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第三章

36 無力に涙する王子

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 さらに追い打ちをかけるように最悪な事が起きる。
 上空に退避したダークマドウは、遠くで見えるエンシェントドラゴンゾンビが暴れている状況を視認すると、カリーのブラフに気付いてしまった。

 騙されていた事を知ったダークマドウは、腸が煮えたぎるほどの怒りを覚えるが、逆に怒りが高まりすぎて冷静になる。


「いやはや、まさかこの私があんなフンに騙されるとは。この怒り100倍にして返してやりたいが……それは後にとっておくとしよう。勇者……そう、まずは勇者の息の根を止めねばならぬ!!」


 ローズを再び手に入れた事でダークマドウは気づいた。
 今やるべきことは、目の前のゴミ共を殺す事ではなく、恐怖の対象である勇者を殺すであると。
 今ならばエンシェントドラゴンゾンビと召喚したアンデッド集団で確実に勇者を殺す事ができる。
 それであれば、下にいる雑魚に構っている暇はない。


 そう結論を出したダークマドウは、カリー達をその場に放置して勇者のところへ向かっていってしまった。


「クソやろぉぉぉっ!! 逃げるんじゃねぇぇ!」


 自分達を放置して逃げるダークマドウを見て、カリーは叫んだ。
 そしてその怒りに満ちた激しい声にシルクが意識を取り戻す。

 シルクは目を開けると、そこにはローズもダークマドウもおらず、カリーだけが立っている事に気付いた。
 そしてその表情を見て、今しがた何が起きたかを察すると、倒れながらも言葉を発した。


「すまない! カリー!」

「気が付いたか?」

「あぁ、私が一緒にいたにも関わらず……」

「あ? そんな事は今更どうでもいいんだよ。それよりも急がないとまずい!」


 シルクはカリーに謝罪をするが、カリーはそんな事を全く気にしていなかった。
 それよりも遠くに逃げたダークマドウを今すぐ追いかけようとしている。
 当然、それに気づいていたシルクだが、上手く言葉を話せない。


「私は……」


 私はどうすればいいか……?


 全ての自信を失ったシルクは、そうカリーに尋ねそうになるも、途中で口を噤んだ(つぐんだ)。
 今まで自分の意思を貫き通してきた自分が、今更そんな情けない事を聞けるはずもない。
 
 本当なら、「私も一緒に向かう!」と叫びたいところだが、どの口がそんな事を言えるだろうか。
 自分は無力であり、約束一つも果たすことができない、口だけの人間だ。
 それであれば、最初から全て勇者達に任せていればよかったのではないか?

 自分を疑い、自分を信じられなくなったシルク。
 故に、このままカリーに付いて行っても邪魔になるだけだと思ってしまった。

 
 自分の力で妹を助けたい……。


 その思い上がった気持ちが、今の状況を引き起こしていることは、もはや明白の事実。


 悔しい……自分を許せない……何が命を懸けて守るだ……。


 自分の情けなさが悔しく、その目には涙さえ浮かんできた。
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