308 / 397
第四部 サムスピジャポン編
59 静かな湖畔
しおりを挟む
関所を通り抜けた俺達は、山を下りながら近くの村に進んでいくと、俺はあるものを目にする。
それは、見た事がないほど大きな池だった。
イモコが言うに、それは「塩野湖」と呼ばれる有名な湖らしい。
そして今、その外周……いわば湖のほとりを進んでいるのであるが、そこから見える湖は、魚鱗の輝きまで映す程に透明で美しく、更に西空より日落ちを告げる光を反射し、水面がキラキラと煌めいている。
そんな美しい湖があるのだから、当然この村は有名な避暑地スポットと知られ、多くの旅人が一目この輝く湖を見ようと訪れる場所だそうだが、この村で有名なのは塩野湖だけではないらしい。
この場所から少し歩くと、季節毎に彩られる木々が立ち並ぶ森林地帯があり、その奥には白糸のように地下水が流れ落ちる有名な滝が存在するようだ。
そんな名所が多数あるこの村。
それにも関わらず、俺達はほとんど誰ともすれ違わない。
時間的に間もなく日が落ちる頃合いとはいえ、それだけ有名な村であれば人馬の往来も多いはず。
不思議に思った俺はイモコに聞いてみると、
「この村は中心街からも離れている為、たまに訪れる旅人でもいない限り、人は少ないでござる。まぁそれだけではないと思うでござるが。」
と、少し何かを濁らせて答えた。
しかし、言われてみればわからなくもない。
確かにこの素晴らしい風景も、見慣れてしまえば感動は薄れるだろうし、色々便利な店が立ち並ぶ中心街から、わざわざこの村に移住するメリットも少ないのだろう。
だからこその観光名所という訳だ。
つまりここは、お忍びで誰かと会うには絶好の場所である。
とまぁそんな事を考えるのも馬鹿馬鹿しいほど、ここから見える風景は素晴らしいんだけどね。
「ここは本当に長閑で美しい村だなぁ、イモコ。」
「そうでござるな。この風景を見ているだけで、心が洗われる気分でござるよ。」
俺の言葉を受け、感慨深げに返答するイモコ。
「心が洗われる……か。本当にその通りだな。空気もなんか凄く美味しく感じるよ。」
そう言って俺は思いっきり空気を肺に流し込むと、目をを細める。
やはりうまい。
この美しい湖が何か影響しているのだろうか?
それともこの湖畔沿いに咲き誇る可憐な花達のせいだろうか?
そんな疑問を想い浮かべながらも、俺達の移動は穏やかに続いて行く。
それからしばらくして、イモコが湖の先を指差した。
「師匠、見えてきたでござる。あれが、某たちが今夜泊まる宿でござるよ。」
俺はイモコが差す方に目を向けると、そこには竹林に囲まれた大きめの宿屋が見える。
「おぉ! やっとか。日が完全に落ちる前で良かったな。それに遠目からでも良さそうな感じがビンビンするぜ。いいねぇ、ハンゾウもいいところを指定してくれたなぁ。」
既に大分日も落ちかけていたが、それでも遠目に映る宿は立派に見えた。
そして俺はワクワクしながらそうイモコに話すと、イモコは何故か真面目な顔をしている。
「そうでござるな。しかしながら、あそこを選んだのには理由があるでござるよ。」
「理由?」
「そうでござる。あの宿は、金さえ積めば貸し切りできるでござる。故に、多くの国の偉い者達はあの宿で密談をしてきたでござるよ。」
イモコの口から出るうんちく。
俺はそれをフンフンと聞きつつも、ちょっとだけ不安になった。
なぜなら、そんな密談で有名な場所ならば逆にヤバイのではないだろうか?
もしも、隠密に長けた者が仲居として潜り込んでいれば、色んな情報が筒抜けになる。
つまり卑弥呼陣営に対して、俺達が探りを入れている事がバレてしまうかもしれない。
しかしそう思った瞬間、俺は気づいてしまった。
それでもなお、ここを選んだ理由を。
「もしかして……あそこってさ。」
「流石は師匠でござる。気付いたでござるか?」
どうやらイモコも俺がそれに気づいた事がわかったらしい。
だが、あえて俺は気づいた事を口にして確認する。
「あぁ、あの宿は……ハッタリハンゾウが所有しているんだろ? だから、他では知りえない重要な情報が入ってくる。」
「半分正解でござる。ハンゾウが所有しているのは宿だけではござらん。この村全てがハンゾウの所有物でござるよ。」
その言葉に驚きを隠せない俺。
「は? まじ?」
「本当でござる。ハンゾウは、こういった場所をいくつも意図的に作っているでござるよ。」
こういった場所?
作っている?
「どういう事?」
「えらい人が密談するのに最適な環境自体を作るという事でござる。それには情報操作から、人の流入の調整も含まれているでござる。今日、人が少ないのも全てハンゾウが手配したと思われるでござるよ。」
まじかっ!?
不便だから人がいない訳ではなかったのか。
だとすれば、ハンゾウとかいう奴は相当大物じゃん。
「なるほどな。怪しい名前の癖に商人という肩書は本当らしいな。いや、大商人か。まぁ何にせよ、そう言う事なら色々と期待できそうだな。」
「その通りでござる。しかし、今回の密談には某だけが参加する故、師匠達には待っていて欲しいでござるよ。」
「あぁ、色々と悪いな。イモコ。頼りにしている。」
改めて俺はイモコに感謝した。
確かにハンゾウが凄いという事はわかったが、それ以上に、そんな大物とつながりを持っているイモコが凄い。
この大陸に着いてから、イモコの存在の大きさを身に染みて感じている。
そしてそれにも関わらず、態度を変える事なく、色々と尽くしてくれている事に感謝が尽きなかった。
しかし感謝を受けたイモコは、相変わらず低姿勢のまま、恐れ多いと言わんばかりの表情をしている。
「め、滅相も無いでござる。そもそもこれは某達の国の問題であり、師匠は本来関係ない事でござる!」
「いや、だとしてもだ。俺はイモコに感謝している。だから、これからも頼りにさせてくれ。」
俺はハッキリとそう告げると、イモコは深く頭を下げた。
「あ、ありがたき幸せでござる! 師匠にそのような言葉を掛けられるとは、感激の極みでござる。」
「あはは、大袈裟だなぁ。まぁとりあえず、向こうで怪しまれるような事はないと思うけど、俺達は普通にしていた方がいいだろ?」
「そうでござるな。旅の疲れをゆっくり癒していただくでござる。」
その言葉に甘えて、俺は久々の豪華そうな宿を満喫するつもりだ。
あの宿の佇いからして、かなり色々と期待できるだろう。
それを考えるだけで、俺の期待は大いに膨らんだ。
……まぁ、膨らますのは期待だけではないつもりだが。
ーー故に尋ねる。
「おう! 楽しみだな。 ち、ちなみにだけどさ?」
「なんでござるか?」
「温泉……あるよね?」
俺がそう聞くと、イモコは不思議そうな顔をした。
まぁ普通に考えて、温泉が無い訳がない。
でも、聞きたいのはそこじゃないんだなぁ。
「当然あるでござる。それはもう、大層広く、そして風情ある景色が見える露天風呂があるでござるよ。」
やはりそうか。
イモコの話を聞いて俺は予想をしていた。
イモコはここに来た事があると。
……であれば、知っているはずだ。
「ほほぅ……風情ある……景色ねぇ。」
意味深に言葉を紡ぐ俺。
それを聞いて、イモコが感づいたようだ。
「師匠……まさかっ!?」
「言うな! イモコ! どこで隠密が聞いているかわからぬ!」
イモコの声が大きくなったことで、周囲を警戒する俺。
この馬車の後ろには、シロマ達が乗る馬車が続いている。
間違っても、これからする話を聞かれる訳にはいかなかった。
「ぎょ、御意!」
「んで、イモコは入った事あるんだよな? 露天風呂。」
「一度だけでござるが……。」
ふむ。なら知っているはずだ!
お偉いさん達が秘密裏に利用すると聞いた時から俺は考えていた。
えらい奴というのは大抵エロい奴。
そう、【偉い=エロい】はきっと世の常だ。
ボッサンはともかくとして、センニンもそうだったし、噂だとアリエヘン王も相当な変態らしい。
サムスピジャポンとて、例外ではないだろう。
であれば、間違いなくあるはずだ。
秘密の抜け穴……いや、ロマンティックホールが!
「そうか。……で、穴は見つかったか?」
俺は単刀直入にイモコに尋ねた。
「き、記憶にはないでござるが……しかし、師匠。本当にやるでござるか?」
どうやらイモコは俺を心配しているようだ。
しかし、安心してほしい。
俺には秘策があるんだ……ミラージュという秘策がな!
穴さえ見つかれば、どうとでもなるさ!
「あぁ……。やっぱり男ならな。俺はロマンの為なら命を張れる!!」
そう胸を張って言い切る俺。
自分でいうのもなんだが、俺はやはり少し頭がおかしいのかもしれない。
「そうでござるか。しかし、某は……。」
「みなまで言うな。わかっている。イモコは何もしなくていい。俺も今回シロマ以外を見るつもりは……多分ない。」
一瞬ロゼッタの美貌を思い出し、心が揺れた。
しかし、なんとなくだがそれはカリーに失礼な気がするのでやめておこうとおもう。
それにシルクにバレたら……殺されかねない。
「わかったでござる。しかし、師匠ならば直接頼めば見せてもらえないでござるか?」
「馬鹿言え! それのどこにロマンがあるんだ! 苦難を乗り越えた先にしか見えないものがあるだろ!」
「し、師匠! 声が大きいでござる。」
おっと。つい、エキサイティングしてしまった。
「まぁそう言う事だから、もし密談で機会があったら是非聞いてくれ。」
今しがた何もしなくていいと言った側からお願いしちゃう俺。
そんな下衆な俺だが、許してほしい。
その想いが通じたのか、イモコは首を縦に振ってくれた。
「わ、わかったでござる。」
しかし、それを見てやはり考えを改める。
「いや、やっぱなしだイモコ。今のなし!」
やはりこういう事は、人に頼むものではない。
「本当によろしいでござるか?」
そういって念を入れて確認するイモコだが、少しだけ安心を漂わせている。
どうやら変態の片棒を担ぐのは、弟子としても嫌だったらしい。
まぁ当然だよね。
「あぁ、男に二言はない。俺は自力で壁を乗り越えて見せるよ!」
「か、壁を乗り越えるでござるか!?」
「ば、ばか。声でけぇって。違う違う、例えの話!」
流石に今のは聞かれたかもしれないと思い後ろを振り向くも、御者にはセイメイしか見えなかった為、多分セーフだ。
「申し訳ないでござる。」
「まぁ、そんな訳だからイモコは自分のやるべき事に専念してくれ。俺は俺でやるべきことをする。」
「御意。」
俺のマジな目を見たイモコは、一言だけそう言うと、何も言わなかった。
若干、その瞳が残念な者を見る目に見えたのはきっと気のせいだろう。
とまぁ、そんな下衆な思惑を秘めながらも、俺達は密談場所である旅館宿に辿りつくのであった。
それは、見た事がないほど大きな池だった。
イモコが言うに、それは「塩野湖」と呼ばれる有名な湖らしい。
そして今、その外周……いわば湖のほとりを進んでいるのであるが、そこから見える湖は、魚鱗の輝きまで映す程に透明で美しく、更に西空より日落ちを告げる光を反射し、水面がキラキラと煌めいている。
そんな美しい湖があるのだから、当然この村は有名な避暑地スポットと知られ、多くの旅人が一目この輝く湖を見ようと訪れる場所だそうだが、この村で有名なのは塩野湖だけではないらしい。
この場所から少し歩くと、季節毎に彩られる木々が立ち並ぶ森林地帯があり、その奥には白糸のように地下水が流れ落ちる有名な滝が存在するようだ。
そんな名所が多数あるこの村。
それにも関わらず、俺達はほとんど誰ともすれ違わない。
時間的に間もなく日が落ちる頃合いとはいえ、それだけ有名な村であれば人馬の往来も多いはず。
不思議に思った俺はイモコに聞いてみると、
「この村は中心街からも離れている為、たまに訪れる旅人でもいない限り、人は少ないでござる。まぁそれだけではないと思うでござるが。」
と、少し何かを濁らせて答えた。
しかし、言われてみればわからなくもない。
確かにこの素晴らしい風景も、見慣れてしまえば感動は薄れるだろうし、色々便利な店が立ち並ぶ中心街から、わざわざこの村に移住するメリットも少ないのだろう。
だからこその観光名所という訳だ。
つまりここは、お忍びで誰かと会うには絶好の場所である。
とまぁそんな事を考えるのも馬鹿馬鹿しいほど、ここから見える風景は素晴らしいんだけどね。
「ここは本当に長閑で美しい村だなぁ、イモコ。」
「そうでござるな。この風景を見ているだけで、心が洗われる気分でござるよ。」
俺の言葉を受け、感慨深げに返答するイモコ。
「心が洗われる……か。本当にその通りだな。空気もなんか凄く美味しく感じるよ。」
そう言って俺は思いっきり空気を肺に流し込むと、目をを細める。
やはりうまい。
この美しい湖が何か影響しているのだろうか?
それともこの湖畔沿いに咲き誇る可憐な花達のせいだろうか?
そんな疑問を想い浮かべながらも、俺達の移動は穏やかに続いて行く。
それからしばらくして、イモコが湖の先を指差した。
「師匠、見えてきたでござる。あれが、某たちが今夜泊まる宿でござるよ。」
俺はイモコが差す方に目を向けると、そこには竹林に囲まれた大きめの宿屋が見える。
「おぉ! やっとか。日が完全に落ちる前で良かったな。それに遠目からでも良さそうな感じがビンビンするぜ。いいねぇ、ハンゾウもいいところを指定してくれたなぁ。」
既に大分日も落ちかけていたが、それでも遠目に映る宿は立派に見えた。
そして俺はワクワクしながらそうイモコに話すと、イモコは何故か真面目な顔をしている。
「そうでござるな。しかしながら、あそこを選んだのには理由があるでござるよ。」
「理由?」
「そうでござる。あの宿は、金さえ積めば貸し切りできるでござる。故に、多くの国の偉い者達はあの宿で密談をしてきたでござるよ。」
イモコの口から出るうんちく。
俺はそれをフンフンと聞きつつも、ちょっとだけ不安になった。
なぜなら、そんな密談で有名な場所ならば逆にヤバイのではないだろうか?
もしも、隠密に長けた者が仲居として潜り込んでいれば、色んな情報が筒抜けになる。
つまり卑弥呼陣営に対して、俺達が探りを入れている事がバレてしまうかもしれない。
しかしそう思った瞬間、俺は気づいてしまった。
それでもなお、ここを選んだ理由を。
「もしかして……あそこってさ。」
「流石は師匠でござる。気付いたでござるか?」
どうやらイモコも俺がそれに気づいた事がわかったらしい。
だが、あえて俺は気づいた事を口にして確認する。
「あぁ、あの宿は……ハッタリハンゾウが所有しているんだろ? だから、他では知りえない重要な情報が入ってくる。」
「半分正解でござる。ハンゾウが所有しているのは宿だけではござらん。この村全てがハンゾウの所有物でござるよ。」
その言葉に驚きを隠せない俺。
「は? まじ?」
「本当でござる。ハンゾウは、こういった場所をいくつも意図的に作っているでござるよ。」
こういった場所?
作っている?
「どういう事?」
「えらい人が密談するのに最適な環境自体を作るという事でござる。それには情報操作から、人の流入の調整も含まれているでござる。今日、人が少ないのも全てハンゾウが手配したと思われるでござるよ。」
まじかっ!?
不便だから人がいない訳ではなかったのか。
だとすれば、ハンゾウとかいう奴は相当大物じゃん。
「なるほどな。怪しい名前の癖に商人という肩書は本当らしいな。いや、大商人か。まぁ何にせよ、そう言う事なら色々と期待できそうだな。」
「その通りでござる。しかし、今回の密談には某だけが参加する故、師匠達には待っていて欲しいでござるよ。」
「あぁ、色々と悪いな。イモコ。頼りにしている。」
改めて俺はイモコに感謝した。
確かにハンゾウが凄いという事はわかったが、それ以上に、そんな大物とつながりを持っているイモコが凄い。
この大陸に着いてから、イモコの存在の大きさを身に染みて感じている。
そしてそれにも関わらず、態度を変える事なく、色々と尽くしてくれている事に感謝が尽きなかった。
しかし感謝を受けたイモコは、相変わらず低姿勢のまま、恐れ多いと言わんばかりの表情をしている。
「め、滅相も無いでござる。そもそもこれは某達の国の問題であり、師匠は本来関係ない事でござる!」
「いや、だとしてもだ。俺はイモコに感謝している。だから、これからも頼りにさせてくれ。」
俺はハッキリとそう告げると、イモコは深く頭を下げた。
「あ、ありがたき幸せでござる! 師匠にそのような言葉を掛けられるとは、感激の極みでござる。」
「あはは、大袈裟だなぁ。まぁとりあえず、向こうで怪しまれるような事はないと思うけど、俺達は普通にしていた方がいいだろ?」
「そうでござるな。旅の疲れをゆっくり癒していただくでござる。」
その言葉に甘えて、俺は久々の豪華そうな宿を満喫するつもりだ。
あの宿の佇いからして、かなり色々と期待できるだろう。
それを考えるだけで、俺の期待は大いに膨らんだ。
……まぁ、膨らますのは期待だけではないつもりだが。
ーー故に尋ねる。
「おう! 楽しみだな。 ち、ちなみにだけどさ?」
「なんでござるか?」
「温泉……あるよね?」
俺がそう聞くと、イモコは不思議そうな顔をした。
まぁ普通に考えて、温泉が無い訳がない。
でも、聞きたいのはそこじゃないんだなぁ。
「当然あるでござる。それはもう、大層広く、そして風情ある景色が見える露天風呂があるでござるよ。」
やはりそうか。
イモコの話を聞いて俺は予想をしていた。
イモコはここに来た事があると。
……であれば、知っているはずだ。
「ほほぅ……風情ある……景色ねぇ。」
意味深に言葉を紡ぐ俺。
それを聞いて、イモコが感づいたようだ。
「師匠……まさかっ!?」
「言うな! イモコ! どこで隠密が聞いているかわからぬ!」
イモコの声が大きくなったことで、周囲を警戒する俺。
この馬車の後ろには、シロマ達が乗る馬車が続いている。
間違っても、これからする話を聞かれる訳にはいかなかった。
「ぎょ、御意!」
「んで、イモコは入った事あるんだよな? 露天風呂。」
「一度だけでござるが……。」
ふむ。なら知っているはずだ!
お偉いさん達が秘密裏に利用すると聞いた時から俺は考えていた。
えらい奴というのは大抵エロい奴。
そう、【偉い=エロい】はきっと世の常だ。
ボッサンはともかくとして、センニンもそうだったし、噂だとアリエヘン王も相当な変態らしい。
サムスピジャポンとて、例外ではないだろう。
であれば、間違いなくあるはずだ。
秘密の抜け穴……いや、ロマンティックホールが!
「そうか。……で、穴は見つかったか?」
俺は単刀直入にイモコに尋ねた。
「き、記憶にはないでござるが……しかし、師匠。本当にやるでござるか?」
どうやらイモコは俺を心配しているようだ。
しかし、安心してほしい。
俺には秘策があるんだ……ミラージュという秘策がな!
穴さえ見つかれば、どうとでもなるさ!
「あぁ……。やっぱり男ならな。俺はロマンの為なら命を張れる!!」
そう胸を張って言い切る俺。
自分でいうのもなんだが、俺はやはり少し頭がおかしいのかもしれない。
「そうでござるか。しかし、某は……。」
「みなまで言うな。わかっている。イモコは何もしなくていい。俺も今回シロマ以外を見るつもりは……多分ない。」
一瞬ロゼッタの美貌を思い出し、心が揺れた。
しかし、なんとなくだがそれはカリーに失礼な気がするのでやめておこうとおもう。
それにシルクにバレたら……殺されかねない。
「わかったでござる。しかし、師匠ならば直接頼めば見せてもらえないでござるか?」
「馬鹿言え! それのどこにロマンがあるんだ! 苦難を乗り越えた先にしか見えないものがあるだろ!」
「し、師匠! 声が大きいでござる。」
おっと。つい、エキサイティングしてしまった。
「まぁそう言う事だから、もし密談で機会があったら是非聞いてくれ。」
今しがた何もしなくていいと言った側からお願いしちゃう俺。
そんな下衆な俺だが、許してほしい。
その想いが通じたのか、イモコは首を縦に振ってくれた。
「わ、わかったでござる。」
しかし、それを見てやはり考えを改める。
「いや、やっぱなしだイモコ。今のなし!」
やはりこういう事は、人に頼むものではない。
「本当によろしいでござるか?」
そういって念を入れて確認するイモコだが、少しだけ安心を漂わせている。
どうやら変態の片棒を担ぐのは、弟子としても嫌だったらしい。
まぁ当然だよね。
「あぁ、男に二言はない。俺は自力で壁を乗り越えて見せるよ!」
「か、壁を乗り越えるでござるか!?」
「ば、ばか。声でけぇって。違う違う、例えの話!」
流石に今のは聞かれたかもしれないと思い後ろを振り向くも、御者にはセイメイしか見えなかった為、多分セーフだ。
「申し訳ないでござる。」
「まぁ、そんな訳だからイモコは自分のやるべき事に専念してくれ。俺は俺でやるべきことをする。」
「御意。」
俺のマジな目を見たイモコは、一言だけそう言うと、何も言わなかった。
若干、その瞳が残念な者を見る目に見えたのはきっと気のせいだろう。
とまぁ、そんな下衆な思惑を秘めながらも、俺達は密談場所である旅館宿に辿りつくのであった。
0
お気に入りに追加
292
あなたにおすすめの小説
王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?
木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。
これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。
しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。
それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。
事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。
妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。
故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。
令嬢はまったりをご所望。
三月べに
恋愛
【なろう、から移行しました】
悪役令嬢の役を終えたあと、ローニャは国の隅の街で喫茶店の生活をスタート。まったりを求めたが、言い寄る客ばかりで忙しく目眩を覚えていたが……。
ある日、最強と謳われる獣人傭兵団が、店に足を踏み入れた。
獣人傭兵団ともふもふまったり逆ハーライフ!
【第一章、第二章、第三章、第四章、第五章、六章完結です】
書籍①巻〜⑤巻、文庫本①〜④、コミックス①〜⑥巻発売中!
【完結】姉に婚約者を寝取られた私は家出して一人で生きていきます
稲垣桜
恋愛
私の婚約者が、なぜか姉の肩を抱いて私の目の前に座っている。
「すまない、エレミア」
「ごめんなさい、私が悪いの。彼の優しさに甘えてしまって」
私は何を見せられているのだろう。
一瞬、意識がどこかに飛んで行ったのか、それともどこか違う世界に迷い込んだのだろうか。
涙を流す姉をいたわるような視線を向ける婚約者を見て、さっさと理由を話してしまえと暴言を吐きたくなる気持ちを抑える。
「それで、お姉さまたちは私に何を言いたいのですか?お姉さまにはちゃんと婚約者がいらっしゃいますよね。彼は私の婚約者ですけど」
苛立つ心をなんとか押さえ、使用人たちがスッと目をそらす居たたまれなさを感じつつ何とか言葉を吐き出した。
※ゆる~い設定です。
※完結保証。
異世界を満喫します~愛し子は最強の幼女
かなかな
ファンタジー
異世界に突然やって来たんだけど…私これからどうなるの〜〜!?
もふもふに妖精に…神まで!?
しかも、愛し子‼︎
これは異世界に突然やってきた幼女の話
ゆっくりやってきますー
転生初日に妖精さんと双子のドラゴンと家族になりました
ひより のどか
ファンタジー
ただいま女神様に『行ってらっしゃ~い』と、突き落とされ空を落下中の幼女(2歳)です。お腹には可愛いピンクと水色の双子の赤ちゃんドラゴン抱えてます。どうしようと思っていたら妖精さんたちに助けてあげるから契約しようと誘われました。転生初日に一気に妖精さんと赤ちゃんドラゴンと家族になりました。これからまだまだ仲間を増やしてスローライフするぞー!もふもふとも仲良くなるぞー!
初めて小説書いてます。完全な見切り発進です。基本ほのぼのを目指してます。生暖かい目で見て貰えらると嬉しいです。
※主人公、赤ちゃん言葉強めです。通訳役が少ない初めの数話ですが、少しルビを振りました。
※なろう様と、ツギクル様でも投稿始めました。よろしくお願い致します。
※カクヨム様と、ノベルアップ様とでも、投稿始めました。よろしくお願いしますm(_ _)m
薬の知識を手に入れたので、裏稼業でもしてみようか
紅雪
ファンタジー
久々に出社した俺は、後輩と飲みに行くことになった。他の同僚とは都合が合わず、二人だけでの飲みになったわけだが。そこそこの見た目だから、お持ち帰りでもしてやろうかと目論んで。
俺は脂の乗った35歳、普通のサラリーマンだ。ちなみに腹に脂が乗っているわけじゃねぇ、年齢的にって意味だ。まだ遊びたい年頃なんだろう、今のところ結婚も考えて無い。だから、後輩をお持ち帰りしてもなんの問題も無い。
そんな後輩と会社から近い有楽町に、二人で歩いて向かっていると、ろくでもない現場に出くわした。しかも不運な事にその事件に巻き込まれてしまう。何とか後輩は逃がせたと思うが、俺の方はダメっぽい。
そう思ったのだが、目が覚めた事で生きていたのかと安堵した。が、どうやらそこは、認めたくは無いが俺の居た世界では無いらしい。ついでに身体にまで異変が・・・
※小説家になろうにも掲載
ソフィアと6人の番人 〜コンダルク物語〜
M u U
ファンタジー
中央の男は言う。
「同じ所で、同じ人が出会い、恋に落ちる。そんな流れはもう飽きた!たまには違う事も良かろう。道理を外れない事、それ以外は面白ければ許す。」と。送り出された6人の番人。年齢、性別、容姿を変え、物語の登場人物に関わっていく。創造主からの【ギフト】と【課題】を抱え、今日も扉をくぐる。
ノアスフォード領にあるホスウェイト伯爵家。魔法に特化したこの家の1人娘ソフィアは、少々特殊な幼少期を過ごしたが、ある日森の中で1羽のフクロウと出会い運命が変わる。
フィンシェイズ魔法学院という舞台で、いろいろな人と出会い、交流し、奮闘していく。そんなソフィアの奮闘記と、6人の番人との交流を紡いだ
物語【コンダルク】ロマンスファンタジー。
誕生日当日、親友に裏切られて婚約破棄された勢いでヤケ酒をしましたら
Rohdea
恋愛
───酔っ払って人を踏みつけたら……いつしか恋になりました!?
政略結婚で王子を婚約者に持つ侯爵令嬢のガーネット。
十八歳の誕生日、開かれていたパーティーで親友に裏切られて冤罪を着せられてしまう。
さらにその場で王子から婚約破棄をされた挙句、その親友に王子の婚約者の座も奪われることに。
(───よくも、やってくれたわね?)
親友と婚約者に復讐を誓いながらも、嵌められた苛立ちが止まらず、
パーティーで浴びるようにヤケ酒をし続けたガーネット。
そんな中、熱を冷まそうと出た庭先で、
(邪魔よっ!)
目の前に転がっていた“邪魔な何か”を思いっきり踏みつけた。
しかし、その“邪魔な何か”は、物ではなく────……
★リクエストの多かった、~踏まれて始まる恋~
『結婚式当日、婚約者と姉に裏切られて惨めに捨てられた花嫁ですが』
こちらの話のヒーローの父と母の馴れ初め話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる