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40:ダニエルの決別の言葉
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結局キスこそ出来なかったものの、ジュリアとすっかり良い雰囲気になれたダニエルは、一夜明けてもニヤニヤ笑いが止まらなかった。
顔を赤らめたジュリアのなんと可愛かったことか。
思い出すと、いまだに胸が熱くなる。
幸せの余韻にどっぷりと浸っていたダニエルは、この時完全に気持ちが緩み切っていた。
そのせいで自室がノックされた時、何の警戒もせずに答えてしまったのである。
そして困惑した顔の使用人が口にした名前を聞くなり、真っ青になってしまった。
「あの……ルイーズ様とおっしゃる女性が、いらっしゃいました」
「え……」
婚約者以外の女性が約束も無しに現れるなど、何事かと訝しんでいるのだろう。
もしかしたら、この使用人はルイーズのことを両親に報告するかもしれない。
ダニエルはドキリとした。
なんということだ。
これまでは、両親にルイーズのことがバレぬよう、決して家には呼ばなかったというのに。
そう思うと居ても立っても居られず、ダニエルはわざとらしく笑い声をあげた。
「ルイーズ様が?
何だろうな、突然。
友人だからと言って、約束も無しに来るとは……何かあったのかな」
と、『ただの友人』であると大袈裟にアピールしておいてから、ダニエルは大慌てで客間へ向かった。
そしてノックも無しに飛び込むと、険しい目つきのルイーズに出迎えられたのだった。
「ダニエル!」
第一声から金切り声を上げたルイーズは、つかつかとダニエルの前まで歩み寄ると、
「あなた、ジュリアに会いに行ったでしょう!」
「ど、どうしてそれを……」
あまりの迫力に、つい正直に答えてしまった自分を呪う暇もない。
ルイーズは腰に手を当てて、こちらを睨みつけてきた。
「あなたが約束を破るんじゃないかと思って、うちの使用人に見張らせていたのよ。
そしたら案の定、会いに行ったというじゃないの!
もう私、びっくりしちゃって……」
「い、いや……ほら、それは……。
やっぱり、両親に決められた婚約者を、ないがしろにするわけにはいかないし」
ダニエルはすっかりタジタジである。
それでもなんとかルイーズをなだめようと、適当な言葉を並べ始めたのだったが、今日の彼女はそんな言い訳で引き下がるつもりはないようだった。
「誤魔化さないでよ!
会いに行ったのは事実なんでしょう!?
つまり、私との約束を破ってでも会いに行きたかったということなんでしょう!?」
「あ……えーと」
「もう下手な言い訳は十分よ!」
ルイーズが大声を出すものだから、ダニエルはヒヤヒヤしてきた。
これでは屋敷中に聞かせているようなものである。
とにかくまずはルイーズをなだめなければ。
ダニエルは額に冷や汗を浮かべながらも、なんとか笑顔を浮かべてソファーを指した。
「と、とにかく、座ろう。
少し落ち着かないと、話が出来ないからさ」
しかしルイーズは腰に手を当てると、眉を吊り上げて言ったのである。
「結構よ!
私は十分落ち着いているわ」
それから背伸びをしてダニエルに顔を近づけてきた。
「はっきりさせてちょうだい!
ジュリアと私、どちらと結婚するつもりなのか」
「そ、そんなの……分かりきってるじゃないか」
「だったら、はっきり言ってよ。
言葉にしてくれないと、不安なの!」
ダニエルは始め、口をパクパクさせるばかりで、声を出すことが出来なかった。
しかし、恐ろしい形相のルイーズを見ていれば、またしてもここで嘘をついて、ルイーズとの関係を引き延ばしたくはないと思えたから。
冷や汗をかきつつも、彼女の要望通り、はっきりと言ってやったのである。
「僕はジュリアと結婚するつもりだ」
「はあ!?なんなのよ今さら!
私はどうなるの!?」
「ルイーズには悪いと思ってる。
でももう決めたんだ。
だから、きみとはもう会えない」
「ちょ、ちょっと、待ってよ!」
「ごめん!!」
ダニエルはペコリと頭を下げると、一目散に客間を飛び出した。
あえて見ないようにしたから、ルイーズがどんな顔をしていたかは分からない。
でも見ていたら、きっとまた心が揺らいでしまうと分かっていたから、仕方がなかったのである。
自室へ逃げ込んで扉を閉めたところで、ダニエルは呟いた。
「終わった……。
あとは、ジュリアと結婚して、幸せになるだけだ…….」
ルイーズの分までジュリアを幸せにしよう。
そして自分も幸せになるんだ。
そう決意して、ダニエルは小さく微笑んだのだった。
顔を赤らめたジュリアのなんと可愛かったことか。
思い出すと、いまだに胸が熱くなる。
幸せの余韻にどっぷりと浸っていたダニエルは、この時完全に気持ちが緩み切っていた。
そのせいで自室がノックされた時、何の警戒もせずに答えてしまったのである。
そして困惑した顔の使用人が口にした名前を聞くなり、真っ青になってしまった。
「あの……ルイーズ様とおっしゃる女性が、いらっしゃいました」
「え……」
婚約者以外の女性が約束も無しに現れるなど、何事かと訝しんでいるのだろう。
もしかしたら、この使用人はルイーズのことを両親に報告するかもしれない。
ダニエルはドキリとした。
なんということだ。
これまでは、両親にルイーズのことがバレぬよう、決して家には呼ばなかったというのに。
そう思うと居ても立っても居られず、ダニエルはわざとらしく笑い声をあげた。
「ルイーズ様が?
何だろうな、突然。
友人だからと言って、約束も無しに来るとは……何かあったのかな」
と、『ただの友人』であると大袈裟にアピールしておいてから、ダニエルは大慌てで客間へ向かった。
そしてノックも無しに飛び込むと、険しい目つきのルイーズに出迎えられたのだった。
「ダニエル!」
第一声から金切り声を上げたルイーズは、つかつかとダニエルの前まで歩み寄ると、
「あなた、ジュリアに会いに行ったでしょう!」
「ど、どうしてそれを……」
あまりの迫力に、つい正直に答えてしまった自分を呪う暇もない。
ルイーズは腰に手を当てて、こちらを睨みつけてきた。
「あなたが約束を破るんじゃないかと思って、うちの使用人に見張らせていたのよ。
そしたら案の定、会いに行ったというじゃないの!
もう私、びっくりしちゃって……」
「い、いや……ほら、それは……。
やっぱり、両親に決められた婚約者を、ないがしろにするわけにはいかないし」
ダニエルはすっかりタジタジである。
それでもなんとかルイーズをなだめようと、適当な言葉を並べ始めたのだったが、今日の彼女はそんな言い訳で引き下がるつもりはないようだった。
「誤魔化さないでよ!
会いに行ったのは事実なんでしょう!?
つまり、私との約束を破ってでも会いに行きたかったということなんでしょう!?」
「あ……えーと」
「もう下手な言い訳は十分よ!」
ルイーズが大声を出すものだから、ダニエルはヒヤヒヤしてきた。
これでは屋敷中に聞かせているようなものである。
とにかくまずはルイーズをなだめなければ。
ダニエルは額に冷や汗を浮かべながらも、なんとか笑顔を浮かべてソファーを指した。
「と、とにかく、座ろう。
少し落ち着かないと、話が出来ないからさ」
しかしルイーズは腰に手を当てると、眉を吊り上げて言ったのである。
「結構よ!
私は十分落ち着いているわ」
それから背伸びをしてダニエルに顔を近づけてきた。
「はっきりさせてちょうだい!
ジュリアと私、どちらと結婚するつもりなのか」
「そ、そんなの……分かりきってるじゃないか」
「だったら、はっきり言ってよ。
言葉にしてくれないと、不安なの!」
ダニエルは始め、口をパクパクさせるばかりで、声を出すことが出来なかった。
しかし、恐ろしい形相のルイーズを見ていれば、またしてもここで嘘をついて、ルイーズとの関係を引き延ばしたくはないと思えたから。
冷や汗をかきつつも、彼女の要望通り、はっきりと言ってやったのである。
「僕はジュリアと結婚するつもりだ」
「はあ!?なんなのよ今さら!
私はどうなるの!?」
「ルイーズには悪いと思ってる。
でももう決めたんだ。
だから、きみとはもう会えない」
「ちょ、ちょっと、待ってよ!」
「ごめん!!」
ダニエルはペコリと頭を下げると、一目散に客間を飛び出した。
あえて見ないようにしたから、ルイーズがどんな顔をしていたかは分からない。
でも見ていたら、きっとまた心が揺らいでしまうと分かっていたから、仕方がなかったのである。
自室へ逃げ込んで扉を閉めたところで、ダニエルは呟いた。
「終わった……。
あとは、ジュリアと結婚して、幸せになるだけだ…….」
ルイーズの分までジュリアを幸せにしよう。
そして自分も幸せになるんだ。
そう決意して、ダニエルは小さく微笑んだのだった。
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