上 下
46 / 50

46 歴史的大戦

しおりを挟む
 それから三日後、シャナクについて新しい情報は無いものの、マーダ神殿西側の森に一万体以上ものモンスターが現れた。

 遂に姿を現したそれらは、予想の二倍以上の大群。

 しかし、マーダ神殿側もまた、各国の助力と冒険者ギルドの努力により、当初の予定していた人員数を遥かに上回っている。


 その数8500。


 そしてそれらの大軍の内、八千人が現在戦場に出ており、残りの五百人は街の中で不測の事態に備えて待機だ。


 振り分けとしては、

  冒険者 三千名
  兵士  五千名

が外で隊列を組み、修行僧を中心とした五百人は町の防衛として待機。


 人間8500人 対 モンスター10000匹


 まだ両者の距離は離れているものの、間も無くすればその戦いの火蓋が切られる。

 そう。今まさに、人類の命運をかけた戦いが始まろうとしていた。


 当然人類側は必死だ。


 マーダ神殿が落とされるという事は、人類が魔物に対抗する手段を失う事と同義。

 転職ができないという事は、この世界の人間は基本職にしかつけない事を意味し、それは戦闘力という面で大きな弊害をもたらすだろう。

 故に、これはマーダ神殿だけの問題ではない。この戦いは、人類全ての未来がかかっている。なので、絶対ここを落とされる訳には行かなかった。


 とはいえ、それだけの一大事にしては人類側が8500人は少なすぎる様にも感じる。

 
  人数的にはそれほど大差なく感じるが、魔物と人ではそもそものスペックが違いすぎるため、少なくとも魔物の数の三倍は人が欲しいところだった。

 本来なら全世界からもっと集まるべきであったが、流石に遠く離れた国から纏まって集まるには時間が足りず、また、町としてもこれ以上の人を受け入れるキャパはない。


 そんな訳で、今この街にいる人員で、この未曾有の危機を乗り越えるしか滅びの運命を回避する方法はないのである。



 ちなみに今回の配置は、


 町の外周に兵士 二千人
 迎撃部隊 兵士 二千人 冒険者 二千人
 遊撃部隊 兵士  千人 冒険者  千人 


そして、マーダ神殿の町の中は


 町防衛部隊  修行僧百人 冒険者二百人
 宮殿防衛部隊 修行僧二百人


となっており、基本的には守りが中心である。


 そして人間側の先頭には、当然ビビアン率いる勇者パーティが布陣していた。


「見えてきたわね……。」

「はい、敵の数は多いですがこちらも負けてはいません。私達は基本的に強敵中心に立ち回りましょう。」


 ビビアンの声にマネアが返すも、二人の顔には、特に緊張は見られない。


「サクセス君は間に合わなかったわね。何かあったのかしら……あ、ごめんビビアン。」


 二人の会話に入ったミーニャは、戦力として期待していたサクセスがまだ到着していない事に疑問を抱き、それを口にするが、直ぐにその口を閉じる。

 何故ならば、自分よりもそれを気にしていたのはビビアンであり、それは今、口にする事ではなかった。


(これから戦闘なのに、私は何余計な不安をビビアンに与えてるのよ!)


 と、内心で自分に毒付くミーニャ。

 しかし、ふとビビアンを見ると、その顔に不安は微塵も感じられない。

 むしろ、これからの戦いに向けて、目をギラギラさせている様にも映る。


「大丈夫よ。むしろ好都合だわ。サクセスが来る前にあいつらを倒せば、サクセスの危険が減るわ。」


 そう答えるビビアンは、ミーニャの予想に反して冷静だった。

 どうやらビビアンは、これまで色々と経験をした事で精神的に成長していたようである。

 その姿を見たミーニャは、心強く思うと同時に安心した。
 
 そんな事を全く知らないブライアンは、普通にそのまま会話に入る。


「そうでござるな。サクセス殿の雄姿を見れないのは残念でござるが、ここは吾輩達で倒しましょうぞ。吾輩は他の部隊に指揮を出します故、勇者様はご自身の戦いに専念していただいて結構でござる。」


 そう。

 今回の作戦で、ブライアンは一緒には戦わない。いや、ビビアンのパーティとしては、というのが正確だ。

 これだけの大部隊であるが故に、誰かがそれを指揮しなければならず、その指揮官こそがブライアンである。


 当初、神官長はその指揮を勇者であるビビアンに願い出たが、ビビアン自身が面と向かってそれを拒否した。

 そこで白羽の矢がたったのがブライアンである。

 王国戦士長の肩書きは伊達ではないし、勿論、それに見合った経験もあった。

 その為、部隊指揮はブライアンが取ることになり、ビビアン達は遊撃として好きに暴れ回ることになっている。

 実際、これは間違いのない選択だった。

 確かに個人戦力であれば、ビビアンの右に出る者はいないが、部隊の指揮となれば話は変わるし、正に宝の持ち腐れと言えよう。

 故に今回の戦いにおける布陣としては、現状がベストに違いない。


 そしてブライアンの言葉を受けたビビアンは、少しだけ顔を下に向けると、すぐに顔を上げて戦場を睨みつけた!


「わかったわ、面倒くさい事は今までシャナクに任せてきたけど、今回はアンタに任せるわ。アタシは雑魚共を蹴散らして、シャナクを見つけるのに専念するわね。」

「承知したでござる。それでは、勇者様。全軍に向けて一言願い申す。」


 そうお願いされたビビアンは、馬に跨ると全軍が見える位置に移動すると、全軍の視線が一気に集まる。



「みんな聞いて! アタシが勇者ビビアンよ! 今回敵の数が凄く多いわ! 中には強力なモンスターも多いと思うの。でも安心して、そういう奴らはアタシが全部倒すから、アンタ達は死ぬ気で町を守りなさい。危なくなった奴は町に下げて回復させてあげて! そして最後に……この戦い、絶対勝つわよ!!」


 その激しくも透き通った声が戦場に響きわたると、周辺一帯が一気に興奮の熱に包まれて、夕立の様な大歓声があがった。



「ウオーー!! やるぞおらぁ!」

「ミーニャ様! 勝ったらオラにご褒美を下さい!」

「おで がんばる!」

「キャーー! ビビアン様素敵ーーー!」

「俺、この戦い終わったら結婚するんだ……!!」


 一部死亡フラグのような事を叫ぶ男もいたが、男女問わず一気に士気が高まった。

 そして遂にモンスターの殆どは森を抜けて大草原に入ってくる。


 巨人系・昆虫系・スライム系・けもの系・ゾンビ系・あくま系・自然系・鳥系


 あらゆる系統のモンスターがその姿を現わした。


 そしてその一番後ろの上空には、手足が六本生えた邪悪なモンスターが浮いて、気持ち悪い笑みを浮かべている。


「……シャナクは見えないわね。まぁいいわ、あの一番後ろの奴がボスかしら?」


 不自然に空に浮いている禍々しいオーラを放つ魔物。それをビビアンが指を指しているのだが……隣にいるマネアがそれを見て肩を震わせていた。


「あ、あれは……ビビアン様気を付けてください。あのモンスターは伝説の破壊神……魔王ドシーです。」


 どうやらマネアにはアレが何かわかっていたらしい。その言葉と表情は、その破壊神がどれほど危険であるかを物語っている。

 
 しかし、それを聞いてもビビアンは怯まない。

 それどころか、自分の獲物を見つけたといった、獰猛な顔つきになっている。


「ふん、丁度いいわ。あいつを倒せばシャナクの居場所がわかるかもしれないね。アレはアタシがやるわ!」


 破壊神を目にしても全く動じないビビアン。



「でもおかしいわね、噂のデスバトラーがいないわ。あと、魔王はもう一人いるはず。ビビアン、油断しないでね。」


 確かにミーニャが言うように、この場所にデスバトラーがいないのはおかしい。

 ミーニャもまた、内から湧き出る嫌な予感が消えないでいると、ビビアンはそんな二人を見つめて言った。


「わかってるわミーニャ。アタシは一人で戦っているわけじゃない、みんなで戦うのよ。だから、お願い。アタシに力を貸して!」


 その言葉はこれまでのビビアンと全く違う。

 自分の事しか考えず、仲間を心から信頼していなかったビビアンはもういない。

 そしてその言葉を聞き、全員が力強く頷いた。


 遂に決戦の時は来た。


 果たしてこの戦いの後、一体どんな結果が待ち受けているのであろうか……。


 今、人間とモンスターによる歴史的大戦の幕が開くのであった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

異世界TS転生で新たな人生「俺が聖女になるなんて聞いてないよ!」

マロエ
ファンタジー
普通のサラリーマンだった三十歳の男性が、いつも通り残業をこなし帰宅途中に、異世界に転生してしまう。 目を覚ますと、何故か森の中に立っていて、身体も何か違うことに気づく。 近くの水面で姿を確認すると、男性の姿が20代前半~10代後半の美しい女性へと変わっていた。 さらに、異世界の住人たちから「聖女」と呼ばれる存在になってしまい、大混乱。 新たな人生に期待と不安が入り混じりながら、男性は女性として、しかも聖女として異世界を歩み始める。 ※表紙、挿絵はAIで作成したイラストを使用しています。 ※R15の章には☆マークを入れてます。

勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。

飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。 隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。 だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。 そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。

[完結]回復魔法しか使えない私が勇者パーティを追放されたが他の魔法を覚えたら最強魔法使いになりました

mikadozero
ファンタジー
3月19日 HOTランキング4位ありがとうございます。三月二十日HOTランキング2位ありがとうございます。 ーーーーーーーーーーーーー エマは突然勇者パーティから「お前はパーティを抜けろ」と言われて追放されたエマは生きる希望を失う。 そんなところにある老人が助け舟を出す。 そのチャンスをエマは自分のものに変えようと努力をする。 努力をすると、結果がついてくるそう思い毎日を過ごしていた。 エマは一人前の冒険者になろうとしていたのだった。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!

ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。 なのに突然のパーティークビ宣言!! 確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。 補助魔法師だ。 俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。 足手まといだから今日でパーティーはクビ?? そんな理由認められない!!! 俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな?? 分かってるのか? 俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!! ファンタジー初心者です。 温かい目で見てください(*'▽'*) 一万文字以下の短編の予定です!

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草

ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)  10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。  親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。  同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……── ※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました! ※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※ ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

処理中です...