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第三部 オーブを求めて

第七十二話 カリー先生

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 翌朝、目が覚めると俺はベッドの中にいた。
 どうも俺は、何かある度に気絶して目覚める癖があるらしい。
 悪い時も良い時もだ。

 いいかげん、これどうにかならんかね?


「って、くそーーー! 折角いい雰囲気になっていたのに! おのれ、とんずらめぇぇぇぇ!」


 コンコンコン


 俺がトンズラに対して罵詈雑言を叫んでいると、突然部屋の扉がノックされた。


「サクセスさん。声が聞こえましたが、もう大丈夫ですか? 入ってもよろしいですか?」

「シ、シロマ!? ちょ、ちょ、ちょっと待って! 今服着るから!」


 俺は自分が全裸であった気付く。
 このまま偶然を装って全裸を見せるのもありなのだが、正直今更だ。
 あれは、初回限り効果のある性癖である。


 それに俺が倒れてから、きっとシロマに体中見られているはずだ。


 くそ! 不公平だ!
 俺だって見たかったのに!
 ずるい ずるい ずるい!
 

 と思いつつも、できるだけ素早く服を着用する俺。


「もういいぞ、シロマ。」

「はい、入りますね。おはようございます、サクセスさん。体調は良さそうですね。」

「おはようシロマ。まぁ、ただの湯あたりだからな。それよりも、今何時なんだ?」

「まだ7時前ですね。これから皆さんで朝食です。」

「ならよかった。今日からカリーと特訓だからな。シロマは植物園に行くんだよね?」

「はい、畑仕事って楽しいです。目に見えて成長が確認できますから。」


 シロマは楽しそうに笑っている。
 本当に畑仕事が気に入ったんだな。
 もし、大魔王を倒して平和な世の中になったら、また農民として暮らすのもありかもしれない。
 シロマが一緒なら、農業だけで革命が起こせるぜ。


「よし、じゃあ早速朝食にしよう。ゲロゲロが見当たらないところを見ると、もう食べにいってるのかな?」

「多分そうでしょうね。ゲロちゃんはまだ見てませんが、昨晩はサクセスさんと一緒に寝ていましたから。」


 昨晩、涙を流していたシロマであったが、今はいつも通りのシロマだ。
 でも、この子は自分の弱いところを隠して我慢するところがあるからな。
 もう少しちゃんとシロマの事を見ていてあげようと思う。


 そして二人で仲良く食堂に向かうと、やはりカリーとゲロゲロは既に朝食を食べていた。


「おっ、元気になったか? 湯あたりするなんて、馬鹿だなサクセス。」


 食堂に入ると早速カリーがからかってくる。


「うるせぇ。ちょっと風呂場での景色が綺麗過ぎて、のぼせちまったんだよ。」

「ああ? 綺麗っていったって、暗くて何も見えなかったぞ。だけど、朝風呂は最高だったぜ。海の中も良く見えるし、今日釣る魚も決まった。」


 いいなぁ、朝風呂か。
 明日は俺も朝風呂に入ろう。
 朝日が差し込んだ海中は、多分めちゃくちゃ綺麗だろうなぁ。


 という事で、みんなで仲良く朝食を食べた後、約束の特訓タイムがやって来た。
 特訓を受けるのは、俺とイモコ、そしてなぜかゲロゲロ。

 まぁ、ゲロゲロは見学だが。
 ただ、俺について来ただけである。
 ういやつめ!


「それじゃあ、実践訓練の前に、俺が知っている戦闘における知識を話す。実践も大事だが、知識も大事だ。いいか?」

「はい! 先生! お願いします。」


 先生役のカリーに俺は元気よく返事する。
 なんか、こういうのって新鮮だなぁ。
 やる気がみなぎってくるぜ。


「じゃあ、サクセス。まずは一つ聞くが、初めての敵と戦う時、一番大事なのは何だ?」


 ほう、なぞなぞ形式か。
 愚問だな。
 そんなのは決まっている!!


「とりあえず、ぶった斬る!!」

「…………。お前……それ本気で言ってるのか?」


 カリーはあきれ顔で聞き返してきた。


 あれ? 違うの?


「いや、だってわからない敵なら攻撃受ける前に、先手必勝で倒した方がいいじゃないか。敵の攻撃を見たり、様子見してて死んだら元も子もないだろ?」


 お、俺は間違ってないべさ!


「なるほどな、サクセスならではの答えか。まぁそれも間違ってはいない。けど、俺が聞いたのは何が一番大事かだ。イモコ、お前はわかるか?」


 ほら、正解じゃんって、あ、確かに質問の答えになってないな。
 テヘ。


「そうでござるな。一番大事なのは相手との間合いでござる。敵の攻撃範囲がわからない以上、うかつに近づかず、まずは距離を取るでござるよ。」

「正解だ。敵に攻撃するも、敵の様子を見るも、どちらも間合いが全て。一番ベストなのは、敵に自分の存在を気付かせないことだ。サクセスが言うように、敵が気付く前に間合いを詰めて倒すのが一番手っ取り早い。だが、逆に敵に気付かずに詰められたらどうする? サクセス。」


 今度こそ当ててやる!!
 って、間合い詰められたら無理じゃん。


「いつの間にか敵が後ろにいた場合……経験があるな。あの時、イーゼがいたから……。う~ん、わからないけど、詰められないようにする!」


「あほか!! 俺が聞いてるのは詰められたらどうするかだ。ちゃんと考えて答えろよ。じゃあイモコはわかるか?」


 シューン……。
 アホって言われた!
 酷い!
 アホっていう奴がアホなんだあぁぁ!


「某にも思い浮かばないでござるよ。」


 ふふふ。
 イモコもわからないんじゃ、俺がわからなくて当然だな。
 エッヘン!!


「わかった。じゃあ教えてやる。間合いを詰められた時は……とにかく急所を防御しろ。腕や足は最悪斬られてもいい。とにかく、まずは急所を防御だ。それとサクセスは詰められないようにするって言ってたが、具体的にどうするつもりなんだ?」


 なるほど、確かに一撃死を防げば、どうにでもなるな。
 ふむふむ、奥が深いぜ戦闘……
 って、また俺!?


「えっと、よく敵を見る! あと、常に周囲に気を配る。」

「そうだな、常に周囲に気を配るのは大事だ。特に俺の熱探知スキルや、敵を感知できるスキルは重要だ。まずは敵の存在に気付かなければいけない。だが、スキルは全員ができるわけでもなければ、スキルだけに頼ったらダメだ。自分の五感全てを常に集中させなければならない。」

「やった! んじゃ正解?」

「いーや、半分正解ってところだな。もう一つ大事なことがある。それは陣形だ。常に不意を突かれないようにパーティはそれぞれを守るように配置して動くんだ。一人が気付かなくても、他の奴が気付けばいい。だから、モンスター戦では必ず敵の位置と同じくらい、仲間の位置にも注意して動く事。」


 うーむ、凄い勉強になる。
 そういえば、こうやって誰かに教えてもらったのって初めてかもしれない。
 今までは何も考えず、見様見真似で動いて、わからない事は仲間に聞いていたからな。


 いやぁ~、本当にカリーの存在は助かる。
 これで俺はまた一歩、強さの先に進めた気がするな。



 その後もカリーの教養は続いた。
 俺の人生で初めての勉強。
 これが意外にとても面白かった。

 カリーは教え方がうまい。
 馬鹿な俺でも頭にスッと入ってくる。
 ちゃんと、言われた事がイメージできるんだ。
 それってすごいよね。


 そして午前中は教養のみで終わり、午後からは本格的な実践訓練の開始である。
 まだ海の上での戦闘訓練はせずに、船の上で動き方や、剣の振り方を練習するらしい。

 スケジュールを聞くと、最初の一週間は午前中は教養、午後は基礎訓練だそうだ。
 それ以降は、午前中は基礎訓練、午後は応用訓練にするつもりみたいである。


 カリー曰く


 基本無くして、応用はなし


 だそうだ。


 ちなみに、午後の基礎訓練だが、退屈かもしれないと思っていたのだが、大間違いだった。
 基本を全く知らない俺にとっては目から鱗の指導である。
 今までどれだけ無駄な動きをしていたのかがよくわかった。
 目でフェイント、手でフェイント、そういった基本の戦術すらも知らない俺には、この訓練はとても勉強になる。


 ゲロゲロだけは、暇そうにしてて、いつの間にか寝ていたが……。


 そして午後の訓練が終わると、カリーは釣りを始め、イモコは仕事に戻る。
 俺はと言うと、シロマの様子を見に植物園に向かうのであった。


 
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