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第一章:アナザーニューワールド

41 マリリンとヒヨリン

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 マリリン達が鬼族の駕籠(かご)に乗せられ、村から出発してから20日が経過した。

 鬼族達は、指揮官を先頭にして列をなし、マリリンを乗せた駕籠1台と食料等を積んだ荷車10台を囲むように参列し、鬼族の町を目指して進行している。

 鬼族達が進んでいる場所は、ステップと呼ばれる丈の短い草原が広がる地帯となっており、降水量は少ないものの、昼と夜の気温差が激しい場所である。そのため、日が昇る前に動き始めて日が高くなると休憩し、気温が下がると再度出発して、日が落ちる前には暖をとって休むという行軍の流れのため、行軍速度は遅めである。

 そういった季候状況から、駕籠は通気性がよく設計されており、日中は比較的暑くはないものの、夜はかなり冷えた。大きめの毛布が駕籠の中には置かれており、日が落ちると二人は毛布にくるまっている。


 マリリン達が乗っている駕籠に窓はなく、木製の扉が1つあるのみで、扉の外側には閂が設置されているため、内側から外に出ることはできない。トイレ以外では外に出ることも、外を見る事も許されておらず、いつか村に戻りたいと戻っている二人にとっては不安しか残らない状況であった。


「冷えてきたわね、毛布を出すわ。」


 日が落ち始めて、駕籠の中に冷気が入り始めたことから、マリリンは駕籠の中に積まれている毛布を取り出し、ヒヨリンに渡す。


「ありがとうマリリン。ねぇ……鬼族の町って村からどの位遠いのかな?」


 ヒヨリンは渡された毛布を床に敷き、更にもう一枚を被るようにしながら、いつもと同じ話題の会話を始める。


「そうねぇ、村から出た事がないからわからないわね。でも指揮官の話だと、歩いて1ヵ月位って言ってたから、かなり遠いと思うわね。」

「私達、いつか村に帰ることできるかな……。それにしても今日はいつもより冷えるね。」


 ヒヨリンは毛布にくるまりながらもブルブル震えている。
 それは刺すような寒さのせいなのか、それとも不安のせいなのか、本人にすら分かっていなかった。


「寒いのはきっと、村から大分離れて気候が変わったせいかしらね。大丈夫、私達にはおばあ様がくれた幸福の加護があるじゃない。」


 そんなヒヨリンの様子を見たマリリンは、毎回同じ言葉でヒヨリンを慰めていた。


「そうだよね、大丈夫だよね。」


 そしてヒヨリンもまた、自分に言い聞かせるように毎回同じ返答を繰り返す。
 最初は不安で二人とも話すことなく、ただじっと駕籠の中で座っていたのだが、やることもなく外も見れない状況で、次第にどちらともなく昔の思い出話をし始めた。

 しかし10日も経つと話すような思い出話も尽きて、今では同じ事の繰り返しであった。

 しばらくすると駕籠の動きが止まり、駕籠が地面に降ろされる。
 どうやら今日の行軍は終わりで、鬼族達は野営の準備に入るようだ。

 30分もすると、いつものように駕籠の扉が外から開かれる。
 扉の外からは、毎度おなじみの赤鬼さんがご飯を差し入れてくれた。


「メシモッテキタ、キョウトクニサムイ、アタタカイスープ ヤル」


 赤鬼こと鎧オーガは味噌汁とおにぎりをお皿に乗せて持ってきた。


「あ……りがと……です」


 その風貌と顔の怖さから、何も返事をできなかったヒヨリンであるが、20日もすれば多少は返事ができるくらいにはなってきた。元々ヒヨリンは人見知りであり、家族やマリリン以外にはおどおどした話し方しかできないため、返事ができるだけ大分ましである。


「メシ、オワッタライエ。」


 それだけ言うと、赤鬼は再び扉を閉めた。
 マリリン達は、駕籠の中で手を合わせ「いただきます。」と言ってから食事を始めた。


「はぁ~あったまるわね。大根しか具はないけど、味噌汁はやっぱりいいわね。」


 マリリンは慣れ親しんできた味噌汁の味と温かさにほっこりする。


「ばぁばが作る味噌汁は美味しかった……ね。」


 ヒヨリンにとってのお袋の味は、育ててくれた巫女が作る味噌汁であり、その味と一緒に巫女が亡くなった事を思い出し、涙が溢れる。


「いつかまた、あの味の味噌汁を二人で作ろうね。」


 そんなヒヨリンをマリリンは抱きしめ、語りかけた。
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