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エピローグ

7 現実と妄想

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【カリーの家】

 フェイルが出て行った後、バンバーラはしばらくその場で泣き続けていると、二階から誰かが降りてくる音が聞こえてきた。

 この家にはフェイル含めて3人しか住んでいないのだから、誰が降りてきたのか直ぐにわかる。

 
 そう、カリーだ。


 カリーはこの三日間、食事に一切口をつけることなく、ベッドの中にいるか窓際の椅子に座って外を眺めているだけだった。

 そんなカリーだが、ベッドの中で寝ていると、ふと、体の上に暖かい重みを感じる。

 それは、今は亡きクロの温もり。

 しかし、それもまた全て都合のいいカリーの幻に過ぎなかった。
 クロは既に亡くなっており、いつものようにカリーの布団の上で寝ていることなんかありえない。

 それでもカリーは、目が覚める度にその重みに手を伸ばし続ける……。

 存在するはずがない温もりを求めて……。


 この日カリーは、目が覚めてから窓際の椅子に座って外をぼーっと眺めていた。
 目の前に映るのは、昔と違って瓦礫だらけの街並み。
 カリーの住む家は、貧民街といっても商業区画に近かった事から、多少外壁が焦げる程度はあったものの、建物自体の損傷は少ない。
 
 しかしながら、そこから見える景色は……あまりに殺風景なものだった。

 生い茂っていた草は燃え尽き、聳え立っていた木は一部を残して消え果て、見える家々はほとんど瓦礫の山となっている。

 だが不思議な事に、カリーの目には、昔住んでいた光景が映っていた。

 カリーの記憶が現実の風景を改竄(かいざん)し、昔の風景を脳に伝えていたのである。
 そこには、貧乏ながらも慎ましくも逞しく生きる人々が、毎日せっせと働き続けていた。
 そして時折聞こえる子供達の遊び声に、自分も昔はそうやって遊んでいたなぁ等と思いを馳せる。
 
 カリーはなぜこんな事を続けているのか? 

 それは待っているのだ。
 いつものようにローズが訪れてくるのを。

 しかし、三日経ってもローズは現れない。
 もしかしたら城で何かあったのではないかと、心配すらし始めた。


 そう思った時だった。


 遂にカリーの想いが届いたのか、ローズが子供達と楽しそうに話ながら現れる。
 その姿を見て、カリーはほっと胸を撫で下した。


 よかった、何もなくて。いつものローズだ。


 そう安心すると、もう少ししたら我が家に訪れると思い、その胸をドキドキさせる。


ーーだが、ローズが再びこの家に現れる事はなかった。


 いくら待とうとも、ローズが来ることはない。なぜなら、ローズはもうこの世のどこにも存在しないから……。

 それでもカリーは待ち続ける。
 ローズがいつもと同じ笑顔で迎えにくると信じて……。


 そう、カリーの心は完全に壊れていた。

 現実と夢の区別もつかない、いや、それどころか全ての記憶が混同しており、何がなんだかわからなくなっている。

 つまるところ、カリーの体は生命活動こそ止めないが、その中身は既に空っぽのままという事。


 しばらくカリーはそのままローズを眺めて待っていると、突然誰かが自分の部屋に入ってきた。

 姉のバンバーラだ。

 いつも、ご飯を用意してくれているが、なぜかわからないが全く食べる気がしない。
 それを何もいわず片付ける姉を見て、申し訳なくも思うのだがそれだけだ。


 だが今日はなぜか、おかしなことを口にする。


「カリー。今日はローズちゃんのお葬式が行われる日よ。……ちゃんとお別れをしてきた方がいいわ。」


 姉は悲しそうにそれだけ伝えると、それ以上は何も言わずに食事をテーブルに置いて下に行ってしまった。
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