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第三章

10 不吉な兆候

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【フェイル視点】


「どうやら始まったようだな。」

 
 遠くから鳴り響く爆発音を聞き、フェイルはカリー達が作戦を開始した事を知る。
 フェイルは二人に全幅の信頼を寄せていることから、そっちの心配はせずに自分のやるべきことに集中して周囲への警戒を強めていた。

 しかし、隣に立っているシルクは違う。
 その音を聞いた瞬間に、その顔色を青白く染め始めた。


「そ、そのようですね。……しかし、本当に大丈夫でしょうか?」

 
 シルクは不安だった。
 今の爆発音であれば山が崩落してもおかしくなく、当然ローズが生き埋めにされる可能性が高い。
 それを一瞬でも想像してしまったため、動揺が表に出てしまった。


「あぁ、心配ない。カリーとバーラなら間違いは犯さないだろう。それよりも、王子。お前の方こそ、しっかりしろ。魔族が現れた時、俺が必ず守れるとは断言できないからな。」


 フェイルは自信をもってそう言い放つと同時に、他人の事よりももっと自分の事を心配するべきだと告げた。


「それにつきましては、私が全力で王子をお守りしますので御安心ください。勇者様は、勇者様のすべき事に集中していただいて問題ありませぬ。」

「はい。私も今自分にできる事を精一杯やるつもりです。勇者様から見れば、私達はただの守るべき弱者としかみれないでしょう、しかし自分の身くらいは自分で守る術を得ております。」

「ならいいんだが……。まぁ、とりあえず油断だけはしないでくれよ。」

「はい。ご助言ありがとうございます。」


 その二人の言葉をフェイルは信用できなかった。
 それもそのはず。今まで本物の魔族や強敵と対してこなかった者達の基準では、何の担保にもならない。
 しかしそんな事を今更言っても仕方ないので、とりあえず警戒を強めるのであった。


 それからしばらくして、3人は自分達がいる東側の穴二つを警戒していると、今度はさっきまでとは違う地鳴りのような音が辺りに響き渡ってくる。


「どういう事だ? バーラが……いや、それはない。最後の爆発音から時間が経ち過ぎている。ということは……中で何かあったか……? 二人とも警戒してくれ、それと多分山から岩が崩れ落ちてくる。もう少し後方に距離を取ってくれ!」


 不測の事態ではあったが、フェイルの反応は速い。
 しかし場慣れしていないシルクは、今起きている状況よりも山は崩れないと言っていたのにそうならなかった事に怒りを表した。


「勇者様!! どういうことですか! 話が違うではありませんか!!」

「言ってる場合か!! それにこれはバーラの魔法の影響じゃない。断言する。そんな事よりも何か嫌な予感がするぞ。山の中から闇のオーラが漂って来やがった。ゼン! こいつを連れてもっと後方に下がれ。文句も拒否もなしだ! 早くしろ!」


 シルクはフェイルに噛みつこうとするが、相手にはされない……いやそんな事をしている場合ではなかったのだ。


(この感覚は……かつて邪龍と呼ばれる魔王軍幹部の一人と相対した時と似ている。)


 その様子を見たゼンは、まだ文句を言い足り無さそうなシルクを抱え込むと急ぎ後方に下がる。
 そしてフェイルの予想通り、その数秒後には山が内側から崩落していき、東側にある穴の一つも完全に潰れるのであった。


 ……その時、穴の中から二つの影が現れる。


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