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31 続・ガールズトーク 前編

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 大きな満月に照らされて、ほのかに明るい夜空の下。時折通り抜ける生ぬるい風が、火照った身体をそっと包み込む。

 左には、湯気が立ち上る露天風呂。

 右を見れば、多種多様な花や観葉植物が並ぶガーデンスポット

 更にスイートルームを覆う柵から下を見下ろせば、街に点在する民家の光が、静けさを纏った漆黒を照らし出し、それはまるで川沿いで見る蛍の光のように幻想的であった。

 正にこの場所は、この街で一番贅沢な空間と呼べるのではないだろうか。

 そして今現在、その癒しの空間で三人の美女がラウンジチェアに座り談笑をしている。

 この開放的かつ癒しの空間では、普段心に秘めている事すらも口に出てしまうかもしれない……。


「それで、姉さん。ぶっちゃけさ、どうなのよ? シャナクの事気になってるんでしょ?」


 いきなり、本命の話題をぶっこむミーニャ。


「え? なんのことでしょう?」


 そしてとぼけるマネア。


「師匠、それはありえないわよ。だってシャナクよ? おっさんじゃない。」


 そして相変わらずシャナクに失礼なビビアン。


 そう。三人は今、ガールズトーク本命の話題

  コイバナ

をしているのであった。


「ビビアン様、それは言い過ぎです。男性は三十歳を過ぎてから現れる魅力もありますので、決してシャナクさんに魅力がないわけではないです。」

「あーー! やっぱそうじゃん。好きなんじゃん! へぇー、姉さんはオジ専だったかぁ。道理で若い男に靡かない訳だ。」


 マネアの言葉に、腕を組みながらウンウンっと納得するミーニャ。


「だから違いますって! そういう事いってるんじゃなくて……あー、もう何も話しません!」


 ミーニャにからかわれて、マネアは顔を真っ赤にしてした。


「ごめんごめんって、折角こんな素敵なところにいるんだから怒らないでよぉ。」

「知りません!」


 ミーニャはすぐに謝るも、マネアは顔をプイッっと横に向ける。


「師匠。シャナクの事よりも、早くお酒を使った男を落とす技について教えて欲しいわ。」

「おっと、忘れてたわ。いいわねぇ、その貪欲さ。そういうところ、好きよ。」


 そう言うと、ミーニャは突然ビビアンのおでこにキスをした。

 どうやら既に大分酒が回っているらしい。

 その酒臭さにビビアンはしかめ面になる。


「ちょ、ちょっとやめてよ。酒臭いわ。それより早く教えてちょうだい。」

「焦らない焦らない。そういうとこだぞ、ビビアンちゃん。」

「えっ? そういうところって?」

「男はねぇ~、焦ってる女はすぐにわかるの。そういう女は安くて見られて、マトモな男は近寄って来ないわ。」

「ふむふむ。」


 酔っ払ってるはずなのに、妙に説得力がある話をするミーニャの言葉に、ビビアンは真剣な表情でそれを聞く。


「やっぱぁ~、男は落ち着きがあるおっとりした女性が好きだからねぇ。」

「ええぇ、じゃあ師匠だめじゃない。全然おっとりしてないわ。」


 早くも矛盾に気づくビビアン。


 しかし、それに対してミーニャは指を横に振って否定する。


「ちっちっち。違うんだなぁ。そういう事じゃないんだよねぇ。私は派手に見えても、誰にでも媚びたりはしないわ。」

「えっと……言っている意味がわからないわ。」

「だからね、落ち着きがあるのと見た目が派手なのは別ってことよ。なんていうのかしら? オーラ? ようは、男と接する時の心の余裕ね。」


 ミーニャはドーンと胸を張って自信満々にそう言い放つも、どうにも腑に落ちないビビアン。


「……うーん、よくわからないけどなんとなくわかったわ。でも、やっぱりオットリはしてないと思うわ。」

「まぁそれは好みの問題ね。私は違うけど、そういう感じの子が好きな男が多いって話。」

「難しいのね……。でもわかったわ! とにかくサクセスの前では余裕を持って接すればいいのね。なら、いつも通りにしていればいいわ。」


 ミーニャの話を半分も理解できないビビアンだったが、とりあえず無理矢理納得する。


「そうそう、ビビアンは今のままで充分可愛いわよ!」


 そう言いながら、ミーニャはビビアンの頭をいい子いい子するが、子供扱いされたように感じたビビアンは、微妙な表情だった。


「ねぇ、そんな事よりもお酒よ! お酒を使ってサクセスを落とす方法を教えてよ。」

「んもぉー、ほんと一途で可愛いわね! こんなにビビアンに思われてるなんて、サクセスって子は本当に幸せ者ね。ビビアンが男だったら私も好きになっちゃうかもしれないわ。」


 もう完全に絡み方が酔っ払いのアレなミーニャは、ビビアンに抱き着きながら、ひたすら「かわいいかわいい」を連呼している。

「ちょっと、ほんとやめてってば。もう飲み過ぎよ!」


 流石にこれにはビビアンも、いい加減ウザくなってきてしまった。


ーーしかし


「ふふふ、気付いてないわね。これこそが、男を落とす、酒を使ったテクニックなのよ。」


 突然さっきまでと変わって、シラフに話し始めるミーニャを見てビビアンは困惑した。


「え? どういうこと?」

「だぁかぁらぁ、こうやってお酒飲んで、酔っ払った振りをして相手に近づくのよ。そうすれば照れてできない事もお酒のせいにできるでしょ? 相手だって女性に抱き着かれて嫌だなんて思わないわ。むしろラッキーくらいに思うはずよ。わかった?」


 ミーニャの言葉にビビアンは目をパチクリさせる。


「今までの演技だったの!? 凄いわ師匠! 確かにアタシ、今の師匠の行動を酒のせいだと思ったわ。」


 ビビアンの言葉にフフフと不敵に笑うミーニャ。


「もっと褒めてもいいのよーん。」

「流石です師匠!」

「うふふ、でもそれはまだ序の口。もっと色々あるわ。」


 その言葉を聞いて前のめりになるビビアン。


「教えて下さい! 師匠!」

「いいわ、夜は長いもの。ゆっくり話してあげるわ。そこで聞き耳を立てているむっつりさんにも聞こえるようにね。」


 チラリと視線をマネアに向ける。


「だ、だ、だれがむっつりですか! 聞いてませんよ! そんなふしだらな話。」


 ずっと黙り込んでいたマネアが急に立ち上がって反論した。


「へぇ~、本当に聞かなくていいのぉ? これを聞いたらシャナクの心は鷲掴みよぉ。強がってないで、たまには本音で話しなさいよ。姉さん。」


 いたずらなセリフだが、ミーニャの目だけは真剣そのもので、マネアをジッと見つめていると、耐えかねたマネアは目を逸らした。


「わ、わたしはいつだって本音で話してます!」

「動揺しているところが怪しいわねぇ。まぁいいわ。でもせっかくだから、姉さんもここで風にあたっていなよ。こんないい夜はそうそうないわよ。」

「言われなくてもわかっています。ミーニャの話が聞きたいわけではないですが、折角なので、もう少しここで夜風に吹かれる花を愛でるつもりですから。」


 そういってもう一度ラウンジチェアに腰を掛けるマネア。

 実は、本当はミーニャの話が凄く気になってしょうがなかったのである。

 
 三人のガールズトークはまだ終わらない……
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