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「……それで?」

カトリーヌが溜め息混じりに訊ねると、レイラは眉を吊り上げて睨みつけてきた。

なんとレイラは約束も無しに、スチュアートの屋敷へと押しかけてきたのである。
突然の訪問に驚きつつも話を聞いていたカトリーヌだったが、レイラは一方的に怒鳴り散らすばかり。
言葉を挟むことさえままならない状況に、カトリーヌはすっかり疲弊してしまっていた。

「『それで?』じゃないわよ!
私の一大事だっていうのに!
話をちゃんと聞いていたの?
私が婚約者に襲われそうになったのよ!?」

物凄い剣幕で捲し立てられても、カトリーヌは耳を塞ぎこそすれ、素直にレイラを慰める気にはならなかった。

確かに話を聞いている限りでは、明らかに被害者なのはレイラの方だ。
しかし、それはあくまでもレイラの側の主張であって、フランクの側の主張は何ひとつ入っていない。

今までの彼女の行いを、ずっとすぐそばで見てきたカトリーヌからすれば、レイラの話をそのまま鵜呑みにすることなど出来なかったのである。

「あの夜のフランクったら、本当に怖かったわ……!
いくら婚約者だとは言っても、結婚前にあんな事をしてくるなんて。
最低よ……あなたも、そう思うでしょう?」
「まあ……そうかしらね」
「もうこのまま彼と結婚なんてしたくないわ。
そう思っても仕方ないと思わない?」

カトリーヌは答えなかった。

肩を震わせ、涙をいっぱいにためた瞳で見上げてくるレイラは、誰が見ても酷い扱いを受けた可哀想な娘だ。
それでもカトリーヌは、レイラが何か企んでいるのでは、と疑う気持ちを捨てきれなかった。

まさかとは思うけれど、フランクを罠にはめたなんてことはないだろうか、とさえ考えてしまう。
そしてレイラであれば、そんなことまでもやりかねないと、カトリーヌは分かっていたのである。

ところがレイラは、そんな様子は少しも見せずに、長いまつ毛を震わせた。

「私はもう、フランクとは婚約を破棄してしまいたいと思ってるの。
でも彼が納得してくれなくて、困っているのよね……」

ゆるゆると頭を振れば、涙がレイラの頬を流れていく。
それをぼんやりと眺めていたカトリーヌは、ふと気がついた。

そもそも、レイラはここに何をしに来たのだろう。

彼女のことだ。
まさか、ただ愚痴をこぼしにきただけではあるまい。

そんなことならば、わざわざカトリーヌのところまで来るはずはない。

横目で様子を窺うと、一瞬、レイラの瞳が悪戯っぽく光ったように見えた。
その輝きにギョッとしつつ、カトリーヌは嫌な予感に襲われたのだった。
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