82 / 113
第三章
36 無力に涙する王子
しおりを挟む
さらに追い打ちをかけるように最悪な事が起きる。
上空に退避したダークマドウは、遠くで見えるエンシェントドラゴンゾンビが暴れている状況を視認すると、カリーのブラフに気付いてしまった。
騙されていた事を知ったダークマドウは、腸が煮えたぎるほどの怒りを覚えるが、逆に怒りが高まりすぎて冷静になる。
「いやはや、まさかこの私があんなフンに騙されるとは。この怒り100倍にして返してやりたいが……それは後にとっておくとしよう。勇者……そう、まずは勇者の息の根を止めねばならぬ!!」
ローズを再び手に入れた事でダークマドウは気づいた。
今やるべきことは、目の前のゴミ共を殺す事ではなく、恐怖の対象である勇者を殺すであると。
今ならばエンシェントドラゴンゾンビと召喚したアンデッド集団で確実に勇者を殺す事ができる。
それであれば、下にいる雑魚に構っている暇はない。
そう結論を出したダークマドウは、カリー達をその場に放置して勇者のところへ向かっていってしまった。
「クソやろぉぉぉっ!! 逃げるんじゃねぇぇ!」
自分達を放置して逃げるダークマドウを見て、カリーは叫んだ。
そしてその怒りに満ちた激しい声にシルクが意識を取り戻す。
シルクは目を開けると、そこにはローズもダークマドウもおらず、カリーだけが立っている事に気付いた。
そしてその表情を見て、今しがた何が起きたかを察すると、倒れながらも言葉を発した。
「すまない! カリー!」
「気が付いたか?」
「あぁ、私が一緒にいたにも関わらず……」
「あ? そんな事は今更どうでもいいんだよ。それよりも急がないとまずい!」
シルクはカリーに謝罪をするが、カリーはそんな事を全く気にしていなかった。
それよりも遠くに逃げたダークマドウを今すぐ追いかけようとしている。
当然、それに気づいていたシルクだが、上手く言葉を話せない。
「私は……」
私はどうすればいいか……?
全ての自信を失ったシルクは、そうカリーに尋ねそうになるも、途中で口を噤んだ(つぐんだ)。
今まで自分の意思を貫き通してきた自分が、今更そんな情けない事を聞けるはずもない。
本当なら、「私も一緒に向かう!」と叫びたいところだが、どの口がそんな事を言えるだろうか。
自分は無力であり、約束一つも果たすことができない、口だけの人間だ。
それであれば、最初から全て勇者達に任せていればよかったのではないか?
自分を疑い、自分を信じられなくなったシルク。
故に、このままカリーに付いて行っても邪魔になるだけだと思ってしまった。
自分の力で妹を助けたい……。
その思い上がった気持ちが、今の状況を引き起こしていることは、もはや明白の事実。
悔しい……自分を許せない……何が命を懸けて守るだ……。
自分の情けなさが悔しく、その目には涙さえ浮かんできた。
上空に退避したダークマドウは、遠くで見えるエンシェントドラゴンゾンビが暴れている状況を視認すると、カリーのブラフに気付いてしまった。
騙されていた事を知ったダークマドウは、腸が煮えたぎるほどの怒りを覚えるが、逆に怒りが高まりすぎて冷静になる。
「いやはや、まさかこの私があんなフンに騙されるとは。この怒り100倍にして返してやりたいが……それは後にとっておくとしよう。勇者……そう、まずは勇者の息の根を止めねばならぬ!!」
ローズを再び手に入れた事でダークマドウは気づいた。
今やるべきことは、目の前のゴミ共を殺す事ではなく、恐怖の対象である勇者を殺すであると。
今ならばエンシェントドラゴンゾンビと召喚したアンデッド集団で確実に勇者を殺す事ができる。
それであれば、下にいる雑魚に構っている暇はない。
そう結論を出したダークマドウは、カリー達をその場に放置して勇者のところへ向かっていってしまった。
「クソやろぉぉぉっ!! 逃げるんじゃねぇぇ!」
自分達を放置して逃げるダークマドウを見て、カリーは叫んだ。
そしてその怒りに満ちた激しい声にシルクが意識を取り戻す。
シルクは目を開けると、そこにはローズもダークマドウもおらず、カリーだけが立っている事に気付いた。
そしてその表情を見て、今しがた何が起きたかを察すると、倒れながらも言葉を発した。
「すまない! カリー!」
「気が付いたか?」
「あぁ、私が一緒にいたにも関わらず……」
「あ? そんな事は今更どうでもいいんだよ。それよりも急がないとまずい!」
シルクはカリーに謝罪をするが、カリーはそんな事を全く気にしていなかった。
それよりも遠くに逃げたダークマドウを今すぐ追いかけようとしている。
当然、それに気づいていたシルクだが、上手く言葉を話せない。
「私は……」
私はどうすればいいか……?
全ての自信を失ったシルクは、そうカリーに尋ねそうになるも、途中で口を噤んだ(つぐんだ)。
今まで自分の意思を貫き通してきた自分が、今更そんな情けない事を聞けるはずもない。
本当なら、「私も一緒に向かう!」と叫びたいところだが、どの口がそんな事を言えるだろうか。
自分は無力であり、約束一つも果たすことができない、口だけの人間だ。
それであれば、最初から全て勇者達に任せていればよかったのではないか?
自分を疑い、自分を信じられなくなったシルク。
故に、このままカリーに付いて行っても邪魔になるだけだと思ってしまった。
自分の力で妹を助けたい……。
その思い上がった気持ちが、今の状況を引き起こしていることは、もはや明白の事実。
悔しい……自分を許せない……何が命を懸けて守るだ……。
自分の情けなさが悔しく、その目には涙さえ浮かんできた。
0
お気に入りに追加
67
あなたにおすすめの小説
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
(完結)私は家政婦だったのですか?(全5話)
青空一夏
恋愛
夫の母親を5年介護していた私に子供はいない。お義母様が亡くなってすぐに夫に告げられた言葉は「わたしには6歳になる子供がいるんだよ。だから離婚してくれ」だった。
ありがちなテーマをさくっと書きたくて、短いお話しにしてみました。
さくっと因果応報物語です。ショートショートの全5話。1話ごとの字数には偏りがあります。3話目が多分1番長いかも。
青空異世界のゆるふわ設定ご都合主義です。現代的表現や現代的感覚、現代的機器など出てくる場合あります。貴族がいるヨーロッパ風の社会ですが、作者独自の世界です。
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる