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第一章:アナザーニューワールド

45 唸れ! メテオシュート

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【アズが駕籠に乗り込む1時間前】


 日が落ちかける時……。
 辺りは夕日に包まれ、青々しい草原は黄金色に染まっていた。
 そんな中、樹海の入り口の木の陰には2人と1匹のシルエットが浮かんでいる。
 鬼族に攫われている何者かを助け出すべく、隙を伺っているのは俺と愉快な2匹(あえてブライアンは動物枠)だった。
 俺が見る先には、袴姿の鬼族達が蟻の行列の如く、規則正しく列をなしてぞろぞろと北へ向かって歩いている。


「各員止まれ! ここで一旦休憩とする。者ども! 日が落ちる前に野営の準備を計れ!」


 そこでは、偉そうなチョンマゲ頭の鬼が怒号を飛ばしていた。


「しめたニャ! 丁度いいところで鬼族が休憩するニャ」

「おうよ! 行くぜバーロー!!」


 ブライアンはすぐさま鬼族に向かって駆け出そうと立ち上がるも、その動きは俺の右手によって止められる。


「待てブライアン、まだだ!」

「お? いつ行くんだ? 俺っちはもう我慢の限界だぜバーロー!」


 ブライアンは、珍しく気が立っていた。
 

「焦るなよ。せっかく助けられるチャンスが来るんだ。うかつに出て行けば逃げられるか、俺達の損害が大きくなる。」

「お、お、おう……。わかったぜバーロー。我慢するぜバーロー……。」


 俺は真剣な眼差しで見つめた言うと、ブライアンも落ち着きを取り戻す。


「すまない、ブライアン。もう少しだけ待ってくれ。奴らの動きや指揮系統を把握したい。」

「相棒がそこまでいうなら信じるぜ、だけどあいつら相手に俺っちは手加減できそうもねぇ。そこんところだけは忘れねぇでくれよバーロー。」


 ブライアンは、鬼族に対する深い憎しみから、鬼を見るだけで激しい怒りにかられてしまう。


 さて、どうしたものかな。
 せっかくの好機だ、失いたくはない。


 しばらくすると、鬼族の野営の準備が整い始めて、駕籠を守備する部隊と指揮官の部隊が二つに分かれ始めた。
 更によく観察していくと、駕籠を守備するのは鎧を纏った2匹の鬼族だけであり、一人は横になり、一人は駕籠の近くで警戒している。どうやら駕籠の守備は2名で行うようだ。
 駕籠の周りを囲むように野営の陣が出来上がっており、陣の先頭には先ほどの指揮官と思われる鬼が座っている。

 ふむふむ、これなら注意を引けば、なんとかなりそうだな。

 見晴らしのいい草原に陣を張っているからか、守備が若干ザルになっていた。
 そして日が完全に落ちると、鬼達は陣の中心で焚き火を始め、徳利のような物から何かを注ぎあっている。


「あれは……酒か!?」


 それはまるで、誰かが助けやすいように仕向けてくれているようにさえ思えた。酒まで飲んでいるのであれば、奇襲をかけるには絶好の機会である。俺はそのチャンスを見逃さない。


「アズ、ブライアン! 鬼族達が油断している今がチャンスだ! 作戦通り行くぞ!」


俺が立てた作戦は、

 最初にアズが駕籠に乗り込み、乗り込んだのを確認してから数分後に、俺が鬼族が集まっている場所に範囲攻撃を仕掛ける。

 そして、敵が慌てたところを馬化したブライアンが駕籠に向かって突撃して駕籠を壊し、ブライアンは俺の逆側から攻めて、一気に挟撃をする。

 アズはブライアンが駕籠を壊わした瞬間に、囚われた者達と一緒に駕籠から離脱して、予め俺が土の精霊の力で作った穴に飛び込んで逃げる。その穴は、みんなが合流する場所に繋がっている。

 最後に俺とブライアンは、アズの叫び声が聞こえたら一斉に離脱し、森へ逃げ込んで大樹の下に作った洞窟で合流だ。

 ちなみに、ブライアンには、もっと簡単に要点だけ説明しておいたが、多分大丈夫なはずだ。
 ダメなら、俺がどうにかするしかない。
 後は、信じるのみだ。


 そして事前準備が終わり決行の時が来た。
 アズが先行してから10分後、俺はブライアンに合図を告げる。


「作戦開始だ!」


 俺は闇夜となった草原を一気に駆け抜けて鬼族の近くまで行くと、ジャンプしながらバスケのシュートモーションを取った。


「メテオシュート!!」


 俺の手の平からバスケットボールが上空に放たれる。

 これは俺とアズがチュートリアルで対集団戦を念頭に練り上げた必殺技。
 コントロールの難しさから、長距離から放てないのがネックであるが、中距離攻撃としては、広範囲に絶大な威力を発揮する必殺技だ。

 俺の手から放たれたボールは、重力を感じさせずに上空にまで飛ぶと、今度は鋼鉄の硬さと重さに変化し、地面に向かって一気に着弾した。そして、地面に着弾すると、再度上空に舞い上がり、また落ちる。
 ようは、空爆だ。


 ドンっ! ドンっ! ドンっ! 


「ギャーーーーー!!」
「グエ!!」


 鬼族の陣内では、衝撃音と悲鳴が鳴り響き、付近の鬼族は片っ端から吹っ飛ばされていくのであった。
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