上 下
34 / 52

34:ダニエルの優柔不断②

しおりを挟む

ダニエルは、このままルイーズに引きずられてはいけないと、そっと目を閉じた。
すると鮮やかに浮かんできたのは、やはりジュリアの笑顔だ。


……そうだ。


ダニエルは心の内で呟いた。
せっかく本心を話してしまおうと決めたのだから、今になって尻込みをしていてはいけない。

改めて決意を固めると、すぐさま、気合いを入れるように姿勢を正し、ルイーズに顔を向ける。
そして

「実はね、ルイーズ……」

と、なんとか切り出したのだったが。
何を思ったかルイーズは、ダニエルの腕にそっと指をかけてくると、こちらに顔を向けたまま静かに目を閉じたのである。

長いまつ毛がパサリと揺れるのを、ダニエルは呆然として見つめていた。
ゴクリと喉を鳴らして視線を下げていくと、艶やかなピンク色の唇が目に入る。
そしてそのまま、目が離せなくなってしまった。


キスをねだられている……?


今まで何度もキスしようと試みてきたものの、一度も成功したことはないというのに。
まさかこのタイミングで、ルイーズの方から求められるとは思わなかったダニエルは、動くことも出来ぬまま彼女を見つめ続けた。

気がつけば、考えるよりも前に手が動いてしまっていた。
ルイーズの華奢な白い肩に、そっと両手をかける。

ルイーズのまつ毛は閉じられたままだったが、彼の手が肩にかかると、反応するようにピクリと動いた。
このまま肩を抱き寄せ、唇を奪ってしまいたい。

ダニエルは誘惑に抗う事も出来ず、ぐっと手に力を込めたのだったが……

「ダメだよ、ルイーズ……。
目を開けて」

なんとかそう呟くと、ルイーズの肩を押し戻した。
ようやく開かれたルイーズの目が、じっとこちらに向けられる。
その美しい瞳は、ゆっくりと涙で覆われて行った。

「ひどいわ、ダニエル……」
「ご、ごめん。
でもいつもは君の方が、まだキスはダメだって言っていたじゃないか」
「そうだけど……。
でも私、あなたが好きだから勇気を出したのに」
「そうだよね……ごめん」

ポロポロと頬を伝って落ちていく涙を見ていると、ダニエルはすっかり頭が真っ白になってしまった。
用意してきた言葉など、もう言う気にはなれなかった。

とにかく今はもう、これ以上ルイーズを傷つけたくない。
その一心で、ペラペラと適当な言葉を並べることしかできなかった。

「でもルイーズのことは、本当に大切にしたいんだよ!
だから結婚式までは君の名誉に傷をつけるような事は絶対にしたくないんだ」
「そう?そうだったら……嬉しい!」

ルイーズがダニエルに飛びついて、胸に顔を埋めてくる。
いつになく彼女が、大きく胸元の開いた服を着ているせいで、目のやり場に困りつつ、ダニエルは頬を赤らめたのだった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

侯爵令嬢はデビュタントで婚約破棄され報復を決意する。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 第13回恋愛小説大賞に参加しています。応援投票・応援お気に入り登録お願いします。  王太子と婚約させられていた侯爵家令嬢アルフィンは、事もあろうに社交界デビューのデビュタントで、真実の愛を見つけたという王太子から婚約破棄を言い渡された。  本来自分が主役であるはずの、一生に一度の晴れの舞台で、大恥をかかされてしまった。  自分の誇りのためにも、家の名誉のためにも、報復を誓うのであった。

私達、政略結婚ですから。

恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。 それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。

姉と婚約していた王太子が婚約破棄して私を王妃にすると叫んでいますが、私は姉が大好きなシスコンです

みやび
恋愛
そもそも誠意もデリカシーのない顔だけの奴はお断りですわ

お花畑な人達には付き合いきれません!

ハク
恋愛
作者の気まぐれで書いただけ。

【短編完結】記憶なしで婚約破棄、常識的にざまあです。だってそれまずいって

鏑木 うりこ
恋愛
お慕いしておりましたのにーーー  残った記憶は強烈な悲しみだけだったけれど、私が目を開けると婚約破棄の真っ最中?! 待って待って何にも分からない!目の前の人の顔も名前も、私の腕をつかみ上げている人のことも!  うわーーうわーーどうしたらいいんだ!  メンタルつよつよ女子がふわ~り、さっくりかる~い感じの婚約破棄でざまぁしてしまった。でもメンタルつよつよなので、ザクザク切り捨てて行きます!

婚約破棄する王太子になる前にどうにかしろよ

みやび
恋愛
ヤバいことをするのはそれなりの理由があるよねっていう話。 婚約破棄ってしちゃダメって習わなかったんですか? https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/123874683 ドアマットヒロインって貴族令嬢としては無能だよね https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/988874791 と何となく世界観が一緒です。

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

愚者(バカ)は不要ですから、お好きになさって?

海野真珠
恋愛
「ついにアレは捨てられたか」嘲笑を隠さない言葉は、一体誰が発したのか。 「救いようがないな」救う気もないが、と漏れた本音。 「早く消えればよろしいのですわ」コレでやっと解放されるのですもの。 「女神の承認が下りたか」白銀に輝く光が降り注ぐ。

処理中です...