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突然の帰宅
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懐かしいノアの顔を見るや、驚きのあまり涙なんて引っ込んでしまった。
「お父様!」
シャロンは駆け出して行って、ノアの首に抱きついた。
「どうなさったの!?
お帰りになる予定は、まだ随分先だったはずでしょう!」
「ああ、そうなんだ。
でも仕事の都合で短期間だが、帰国出来ることになってね。
驚かせようと思って何も言わずに、こうしてやって来たというわけさ」
ノアは大きく手を広げて娘を抱きしめ返してくれる。
ところが、すぐに彼女の体を引き剥がすと、まじまじと顔を覗き込んできた。
「どうしたんだい!?
随分痩せてしまったような気がするよ。
それに顔が真っ白じゃないか」
「え、ええ……。
体調を崩してしまっていたのよ」
「なんてことだ!
良くなってきているのかい?」
「体調は、もうだいぶ良いの。
でも問題は……問題は……」
シャロンは、そこまで言うと耐えきれなくなって、わっと泣き出してしまった。
使用人のように働き始めてから、ずっと張り詰めていた緊張の糸が、ぷつりと切れてしまったようだった。
泣き止もうと思っても、ノアの大きな手に背中をさすられていると、奥から奥から涙が溢れてきて止まらない。
まるで子どものように泣きじゃくる娘を、ノアは困ったように、しかし何も言わずに優しく撫で続けていた。
ようやく声が出るようになると、シャロンは今の自分の状況をノアに説明した。
シャロンの社交界デビューの後、豹変したモニカとリネットのことも、執拗に追いかけてくるブレントのことも。
それから、スタンリーのことも。
ノアは黙ったまま最後まで話を聞いたところで、深々と息を吐き出した。
そしてシャロンに向かって頭を下げた。
「そんなに大変な目にあっていたなんて……可哀想なことをしてしまったな。
すまなかった」
「そんな!お父様が悪いわけじゃないわ」
「だが、モニカを再婚相手に選んだのは私だ。
気のいい女性だとばかり思っていたのに……」
と悲しげに首を振るノアの手を、シャロンは強く握りしめた。
と、そこへ慌てたような足音が近づいてきたのである。
それも2人分だ。
勢いよく扉が開き飛び込んできたのは、当の本人であるモニカとリネットだった。
「あ、あなた!お帰りになっていたのね!」
モニカは強張った笑顔でノアを見てから、その隣に座るシャロンに視線を移した。
彼の突然の帰宅は、彼女にとっても予想外だったに違いない。
シャロンが何を話したのかと、不安そうに指をモジモジさせている。
その後ろから、リネットもソワソワと顔を覗かせていた。
「帰宅したら使用人に、あなたがお帰りになったと聞いて驚いてしまったわ!
連絡しておいて下さったら、家でお待ちしていましたのに」
「ああ、すまないな。
驚かせようと思って、内緒で帰ってきたんだよ」
ノアは立ち上がると、モニカの前に立ち、静かに続けた。
「だが驚かされたのは、こっちだったよ。
まさかシャロンが使用人同然の扱いを受けているなんて、思いもよらなかったからね。
これは一体どういうことなんだ?」
「あ、そ、それは……」
モニカが答えに窮していると、ノックの音がして、お茶の用意をした使用人達が入ってきた。
それを見たモニカは、急に目を輝かせた。
それから口を抑えると、オーバーに喚き立て始めた。
「ま、まさか!
使用人同然だなんて……私はそんなことさせていませんわ」
そして使用人の娘の手を掴むと
「ねえ、あなた?
私がシャロンにそんなことをしているところを、見たことがあるかしら?」
と顔を覗き込んだ。
もちろんシャロンのひどい生活ぶりを、彼女が見ていないはずはない。
しかし痛いくらいに手首を掴まれながら、女主人に凄まれて、素直に自分の意見を言えるはずがなかった。
娘はチラリとシャロンを見たものの、青ざめた顔で小さく首を横に振った。
これに勝ち誇ったような声を上げたのはもちろんモニカである。
「ほらね!私がそんなことするはずがないでしょう?
その子は、まだあなたの再婚を受け入れられなくて、私を陥れようとしているのですわ」
「なんてひどいことを……!」
シャロンが耐えきれなくなって声を上げるのと、部屋の隅にいたマリアが一歩前へと進み出るのは、ほとんど同時だった。
「あの、旦那様」
彼女の声は震えていたが、チラリとシャロンに向けられたマリアの目は少しも怯えていなかった。
堂々と胸を張り、静かに言葉を繋げ始めたのだ。
「失礼ですが、シャロン様を陥れようとしているのは奥様の方です。
シャロン様は私達と同じように朝から晩まで働かされておりました。
毎日の買い物にだって行かされていたのですから、市場に出て聞いて頂ければ、皆が証言してくれるはずですわ」
「なっ……」
モニカが怒りに任せて、マリアに手を振り上げた。
しかしノアの大きな手が、がっちりとモニカの手首を掴み、それを止めた。
モニカは顔を真っ赤にして、しばらくブルブルと手を震わせていたが、やがてガックリと項垂れた。
ノアは彼女の手を離すと、マリアに顔を向けて頷いた。
「ありがとう。よく言ってくれた」
それからシャロンに目を向けると、静かに言った。
「モニカとの話し合いは、後回しだ。
まずは王宮に行かねばならん」
「お父様!」
シャロンは駆け出して行って、ノアの首に抱きついた。
「どうなさったの!?
お帰りになる予定は、まだ随分先だったはずでしょう!」
「ああ、そうなんだ。
でも仕事の都合で短期間だが、帰国出来ることになってね。
驚かせようと思って何も言わずに、こうしてやって来たというわけさ」
ノアは大きく手を広げて娘を抱きしめ返してくれる。
ところが、すぐに彼女の体を引き剥がすと、まじまじと顔を覗き込んできた。
「どうしたんだい!?
随分痩せてしまったような気がするよ。
それに顔が真っ白じゃないか」
「え、ええ……。
体調を崩してしまっていたのよ」
「なんてことだ!
良くなってきているのかい?」
「体調は、もうだいぶ良いの。
でも問題は……問題は……」
シャロンは、そこまで言うと耐えきれなくなって、わっと泣き出してしまった。
使用人のように働き始めてから、ずっと張り詰めていた緊張の糸が、ぷつりと切れてしまったようだった。
泣き止もうと思っても、ノアの大きな手に背中をさすられていると、奥から奥から涙が溢れてきて止まらない。
まるで子どものように泣きじゃくる娘を、ノアは困ったように、しかし何も言わずに優しく撫で続けていた。
ようやく声が出るようになると、シャロンは今の自分の状況をノアに説明した。
シャロンの社交界デビューの後、豹変したモニカとリネットのことも、執拗に追いかけてくるブレントのことも。
それから、スタンリーのことも。
ノアは黙ったまま最後まで話を聞いたところで、深々と息を吐き出した。
そしてシャロンに向かって頭を下げた。
「そんなに大変な目にあっていたなんて……可哀想なことをしてしまったな。
すまなかった」
「そんな!お父様が悪いわけじゃないわ」
「だが、モニカを再婚相手に選んだのは私だ。
気のいい女性だとばかり思っていたのに……」
と悲しげに首を振るノアの手を、シャロンは強く握りしめた。
と、そこへ慌てたような足音が近づいてきたのである。
それも2人分だ。
勢いよく扉が開き飛び込んできたのは、当の本人であるモニカとリネットだった。
「あ、あなた!お帰りになっていたのね!」
モニカは強張った笑顔でノアを見てから、その隣に座るシャロンに視線を移した。
彼の突然の帰宅は、彼女にとっても予想外だったに違いない。
シャロンが何を話したのかと、不安そうに指をモジモジさせている。
その後ろから、リネットもソワソワと顔を覗かせていた。
「帰宅したら使用人に、あなたがお帰りになったと聞いて驚いてしまったわ!
連絡しておいて下さったら、家でお待ちしていましたのに」
「ああ、すまないな。
驚かせようと思って、内緒で帰ってきたんだよ」
ノアは立ち上がると、モニカの前に立ち、静かに続けた。
「だが驚かされたのは、こっちだったよ。
まさかシャロンが使用人同然の扱いを受けているなんて、思いもよらなかったからね。
これは一体どういうことなんだ?」
「あ、そ、それは……」
モニカが答えに窮していると、ノックの音がして、お茶の用意をした使用人達が入ってきた。
それを見たモニカは、急に目を輝かせた。
それから口を抑えると、オーバーに喚き立て始めた。
「ま、まさか!
使用人同然だなんて……私はそんなことさせていませんわ」
そして使用人の娘の手を掴むと
「ねえ、あなた?
私がシャロンにそんなことをしているところを、見たことがあるかしら?」
と顔を覗き込んだ。
もちろんシャロンのひどい生活ぶりを、彼女が見ていないはずはない。
しかし痛いくらいに手首を掴まれながら、女主人に凄まれて、素直に自分の意見を言えるはずがなかった。
娘はチラリとシャロンを見たものの、青ざめた顔で小さく首を横に振った。
これに勝ち誇ったような声を上げたのはもちろんモニカである。
「ほらね!私がそんなことするはずがないでしょう?
その子は、まだあなたの再婚を受け入れられなくて、私を陥れようとしているのですわ」
「なんてひどいことを……!」
シャロンが耐えきれなくなって声を上げるのと、部屋の隅にいたマリアが一歩前へと進み出るのは、ほとんど同時だった。
「あの、旦那様」
彼女の声は震えていたが、チラリとシャロンに向けられたマリアの目は少しも怯えていなかった。
堂々と胸を張り、静かに言葉を繋げ始めたのだ。
「失礼ですが、シャロン様を陥れようとしているのは奥様の方です。
シャロン様は私達と同じように朝から晩まで働かされておりました。
毎日の買い物にだって行かされていたのですから、市場に出て聞いて頂ければ、皆が証言してくれるはずですわ」
「なっ……」
モニカが怒りに任せて、マリアに手を振り上げた。
しかしノアの大きな手が、がっちりとモニカの手首を掴み、それを止めた。
モニカは顔を真っ赤にして、しばらくブルブルと手を震わせていたが、やがてガックリと項垂れた。
ノアは彼女の手を離すと、マリアに顔を向けて頷いた。
「ありがとう。よく言ってくれた」
それからシャロンに目を向けると、静かに言った。
「モニカとの話し合いは、後回しだ。
まずは王宮に行かねばならん」
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