上 下
355 / 397
第四部 サムスピジャポン編

103 祖父の優しさ

しおりを挟む
【シルク側視点】


 四聖獣召喚解除まで、タイムリミットは三分。その短い時間の中で、シルクは前線をできるだけ奥まで進めていた。

 そして通路を大分進んだところで見つける……魔獣が溢れ出してきた原因を。


「なるほど……こんなところに横穴があったでがんすか。あの魔方陣を壊せばいいでがんすね。」


 思いの外、四聖獣が想像以上に強く、通路上にいる魔獣のほとんどが既に倒されている。とはいえ、それでも魔獣が全滅することはない。

 というのも、この場所に突然溢れ出した魔獣は、紫色に光った直径二メートル大の魔方陣から召喚され続けているからである。

 ライトプリズンを張った場所より少し手前、来た時はなかったはずの横穴が通路の両サイドにできており、その奥に魔方陣はあった。

 ハンゾウ……いや、妲己に操られていたハンゾウは、自分達がこの火山に来る前にこの罠を仕掛けていたのであろう。そうでなければ誰にも気づかれることなく、こんな巧妙な罠は設置できない。

 とはいえ、四聖獣の大活躍とシルクの奮戦によって、何とかこの罠が見えるところまで辿り着く事ができた。

 この二箇所の魔方陣さえ壊せば、ライトプリズンまで逃げる事は可能であり、そこまで行けばサクセスと合流するのも難しくはないだろう。


「残り時間30秒……いや、そんな時間もないかもしれないでがんす。」


 一瞬セイメイのいる後方を振り返ったシルクは、二人の様子を見て呟いた。

 遠目ではあるが、セイメイとロゼがかなり憔悴しているのがわかる。

 シルクが前線を上げてから2分半が経過しているが、セイメイが四聖獣を召喚してからとなると既に三分は過ぎていた。

 未だ四聖獣が消えていないことから二人の精神力はまだもってはいるが、そろそろ限界が近いだろう。


(急ぐでがんす! この魔方陣さえ壊せば、四聖獣を維持しなくていい)


 シルクは焦りながらも冷静に、あるアイテムを取り出した。


  【爆砕札】


 これは陰陽師対策として、各国が用意している貴重なアイテム。


 戦時中、陰陽師部隊はこういった大掛かりな魔方陣を設置し、様々な罠を仕掛けることがある。
 それに対抗する為作られたアイテムがこれだ。
 この札は魔方陣に設置することで、その名前の通り魔方陣を爆砕させるもの。
 その実用性の高さは折り紙付きであり、これを所有していない国はまずない。

 だがこの札を作れる者はサムスピジャポン広しと言えど非常に少なく、それ故にかなり高価な物だ。
 故にもし国が魔方陣を発見しても、この札が使われることは少なく、通常魔方陣の破壊は陰陽師による破壊が基本だった。

 しかしながら今回の様に魔獣を転移させたり、魔獣召喚に類するような極めて危険な魔方陣に対しては、悠長に陰陽師を待っているわけにもいかないため、見つけ次第この札を使って早期に破壊する。

 そんな貴重なアイテムではあるが、シルクは皮肥城を出立する際に持っていっていた。

 皮肥城にある爆砕札の数は5枚。

 その内シルクは国に2枚残し、3枚は不測の事態に備えて常に携帯している。

 そして今、蜻蛉切の先にその札を張り付けると、腰を落として下半身に力を溜めた。


  【ホーリーラッシュ】


 そのスキルを発動させると、シルクは大鉾を前に突き出しながら猛烈な勢いで魔方陣に突撃する。

 魔方陣からは次々と魔獣が出てくるため、未だにその付近にいる魔獣は多く簡単には近づけない。

 しかしながらこのスキルは、聖なる波動を放ちながら突撃する技であり、その波動に触れた魔獣は聖属性ダメージを負うと同時に大きくノックバックする。

 だが同時に弱点も存在する技で、その聖なる波動は魔に触れる度に小さくなっていき、やがて消えてしまう。

 つまり、目の前の魔獣全てを吹き飛ばす力はないという事。

 故にシルクとしても一か八かの賭けであったが、時間がない今、これに賭けるしかなかった。

 しかし幸運な事に、近くで魔獣を屠ってくれていた四聖獣の内、朱雀と白虎がその意図を汲み取ったかのように、シルクの両脇を併進し、魔方陣までの魔獣を減らしてくれた。

 それによりシルクの大鉾は魔方陣に見事に届き、ガツンっという大きな衝突音の後、魔方陣は木っ端微塵に爆発する。


「後一つ! 頼むでがんす! 四聖獣様!」


 まず一つ目の魔方陣を壊したシルクは、直ぐに反転し、次の魔方陣を見据えて言った。
 すると今度は、朱雀と白虎がシルクより先に魔方陣に向かって突撃を開始し、溢れ出てくる魔獣を次々と倒し始める。

 再度シルクは爆砕札を蜻蛉切に張り付けると、すかさずスキルを発動させた。


 【ホーリーラッシュ】


 今度はさっきよりも魔方陣の前に陣取る魔獣の数が少ない。
 既に向こうの魔方陣は見えている。

 四聖獣の動きは早く、そして何よりも強かった。

 シルクより先に動いてくれた四聖獣のお蔭もあり、今度はホーリーラッシュによって弾き飛ばした魔獣は魔方陣の前にいる二対だけ。

 そしてさっきと同じ様に二つ目の魔方陣を爆砕すると、残りの魔獣は四聖獣によって滅ぼされていた。

 
ーーもうこの場所に魔獣はいない。


「セイメイ、ロゼ! 召喚を解除するでがんす!」


 シルクは叫ぶと同時にセイメイ達の下へ駆けていく。
 そしてその声は大きく、遠くにいる二人にも届いたようだ。


 一緒に行動をしていた四聖獣達が光に戻っていく。


「感謝するでがんす。四聖獣様」


 シルクはそう呟くと、セイメイがフラフラとしながらも立ち上がる様子が見えてきた。その横には卑弥呼を背負ったロゼもいる。


「セイメイ! 大丈夫でがんすか!?」

「は、はい。私は大丈……夫です。それよりも急ぎましょう。」


 セイメイの精神力は既に尽きており、残りは生命力で召喚を維持していた。
 その負担は相当なものであり、本来なら立ち上がる事どころか、思考すらできない程のものだった。
 それにもかかわらず、セイメイは今の状況を正確に把握し、急いで退却しようとしたのだ。

 その根性は賞賛ものである……が、やはり直ぐに動くのは無理だろう。


「無理をしないで下さいセイメイさん! おじい様、セイメイさんを背負ってください。」


 どうみても大丈夫そうではないセイメイを見て、ロゼはシルクに言った。
 ロゼもセイメイと同じように精神力を巻物に注入していたのであるが、そのほとんどをセイメイが請け負っていた為、ロゼのダメージはセイメイ程ではない。

 といってもロゼも大部分の精神力と体力を吸われていたのだから、本当なら立っているのもかなり辛いはず。

 それでも卑弥呼を背負い立ち上がることができたのは、その心の奥底にある「みんなの役に立ちたい」という強い気持ちがその精神を支えているからだった。

 シルクはそんなロゼを見て、孫の成長を嬉しく思う。

 だがそれと同時に、こんな危険なところへの同道を許してしまった事を後悔する。


(情けないお爺ちゃんで済まぬ。だが、お前は絶対ワシが必ず守って見せるぞ……今度こそ)


 シルクはロゼの後ろに行くと、背負っていた卑弥呼を抱きかかえ、それと同時にセイメイを背負う。


「シルク殿! 私はまだ……」

「御爺様、卑弥呼様は私が背負います!」


 二人は同時に叫ぶも、シルクはそのまま前へと進んだ。


「無理をしなければならない場合と、無理をしてはいけない場合があるでがんす。いいからついてくるでがんす」

「……はい。」


 その言葉を聞いたロゼは素直にそう返事すると、シルクの後ろを小走りしてついていく。

 自分の強がりに気付き、優しく諭してくれる祖父の背中を見て、ロゼは感謝した。


(いつもありがとうございます。おじい様)


 だが次の瞬間、突然後方……カリー達が戦っている場所の方から爆発音が聞こえる。

 イヤな予感を感じたロゼは、一瞬立ち止まって振り返ろうとするが、その前にシルクが叫んだ。


「今は信じるでがんす! 俺っち達の役目はサクセスを連れてくる事でがんす!」


 ロゼはハッとした表情になる。
 自分のやるべき事を間違えてはいけない。
 残っていても足手まといにしかならない。


 だからこそ……行かなきゃ!


「……わかりました。急ぎましょう。」


 ロゼはそうシルクに答えると、後方を振り返るのをやめてそのまま前へと進んだ。


(お願いカリー。どうか無事でいて!)


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

俺のスキル『性行為』がセクハラ扱いで追放されたけど、実は最強の魔王対策でした

宮富タマジ
ファンタジー
アレンのスキルはたった一つ、『性行為』。職業は『愛の剣士』で、勇者パーティの中で唯一の男性だった。 聖都ラヴィリス王国から新たな魔王討伐任務を受けたパーティは、女勇者イリスを中心に数々の魔物を倒してきたが、突如アレンのスキル名が原因で不穏な空気が漂い始める。 「アレン、あなたのスキル『性行為』について、少し話したいことがあるの」 イリスが深刻な顔で切り出した。イリスはラベンダー色の髪を少し掻き上げ、他の女性メンバーに視線を向ける。彼女たちは皆、少なからず戸惑った表情を浮かべていた。 「……どうしたんだ、イリス?」 アレンのスキル『性行為』は、女性の愛の力を取り込み、戦闘中の力として変えることができるものだった。 だがその名の通り、スキル発動には女性の『愛』、それもかなりの性的な刺激が必要で、アレンのスキルをフルに発揮するためには、女性たちとの特別な愛の共有が必要だった。 そんなアレンが周りから違和感を抱かれることは、本人も薄々感じてはいた。 「あなたのスキル、なんだか、少し不快感を覚えるようになってきたのよ」 女勇者イリスが口にした言葉に、アレンの眉がぴくりと動く。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

キャンピングカーで往く異世界徒然紀行

タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》 【書籍化!】 コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。 早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。 そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。 道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが… ※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜 ※カクヨム様でも投稿をしております

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

処理中です...