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第三章

4 カリーの作戦

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 フェイル達が龍の巣穴付近にある草木に身を隠しながら周囲を警戒して、約一時間。
 理由は分からないが、その間に魔物に襲われる事もなければ山の方にも動きは見られない。 

 当然山を挟んだ向こう側の状況はわからない訳で、確実に動きがないかと断言できる事ではないが、少なくとも勇者の感がそう告げている為にフェイルは落ち着いていた。


 だが、シルクだけは違う。

 
 直ぐそこに妹がいるのに、何も出来ない自分。


 作戦を成功させる為にカリーが斥候として向かった事に納得はしているが、それでも時間がかかり過ぎている。
 当然この山は大きいので普通に外周を回るだけでも相当な時間はかかるし、ましてや抜け道のある無しを確認するともなればいつまでかかるのかがわからない。

 その状況に不安を募らせるシルクの表情は、とても冷静と呼べるものでは無かった。


「焦るなよ、王子。大丈夫だ、カリーなら直ぐ戻ってくる。少なくとも、アンタの予想よりかは早く戻って来るはずだーーほらな。」


 するとタイミング良く、近くの草葉が小さく揺れる。
 
 普通なら魔物の襲撃と勘違いしてもおかしくはないのだが、フェイルは長年の経験から、それが魔物ではなくカリーの帰還だと確信した。
 
 そしてそれは間違っていない。

 なんとカリーは30分もたたずに戻ってきたのである。
 これはフェイルの見立てよりも数段早かった。
 

「悪りぃ、待たせちまった。だが安心してくれ、どうやら隠し通路っぽいところはなかった。山は以前と変わっていない。そして中の熱反応にも動きはない。ローズはまだそこにいる。」


 戻ってくるなり、矢継ぎ早に欲しい情報を報告するカリー。
 それを聞いたシルクは、表情にこそ表さないもののかなり安堵した。


「いや、思ったりよりも大分早かったぞ。んで、どうするんだ?」

「そうだな。一番ベストなのはまずチームを二つに分ける。そして東には左右に二つの穴があるから、その中間点にフェイル、王子、ゼンを配置。俺と姉さんは北から反時計回りに穴を潰していく。」

「なるほどな、でもそれだと俺のいる場所に来るのが最後って事になるな。かなりリスキーじゃないか?」

「あぁ、リスクは承知だ。しかし、北と西の穴については、姉さんの射程なら同じ場所から一気に潰す事が可能なんだ。当然それでも南だけはカバー出来ないが、そこは俺がなんとかする。熱反応の場所から見ても出るまでに少なくとも十五分はかかるはずだから、俺だけなら間に合うはずだ。」


 カリーが冷静に作戦を提案すると、そこで初めて黙って聞いていたシルクが口を開いた。


「ちょっと待ってくれ。例え間に合っても貴様だけでローズを守れるのか? いや、この場合は救出か。」


 シルクの疑問は当然だった。
 勇者の強さについては今更疑う余地はないが、ラギリ相手に不覚を取り、更にはローズを助けられなかったカリーについては信用できない。
 当然それは、言葉にも態度にも表れていた。
 だが、カリーはそんなシルクの言葉にも冷静に答える。


「まぁ無理だろうな。だが、時間を稼ぐだけならやりようはある。その間にフェイルが来てくれるだろう。大丈夫だ。」


 簡単に無理だと言い放つカリー。
 それを聞いたシルクは怒りすらも覚える。


「ふん。結局は勇者様頼みか。だが、もしも私を含め勇者様が気づかなかったらどうする?」


 シルクはその言葉を鼻で嗤い、全く納得をしていなかった。
 そんな一か八かの作戦にローズの命を賭ける訳にはいかない。

 本来シルクは、こういった客観的な判断を口にする者を信用する方である。
 しかしながら、今の精神状態ではそれも難しかった。
 ローズを救出できないとハッキリ口にしたその言葉が許せない。

 しかしそんな失礼なシルクの言葉にも、カリーは怒る事無く冷静に説明を続けた。


「安心しろ。俺たちには俺たちの合図がある。フェイルなら間違いなく気づく。とは言え、あくまでこれは俺の最適と思える提案だ。俺の考えが絶対に正しいかなんてわからない。だから、他に最善の方法があるなら別にそれでいい。俺はローズさえ救えるならなんだって構わないからな。」


 カリーの頭の中は、いかにしてローズを確実に救うかしか頭にない。
 ローズを救えるなら誰のどんな作戦でも構わなかった。
 今必要なのは、1%でも高い確率でローズを救う方法だ。


 それでもシルクは納得していないが、この説明を聞きフェイルはそれを最適解だと判断する。


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