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第一章:アナザーニューワールド
54 刹那の幸福
しおりを挟むステップ地帯を駆け抜ける俺達。
駆け抜けるといっても、爆走しているのはブライアンなだけで俺達はそれに乗っているだけだが。
そして予想通り、マリリンとヒヨリンは想像以上の速さから掴む事に必死で、声を出せないでいる。
無意識に力強く俺に抱き着くマリリン……。
その豊満な胸は馬上の揺れで、俺の背中に擦りつけられる。
もにゅ……もにゅ……。
ブライアン……。グッジョブ!!
想像通り……いやそれ以上だ!
すまん、不謹慎なのはわかる。しかし最高だ!
帰りはヒヨリンとマリリンを逆にしてもらおうかな……。
ゲヘヘ……。
むくむくむく……。
これは違う。違うから!
朝モッコだから!
俺の背中を幸福感が包み込む。
押し付けられるマリリンの見事なパイオツに、目的を忘れてしまいそうになりそうだ。
だがしかし、幸福な時間は長く続かなかった……。
「静かなる風の精霊よ。我を守りたまえ、ウィンドプロテクション!!」
突然後ろからマリリンの声が聞こえた。
するとブライアンの爆走に伴う風圧がスッと消えていき、背中から幸福が離れていく……。
「え? 今のマリリンがしたの?」
残念さを隠しきれないまま、マリリンに尋ねた。
「ええ、そうよ。さすがにここまで速いとは思わなかったわ。でも安心して、私は風の精霊の巫女よ、この程度の事ならできるわ。」
ブライアンの背の上の風圧が消えたことで、速度は変わらないものの、会話ができるくらい揺れも風圧も無くなった。そして、俺に必死にしがみついていたマリリンはそっと離れて、腰に手を回すだけになる。
なんてこったぁぁぁ!
そんなの反則だろぉぉ!
そう叫びたい俺だが、それは必死に抑える。
そんな事を一言でも口に出したら、折角出会えた美女と仲良くなることが不可能になってしまう。
「そ、そっか……す、すごいね。そうか……残念だ。」
とは言え、最後に心の声がうっかり漏れてしまった。
だが、小さかったし聞こえなかっただろう。
そう淡い期待を抱いた俺だが、風が消えた今、しっかりとマリリンには聞こえてしまっていた。
だが、マリリンは違う解釈をしていた。
俺の残念そうな声を聞いて、自分の力がこんなものだと知って落胆させてしまったと勘違いをしている。
「ごめんなさいね、シン。私の能力はあなた程凄くないわ。でも、私達もできる限りの事はするわ、あなた達に任せっぱなしではいられないもの。」
しかし、その言葉に俺は何も返さなかった。
否! その言葉は俺には届かなかったのだ。
幸せの絶頂からどん底に戻され、ショックを受けすぎて放心状態になったのである。
俺はこの時、刹那の幸せをもっと噛みしめておけばと後悔するのであった。
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