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12:ケインの待ち伏せ①
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「まったく、遅いな……。
いつまでかかるんだ」
ケインはイライラと膝をゆすっていた。
馬車の中から、じっと眺めているのは、洋裁店である。
もちろん彼のお目当ては、ジュリアだった。
ダニエルに、この時間に洋裁店に来ることを聞いていた彼は、帰り際に、偶然を装ってジュリアに近づくため、こうして見張りを続けていたのだが……
「ああ、もう。
面倒くさくなってきたな。
……帰ろうかな」
と、つい口に出してしまうほど、ジュリアとダニエルは出てこなかった。
しかしここで帰ってしまえば、ダニエルに……というより、ルイーズに何を言われるか分かったものではない。
仕方なくケインは、ため息をつきながら、再び開いた扉にやる気のない目を向けたのだったが
「おっ」
そこに現れた人物を見て、ニヤリと笑った。
それは間違いなく、ダニエルだった。
そして、その後に続いて出てきたのは、嬉しそうに頬を染めたジュリアだったのである。
「よしよし、ようやくだ」
目を離さずにいると、ダニエルがさっさと一行と別れて自分の馬車に乗り込むのが見えた。
「どうせ、いそいそとルイーズのところにでも行くんだろう」
すぐにでもジュリアに話しかけたいところだったが、彼女は両親といるものだから、そうもいかない。
ではどうするか……と、彼女の両親が順番に馬車へ乗り込むのを眺めていたところで、ケインはある事に気がついてニヤリとした。
幸運なことに、ジュリアは馬車に乗り込もうとしなかったのである。
馬車がそのまま行ってしまうと、彼女はメイドを一人連れて歩き出した。
それを見るなり、ケインはすぐさま御者に言いつけた。
「ここからは歩いて帰るから、先に帰っていてくれ」
そして急いで馬車を降り、ジュリアの後を追った。
彼女を追うのに苦労はなかった。
数分もしないうちに、そのまま公園へと入っていったのである。
しかもメイドを入口の辺りで待たせておいて、一人で歩き出したのを見ると、ケインは早足で彼女の背中を追った。
「ジュリア様じゃないですか」
ケインがわざとらしく明るい声で言うと、ジュリアは振り返って、目を丸くした。
「あら、ケイン様。お散歩ですか?」
「ええ。今日は天気が良いですからね。
少し運動でも、と思いまして」
「そうなんですか。私も、そうです。
少し歩くには、ちょうど良い気温ですものね」
彼女の表情の変化を見逃すまいと、注意深く目を向ける。
しかしジュリアは、この出会いを疑っている様子は全くなかった。
まさかケインが待ち伏せをしていたなどとは、微塵も思っていないに違いない。
ケインは、ほっとして続けた。
「なんだか楽しそうな顔をしていらっしゃいますね。
何か良い事でもあったのですか?」
「あら……お恥ずかしい」
ジュリアは頬を染めながらも、嬉しそうに目を細めた。
「実は先ほど、ウエディングドレスの仕立てを頼んできたところなんです。
とても楽しかったので……つい顔に出てしまったんですわね」
「そうでしたか」
知っているとも。
それが終わるのを、ずっと待っていたんだからな。
と、ケインは心の中で呟いた。
さあ、ここからどうやって口説いていこうか。
今日こそは少し強引にいかないと、ルイーズがまたうるさいだろうし。
ケインは、さも人の良さそうな笑みを浮かべて、話の止まらないジュリアを見つめていた。
その瞳に、不気味な光を宿して……。
いつまでかかるんだ」
ケインはイライラと膝をゆすっていた。
馬車の中から、じっと眺めているのは、洋裁店である。
もちろん彼のお目当ては、ジュリアだった。
ダニエルに、この時間に洋裁店に来ることを聞いていた彼は、帰り際に、偶然を装ってジュリアに近づくため、こうして見張りを続けていたのだが……
「ああ、もう。
面倒くさくなってきたな。
……帰ろうかな」
と、つい口に出してしまうほど、ジュリアとダニエルは出てこなかった。
しかしここで帰ってしまえば、ダニエルに……というより、ルイーズに何を言われるか分かったものではない。
仕方なくケインは、ため息をつきながら、再び開いた扉にやる気のない目を向けたのだったが
「おっ」
そこに現れた人物を見て、ニヤリと笑った。
それは間違いなく、ダニエルだった。
そして、その後に続いて出てきたのは、嬉しそうに頬を染めたジュリアだったのである。
「よしよし、ようやくだ」
目を離さずにいると、ダニエルがさっさと一行と別れて自分の馬車に乗り込むのが見えた。
「どうせ、いそいそとルイーズのところにでも行くんだろう」
すぐにでもジュリアに話しかけたいところだったが、彼女は両親といるものだから、そうもいかない。
ではどうするか……と、彼女の両親が順番に馬車へ乗り込むのを眺めていたところで、ケインはある事に気がついてニヤリとした。
幸運なことに、ジュリアは馬車に乗り込もうとしなかったのである。
馬車がそのまま行ってしまうと、彼女はメイドを一人連れて歩き出した。
それを見るなり、ケインはすぐさま御者に言いつけた。
「ここからは歩いて帰るから、先に帰っていてくれ」
そして急いで馬車を降り、ジュリアの後を追った。
彼女を追うのに苦労はなかった。
数分もしないうちに、そのまま公園へと入っていったのである。
しかもメイドを入口の辺りで待たせておいて、一人で歩き出したのを見ると、ケインは早足で彼女の背中を追った。
「ジュリア様じゃないですか」
ケインがわざとらしく明るい声で言うと、ジュリアは振り返って、目を丸くした。
「あら、ケイン様。お散歩ですか?」
「ええ。今日は天気が良いですからね。
少し運動でも、と思いまして」
「そうなんですか。私も、そうです。
少し歩くには、ちょうど良い気温ですものね」
彼女の表情の変化を見逃すまいと、注意深く目を向ける。
しかしジュリアは、この出会いを疑っている様子は全くなかった。
まさかケインが待ち伏せをしていたなどとは、微塵も思っていないに違いない。
ケインは、ほっとして続けた。
「なんだか楽しそうな顔をしていらっしゃいますね。
何か良い事でもあったのですか?」
「あら……お恥ずかしい」
ジュリアは頬を染めながらも、嬉しそうに目を細めた。
「実は先ほど、ウエディングドレスの仕立てを頼んできたところなんです。
とても楽しかったので……つい顔に出てしまったんですわね」
「そうでしたか」
知っているとも。
それが終わるのを、ずっと待っていたんだからな。
と、ケインは心の中で呟いた。
さあ、ここからどうやって口説いていこうか。
今日こそは少し強引にいかないと、ルイーズがまたうるさいだろうし。
ケインは、さも人の良さそうな笑みを浮かべて、話の止まらないジュリアを見つめていた。
その瞳に、不気味な光を宿して……。
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