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馬車に揺られて
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「ええ!?まさか!
お姉様の社交界デビューはもう済んだでしょう。
まあ、ひどい失敗だったけどねえ!」
クスクス笑いながら、モニカの手から手紙を抜き取ったリネットだったが、その文面を見るや、彼女もやはり固まった。
それは誰がどう見ても、シャロン宛の招待状だったのである。
「ま、まさか!信じられないわ!」
ヒステリックに叫ぶリネットに、モニカはゆるゆると頭を横に振って見せた。
「きっと、なにかの間違いでしょう。
王宮からの招待状は、社交界デビューをする娘にしか届かない決まりだもの」
「そ、そうよね!?そうに決まってるわ!」
リネットの耳をつんざくような喚き声に、思わず耳を塞ぐ。
モニカはシャロンを見据えると、静かな声で言った。
「これは間違いよ。
あなたに招待状なんて来るはずがないのだからね。
舞踏会へ行こうなどとは決して考えないように」
そして招待状を暖炉へ放り込んだ。
パチパチと音を立てて、炎にのまれていく招待状を横目で見ながら、シャロンは小さく頷いた。
モニカは薄笑いを浮かべながら、シャロンを見つめていた。
きっと涙を堪えているシャロンの顔でも期待していたのだろう。
しかしシャロンは、あっという間に灰になっていく手紙を冷めた目で見ていただけだった。
王宮へなど、二度と行きたくはなかったのだから、むしろ、せいせいしたくらいだったのである。
それなのに。
社交界デビューの当日、リネットが今まさに家を出て、馬車に乗り込もうとしていた時のことである。
突然、六頭立ての立派な馬車が現れたのだ。
そして身なりの良い男が降りてきた。
アントンと名乗るブレントの従者は挨拶を済ませると、まずリネットに手を差し出した。
まさか王宮から迎えが来るなどとは思っても見なかったリネットとモニカは、すっかり有頂天になって馬車へ乗り込んだ。
シャロンは白けた目でそれを眺めていたが、やがて小さく頭を下げ、馬車の進路を妨げぬよう、後ろへと下がったのだったが、アントンの手がそれを阻んだ。
「さあ、シャロン様。
早くお乗り下さい」
「……え?」
心底驚いた顔で彼を見つめたものの、アントンの嘘くさい笑顔は少しも揺るがない。
チラリと見れば、馬車の中からこちらを見るモニカとリネットの顔が、驚きのあまり歪んでいた。
「まあまあ、アントン様!ご冗談でしょう?」
そう言ってモニカはヒラヒラと手を振った。
「シャロンはとっくに社交界デビューを済ませておりますわ。
今日の主役は、このリネットの方ですの」
この言葉を受けて、隣に座るリネットが胸を張り、微笑んでみせる。
しかしアントンはキッパリと言った。
「殿下から、シャロン様を必ず連れてくるようにと仰せつかっております」
「で、殿下が……」
シャロンは嫌な記憶を思い出し、青ざめた。
そして首を横に振った。
「申し訳ございませんが、私は行けません」
「そうですよ!
それにお姉様はひどい格好ですもの。
とても王宮になんて行けませんわ」
すかさずリネットが口を挟む。
けれどもアントンはシャロンの手を強引に掴むと、引っ張った。
「着替えのことならご心配なく。
殿下がシャロン様の為にと、すでに用意して下さっています」
「なんですって!?」
リネットが悲鳴を上げるのにも構わずに、アントンは嫌がるシャロンを馬車へと押し込んでしまった。
中は見た事もないほど豪勢なしつらえで、座席もフカフカだ。
しかしモニカとリネットのじっとりとした視線を向けられていれば、とても快適とは言い難い。
気まずい空気の中、アントンの合図で馬車が動き出す。
そして王宮へ到着するまでの間、口を開く者は誰一人いなかったのだった。
お姉様の社交界デビューはもう済んだでしょう。
まあ、ひどい失敗だったけどねえ!」
クスクス笑いながら、モニカの手から手紙を抜き取ったリネットだったが、その文面を見るや、彼女もやはり固まった。
それは誰がどう見ても、シャロン宛の招待状だったのである。
「ま、まさか!信じられないわ!」
ヒステリックに叫ぶリネットに、モニカはゆるゆると頭を横に振って見せた。
「きっと、なにかの間違いでしょう。
王宮からの招待状は、社交界デビューをする娘にしか届かない決まりだもの」
「そ、そうよね!?そうに決まってるわ!」
リネットの耳をつんざくような喚き声に、思わず耳を塞ぐ。
モニカはシャロンを見据えると、静かな声で言った。
「これは間違いよ。
あなたに招待状なんて来るはずがないのだからね。
舞踏会へ行こうなどとは決して考えないように」
そして招待状を暖炉へ放り込んだ。
パチパチと音を立てて、炎にのまれていく招待状を横目で見ながら、シャロンは小さく頷いた。
モニカは薄笑いを浮かべながら、シャロンを見つめていた。
きっと涙を堪えているシャロンの顔でも期待していたのだろう。
しかしシャロンは、あっという間に灰になっていく手紙を冷めた目で見ていただけだった。
王宮へなど、二度と行きたくはなかったのだから、むしろ、せいせいしたくらいだったのである。
それなのに。
社交界デビューの当日、リネットが今まさに家を出て、馬車に乗り込もうとしていた時のことである。
突然、六頭立ての立派な馬車が現れたのだ。
そして身なりの良い男が降りてきた。
アントンと名乗るブレントの従者は挨拶を済ませると、まずリネットに手を差し出した。
まさか王宮から迎えが来るなどとは思っても見なかったリネットとモニカは、すっかり有頂天になって馬車へ乗り込んだ。
シャロンは白けた目でそれを眺めていたが、やがて小さく頭を下げ、馬車の進路を妨げぬよう、後ろへと下がったのだったが、アントンの手がそれを阻んだ。
「さあ、シャロン様。
早くお乗り下さい」
「……え?」
心底驚いた顔で彼を見つめたものの、アントンの嘘くさい笑顔は少しも揺るがない。
チラリと見れば、馬車の中からこちらを見るモニカとリネットの顔が、驚きのあまり歪んでいた。
「まあまあ、アントン様!ご冗談でしょう?」
そう言ってモニカはヒラヒラと手を振った。
「シャロンはとっくに社交界デビューを済ませておりますわ。
今日の主役は、このリネットの方ですの」
この言葉を受けて、隣に座るリネットが胸を張り、微笑んでみせる。
しかしアントンはキッパリと言った。
「殿下から、シャロン様を必ず連れてくるようにと仰せつかっております」
「で、殿下が……」
シャロンは嫌な記憶を思い出し、青ざめた。
そして首を横に振った。
「申し訳ございませんが、私は行けません」
「そうですよ!
それにお姉様はひどい格好ですもの。
とても王宮になんて行けませんわ」
すかさずリネットが口を挟む。
けれどもアントンはシャロンの手を強引に掴むと、引っ張った。
「着替えのことならご心配なく。
殿下がシャロン様の為にと、すでに用意して下さっています」
「なんですって!?」
リネットが悲鳴を上げるのにも構わずに、アントンは嫌がるシャロンを馬車へと押し込んでしまった。
中は見た事もないほど豪勢なしつらえで、座席もフカフカだ。
しかしモニカとリネットのじっとりとした視線を向けられていれば、とても快適とは言い難い。
気まずい空気の中、アントンの合図で馬車が動き出す。
そして王宮へ到着するまでの間、口を開く者は誰一人いなかったのだった。
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