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第二章

3 懐かしき声

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「フェイル!! 姉さん!!」

 
 カリーは厩舎に到着するやいなや、馬に跨る二人を発見して大声で呼んだ。
 その焦った様子のカリーを見て、フェイル達は自分達の知らない緊急事態が発生している事を察する。

 とはいえ、フェイル達もまた厩舎付近で現状について確認はしていた。

 突然、魔物が襲撃してきた事。
 貧民街だけが被害に遭っている事。
 既に魔物は討伐されて、兵士達による消火活動が行われている事。
 
 この三つを聞いていたため正直焦った様子はなかったのだが、カリーの様子を見て考えを改めた。


「カリー。急ぎなんだろ? とりあえず馬に乗れ。お前の馬に俺達は付いていく。だから、何があったか走りながら説明してくれ。」

「助かる。まずは貧民街の方に向かうからついて来てくれ。」


 カリーはそう言うと、馬に飛び乗ると直ぐに走らせる。
 そして、貧民街に向かう途中で二人にローズ姫の事を話した。


「そういうことか……。しかし、ローズ姫ってのはすげぇお転婆なんだな。……だが、民の為に身を投げられる王族はほとんどいない。そんな素晴らしい姫じゃ、絶対助けないとなカリー。」

「あぁ……。あいつは昔から無茶しすぎなんだよ。自分の立場なんか考えねぇで、人の事ばかり心配して……。」

「だからあんたは、そんなローズちゃんを守りたくて強くなろうとしたんでしょ? ほら、顔を上げなさい。絶対助けるわよ。」


 そんな会話をしている内にやがて貧民街が見えてくる。
 だがしかし、そこは慣れ親しんだ町の面影は何一つ無かった。
 炎こそ消えているものの、歩けるような道は瓦礫のせいでほとんどなく、周りの物全てが焼けこげている。


「姉さん、もしも途中で生きている人がいたら俺に構わず回復してあげてくれ。俺はこのまま養護施設の方まで一気に進んで行く。」

「わかったわ。でもねぇ……あちこちに兵士がいるから多分平気だと思うわ。」

 
 バンバーラがいうように、現在貧民街には多くの兵士達が何かを血眼になって探している。

 既に魔物は討伐されており、火も消えていることから生存者を探しているのだろうか?
 しかし、貧民街の生き残りの捜索にそこまで兵士が躍起になるだろうか?

 そんな疑問を一瞬抱くも、直ぐに彼らが何を探しているのか思い当たった。

 ローズの捜索だ。
 マザーから既に兵士が話を聞いているのが、考えて見ればそれは当然の事である。

 しかしそこでカリーは再び考える。

 現在これだけの人数で捜索しているにも関わらずローズが見つかっていない。
 それが意味するのは、ローズの死体がここにはないという事。
 つまりは、ローズは生きている可能性が高い。

 それならどこに?

 悪い方で考えれば、魔物につれ攫われた。
 良い方で考えれば、取り逃がした魔物を追っている。


 そんな事を頭の中で考えていると、瓦礫の下の方から何かの声が聞こえた。
 小さすぎてうまく聞き取れなかったが、カリーはその声を知っている。


「どうした? カリー。ここが目的の場所か?」


 急に馬を止めたカリーに、フェイルが不思議そうに尋ねた。
 目的の場所にしては、ここは瓦礫しか見当たらない場所だったからだ。


「いや、違う。ちょっと待ってくれ。」


 カリーはそれだけ言うと馬から降りて、近くの瓦礫を持ち上げる。
 するとそこには真っ黒な色をした猫が、体中を焼けこげさせて瀕死の状態で倒れていたのだった。


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