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「まあ、素敵な指輪!私に?」
「もちろんさ」

モーリスはマデリンの手を取ると、指輪をそっとはめてみせる。
ぴったりと収まった大きなダイヤモンドが、彼女の白い指の上でキラキラと輝いた。

「素敵だわ……うっとりしちゃう」

嬉しそうに微笑むマデリンの横顔を眺めながら、モーリスは、記憶を巡らせていた。
初めて会った時も、マデリンはこんなふうに笑顔を見せてくれたな、と……。


モーリスがイーストウッド国に着いた後、真面目に勉学に取り組んでいたのは、わずか10日ほどだった。
招待された舞踏会に渋々ながら出かけたところ、異国の人の話を聞きたいとたくさんの娘達に囲まれ、すっかり舞い上がってしまったのである。

おだてられるままに、調子に乗って少々話を大袈裟にするのを繰り返す。
すると娘たちは感激して、もっと、もっと、とねだってくる。
その時、初めてモーリスは、シェリナ以外の女性を意識した。
たくさんの女性たちに気に入られたい、という思いは、これまでに抱いたことはなかったのである。

今までは、シェリナという婚約者がいることは周知の事実だった。
それはまだ彼が物心がつく前から、そうだった。
その為、女性に言い寄られたことなどなかったのだ。
しかし、ここにきて、ついに彼は目覚めてしまったのだった。

浮かれた彼は、ついつい婚約者がいることを言いそびれた。
始めは、だ。
すぐに、言う機会があっても誤魔化すようになり、しまいには隠すようになっていった。

もちろん、いけないこととは分かっていた。
罪悪感から、かえって頻繁にシェリナへの手紙をしたためたりもした。
しかし、とうとうマデリンに出会ってからは、その罪悪感さえも頭から消えてしまった。
モーリスにとってマデリンとの出会いは、それほどの衝撃だったのである。

マデリンに出会うまでの間には、来る女性は全て拒むことなく、受け入れていた。
結婚という責任を取らされるような行為は、さすがに慎んだものの、そのギリギリまで、恋愛の真似事を繰り返し楽しんだ。

ところがある日、何の気無しに声をかけた女性が振り向き、目が合った瞬間、モーリスにとって全ての女性はどうでもよくなってしまった。
笑顔を浮かべ、上目で彼を見るマデリンに、何と言ったのか思い出せないくらい、頭が真っ白になってしまったのである。
こつこつ築き上げて来たはずの、シェリナとの思い出さえも、あっという間に白く塗りつぶされてしまったのだった。
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