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シェリナはそのまま振り返ることなく、ほとんど駆け足に庭園を抜けて行った。
とは言っても、そのまま屋敷に戻りたくはなくて、逆方向に向かって進んでいく。
こんな顔でなんて、人に会えるわけがない。

何組か、男女が散歩をしているのを追い越して、シェリナは歩き続けた。
勢いよく通り過ぎて行くシェリナに驚いて、小さな悲鳴が上がったが、気にしてはいられなかった。

そしてようやく人気のない辺りに来ると、ベンチに力無く腰を下ろした。
意識せずとも、深い深いため息が出る。
たった数十分で、まさかこんなに状況が変わってしまうとは、思ってもみなかった。

それにしてもマデリンとはいったい、どのような人物なのだろう。
顔も名前も、シェリナには全く覚えがなかったのである。
子爵令嬢だと言っていたけれど、この辺りに住んでいるとすれば、名前も聞いたことがないとは妙なことだ。

それに、今も瞼の裏に焼き付いて離れない、あの顔。
あれだけ人目を引く容姿ならば、一度見れば忘れることもなさそうなものだ。

では彼女はいったい……。

ぼんやりと宙を見つめながら考えていたシェリナは、背後で物音がしたのに気がついて、はっとした。
一瞬、モーリスが追いかけて来てくれたのではないか、と期待に胸が膨らんだ。
が、そんなはずはなかった。

振り向いてみれば、心配そうな目で見下ろしていたのは、ウォーレンだったのである。

「ウォーレン様……どうして、こんなところに」

モーリスではなかったことに落胆するよりも、驚きの方が勝った。
意外な人物の登場に、シェリナはぽっかりと開いた口を閉ざすのも忘れて、彼を見上げる。
それから、はっとして立ち上がった。

「私ったら!失礼致しました。まさかこんなところでお会いするとは、思ってもみなかったものですから」
「良いんですよ、どうぞ座っていて下さい」

そう言われて、シェリナはおずおずと腰を下ろす。

「良ければ、私も隣に座っても?」
「え、ええ……もちろん」

涙に濡れた顔を見られたくはなかったが、仕方がない。
隣に座って長い足を優雅に組む彼に、出来るだけ顔を見られないように、シェリナは俯いた。

いつも女性たちに囲まれているウォーレンのことは、シェリナだってもちろん知っている。
しかし、言葉を交わしたことはあったかどうか……。

そのくらいの関わりしかないウォーレンが、どうして、よりによって今、隣に座っているのか。
ただでさえ考えなければならないことが沢山あるというのに、さらなる混乱に襲われて、頭が痛んでくるようだった。

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