目を閉じた。
「マデリン、今日は一段と美しいですね。新しいドレスが、よくお似合いですよ」
と1人が言えば
「本当にその通りです。
まあ、あなただったら、どんなドレスも着こなせるでしょうがね」
と1人が請け合う。
そんな様子を女達は遠目で見ながら、眉をひそめて、コソコソ囁いているのがマデリンにも分かっていたが、そんなことは気にならなかった。
むしろ妬まれるのは気持ちがいいくらいだ。
羨ましいでしょう、とばかりに女性達を横目で見ると、彼女達は慌てて扇で顔を隠す。
それを見ると、マデリンはますますいい気分になった。
そこへ1人の青年が声をかけて来たものだから、マデリンは顔を上げた。
「昨晩の舞台も素敵でしたよ。あなたの歌声に敵う人はいない。
まさに、あなたはこの国のプリンセスです」
「まあ、ありがとう」
と笑顔を浮かべたが、途端に目を伏せて、ちょっと唇をとがらせると、
「それで、一緒にいらしていた可愛らしい方はどなたでしたの?」
と、すねたように、呟いた。
すると青年は慌てたような口調になった。
「い、いやだな、気がついていたんですか。
彼女はただの友人ですよ。是非あなたのオペラが見たいというものですから……」
と必死になって言い訳をつらねてくる。
それをマデリンはクスクス笑いながら眺めていた。
「まあまあ、プリンセス。その辺にしておいてあげて下さい。
あんまり意地悪を言うと、可哀想ですよ」
と男の1人が助け舟を出す。
「あら、いやだ。意地悪だなんて。
ただ、他の女性といらっしゃるのを見たものですから、ヤキモチをやいてしまいましたのよ」
「おやおや。あなたにヤキモチをやいてもらえるのなら、私も女性と散歩にでも行くべきでしょうかね」
「まあ、それこそ意地悪なおっしゃりようですわ」
マデリンはここで、白い歯をほんの少し覗かせて、笑顔を浮かべた。
こうすれば、男達はハッとして見入ってしまうことを、彼女は知っていた。
オペラ歌手として舞台に上がっている時も、この笑顔を作り、堂々と歌い上げれば、どんな男も自分に夢中になる。
その自信が彼女にはあったのだ。
彼女を気に入った男は数知れなかったが、その中にギレット子爵もいた。
彼は舞台に立つマデリンを一目で気に入り、援助する為にと、養子にまでしてくれたのである。
おかげでマデリンは子爵令嬢という身分まで手に入れたのだった。
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