上 下
21 / 39

21

しおりを挟む
時を遡ること、数ヶ月前。
マデリンは自宅の庭で男達に囲まれていた。
白いパラソルの下で、紅茶を片手に微笑む彼女に、男達は入れ替わり立ち替わり話しかけてくる。
そのほとんどが自分よりも身分が高いのだと思うと、マデリンはニヤニヤ笑いが止まらなかった。

身分に関係なく、男達は自分に媚を売り、機嫌を取ろうと必死になる。
それが心地よくて、うっとりと目を閉じた。

「マデリン、今日は一段と美しいですね。新しいドレスが、よくお似合いですよ」

と1人が言えば

「本当にその通りです。
まあ、あなただったら、どんなドレスも着こなせるでしょうがね」

と1人が請け合う。
そんな様子を女達は遠目で見ながら、眉をひそめて、コソコソ囁いているのがマデリンにも分かっていたが、そんなことは気にならなかった。
むしろ妬まれるのは気持ちがいいくらいだ。

羨ましいでしょう、とばかりに女性達を横目で見ると、彼女達は慌てて扇で顔を隠す。
それを見ると、マデリンはますますいい気分になった。

そこへ1人の青年が声をかけて来たものだから、マデリンは顔を上げた。

「昨晩の舞台も素敵でしたよ。あなたの歌声に敵う人はいない。
まさに、あなたはこの国のプリンセスです」
「まあ、ありがとう」

と笑顔を浮かべたが、途端に目を伏せて、ちょっと唇をとがらせると、

「それで、一緒にいらしていた可愛らしい方はどなたでしたの?」

と、すねたように、呟いた。
すると青年は慌てたような口調になった。

「い、いやだな、気がついていたんですか。
彼女はただの友人ですよ。是非あなたのオペラが見たいというものですから……」

と必死になって言い訳をつらねてくる。
それをマデリンはクスクス笑いながら眺めていた。

「まあまあ、プリンセス。その辺にしておいてあげて下さい。
あんまり意地悪を言うと、可哀想ですよ」

と男の1人が助け舟を出す。

「あら、いやだ。意地悪だなんて。
ただ、他の女性といらっしゃるのを見たものですから、ヤキモチをやいてしまいましたのよ」
「おやおや。あなたにヤキモチをやいてもらえるのなら、私も女性と散歩にでも行くべきでしょうかね」
「まあ、それこそ意地悪なおっしゃりようですわ」

マデリンはここで、白い歯をほんの少し覗かせて、笑顔を浮かべた。
こうすれば、男達はハッとして見入ってしまうことを、彼女は知っていた。

オペラ歌手として舞台に上がっている時も、この笑顔を作り、堂々と歌い上げれば、どんな男も自分に夢中になる。
その自信が彼女にはあったのだ。

彼女を気に入った男は数知れなかったが、その中にギレット子爵もいた。
彼は舞台に立つマデリンを一目で気に入り、援助する為にと、養子にまでしてくれたのである。
おかげでマデリンは子爵令嬢という身分まで手に入れたのだった。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

公爵令嬢は運命の相手を間違える

あおくん
恋愛
エリーナ公爵令嬢は、幼い頃に決められた婚約者であるアルベルト王子殿下と仲睦まじく過ごしていた。 だが、学園へ通うようになるとアルベルト王子に一人の令嬢が近づくようになる。 アルベルト王子を誑し込もうとする令嬢と、そんな令嬢を許すアルベルト王子にエリーナは自分の心が離れていくのを感じた。 だがエリーナは既に次期王妃の座が確約している状態。 今更婚約を解消することなど出来るはずもなく、そんなエリーナは女に現を抜かすアルベルト王子の代わりに帝王学を学び始める。 そんなエリーナの前に一人の男性が現れた。 そんな感じのお話です。

あなたとの縁を切らせてもらいます

しろねこ。
恋愛
婚約解消の話が婚約者の口から出たから改めて考えた。 彼と私はどうなるべきか。 彼の気持ちは私になく、私も彼に対して思う事は無くなった。お互いに惹かれていないならば、そして納得しているならば、もういいのではないか。 「あなたとの縁を切らせてください」 あくまでも自分のけじめの為にその言葉を伝えた。 新しい道を歩みたくて言った事だけれど、どうもそこから彼の人生が転落し始めたようで……。 さらりと読める長さです、お読み頂けると嬉しいです( ˘ω˘ ) 小説家になろうさん、カクヨムさん、ノベルアップ+さんにも投稿しています。

王太子の愚行

よーこ
恋愛
学園に入学してきたばかりの男爵令嬢がいる。 彼女は何人もの高位貴族子息たちを誑かし、手玉にとっているという。 婚約者を男爵令嬢に奪われた伯爵令嬢から相談を受けた公爵令嬢アリアンヌは、このまま放ってはおけないと自分の婚約者である王太子に男爵令嬢のことを相談することにした。 さて、男爵令嬢をどうするか。 王太子の判断は?

【完結】その人が好きなんですね?なるほど。愚かな人、あなたには本当に何も見えていないんですね。

新川ねこ
恋愛
ざまぁありの令嬢もの短編集です。 1作品数話(5000文字程度)の予定です。

婚約者が可愛い子猫ちゃんとやらに夢中で困っております

相馬香子
恋愛
ある日、婚約者から俺とソフィアの邪魔をしないでくれと言われました。 私は婚約者として、彼を正しい道へ導いてあげようとしたのですけどね。 仕方ないので、彼には現実を教えてあげることにしました。 常識人侯爵令嬢とおまぬけ王子のラブコメディです。

貴方に私は相応しくない【完結】

迷い人
恋愛
私との将来を求める公爵令息エドウィン・フォスター。 彼は初恋の人で学園入学をきっかけに再会を果たした。 天使のような無邪気な笑みで愛を語り。 彼は私の心を踏みにじる。 私は貴方の都合の良い子にはなれません。 私は貴方に相応しい女にはなれません。

女避けの為の婚約なので卒業したら穏やかに婚約破棄される予定です

くじら
恋愛
「俺の…婚約者のフリをしてくれないか」 身分や肩書きだけで何人もの男性に声を掛ける留学生から逃れる為、彼は私に恋人のふりをしてほしいと言う。 期間は卒業まで。 彼のことが気になっていたので快諾したものの、別れの時は近づいて…。

処理中です...