上 下
218 / 397
第三部 オーブを求めて

第六十一話 BBQ②

しおりを挟む
 イモコは、最初からこんな立派な船には乗っていなかった。
 そして、船員に恵まれて旅をしたのも、サムスピジャポンから剣闘士として派遣された時が初めてである。

 それまでは、だらしない船員と一緒に航海したり、ボロボロの船にのって旅をしたことだって何度もあった。
 その度に、命の危険を何度も脅かされながら、ここまで生きてきている。
 つまり、今に至るまで海の怖さや航海の厳しさを身をもって体験しているのだった。


 それゆえに、イモコの言葉は重い。


「ごめんな、イモコ……。そうだよな、これが当たり前じゃないんだよな。浮かれていた自分を殴りたい気分だぜ。」

「も、申し訳ないでござる! そんなつもりで言った訳ではないでござるよ! 師匠は良いでござる! この船も食材もメンバーも師匠が自分の力で手に入れたでござるよ。だから……。」


 必死に弁解をしようとするイモコ。
 しかし、満腹中枢が刺激され過ぎて、頭がうまく働かず、いい言葉が出てこない。
 そこにカリーが割って入ってきた。

「そうだぜ、サクセス。楽しい時や幸せな時は、全力でそれを謳歌するのが冒険者ってもんだ。辛い事もあるだろうが、それはそれ。これはこれだ。」


 よく見るとカリーの顔が赤い。
 普段言わないようなくさいセリフを平然と吐いているところをみると……酔ってるな。
 カリーはいつの間にか酒を飲んでいたようである。
 別に悪いとは言わないけど、この後、会議の続きするつもりなんだがな。


「カリー殿の言う通りでござる。今はこの環境に感謝して、楽しみながら確実に目的地に向かうでござるよ。それに、師匠達がいればこの船は安全でござる。」

「ん? どういうことだ?」

「航海で船が沈む一番の原因は、強力な魔物の襲撃でござる。聖水を使った装置を装備しているため、比較的魔物は寄ってこないようにはなっているでござるが、100%ではないでござる。特に強い力を持った魔物は聖水があっても、襲撃してくるでござるよ。」


 そうか、海だからと言って安心はできないのか。
 すっかり忘れていたが、そう考えると、いつでも戦えるように装備だけはしっかりつけていなきゃだな。


「そうか、その時は任せてくれ。イモコ達に倒せない魔物がいるとも思えないが、戦闘になったら率先して戦えわせてもらうよ。俺にできることなんてそれくらいだしな。」

「それくらいってことはないでござる。航海で雇う冒険者への対価は非常に高いでござるよ。それが師匠レベルの戦闘力となったら、10万ゴールド積んでも足りないでござる。つまり、師匠達がいるだけで、この船は世界一安全な船になったでござるよ。」


 なるほどなぁ~。
 航海について全く知らないことばかりだったけど、そういう考えもあるのか。
 とはいえ、やっぱり普段何もしないでいるのは、ちょっと申し訳ないな。
 とりあえず手始めに、BBQの片づけくらいはやらせてもらおう。

 
「わかった。それでも言わせてくれ、イモコ。ありがとう。そして頼りにしている。じゃあ、この片づけは俺達に任せてくれ。」

「それはできないでござるっといっても、毎回師匠の厚意を断るのもしのびないでござるな。わかったでござる。一緒に片づけを手伝ってほしいでござるよ。それが終わったら、植物園に案内するでござる。」


 今回も断られるかと思ったが、イモコは許可してくれた。
 やはり、イモコは本当に空気が読める奴だな。


「カリー、片付けすんぞ!」

「おお? まだ飲んでるじゃねぇか。」

「それ以上は夜にしておきなよ。いつ魔物が襲ってくるかわからないんだし、ほどほどにしてくれ。」

「あ、あぁ……。そうだな、ちょっと俺も浮かれすぎたぜ。わかった、片付けるか。」


 魔物っという言葉でカリーは酔いが覚めたらしい。
 なんだかんだいって、カリーの危機意識は高いからな。
 まぁ、とりあえずこの散らかしたゴミや皿洗い等は俺達がしなくてはならん。


 誰かがやってくれるだろ?

 
 とかいう奴は最低の人間、いわゆるクズだという事を小さい頃から俺は親に叩き込まれている。
 自分の事すらせずに、周りを考えない奴は人間にあらず。
 それは動物と変わらないと。


 だから、みんなで片付ける。
 誰かだけやらないという事を俺は許さないのだ。
 ゲロゲロは除くけどね。
 人間じゃないし……既に気持ちよさそうに寝ているからな。


 ということで、俺とシロマとカリーそしてイモコと、全員で力を合わせて、せっせと片付けを始める。
 周りの船員は、その光景をドギマギしながら見つめているが、手伝うことはなかった。
 どうやら、イモコが話をしてくれたらしい。

 毎回思うが、イモコはいつもどのタイミングで部下に指示をだしているのだろうか?
 テレパシーでも使っているのかと思うほど、伝達能力が高すぎる。


 そしてそんな事を考えていると、あっという間に片づけは終わった。


「ふぅ~。いい食後の運動になったな。んじゃ、植物園とやらをみせてもらったら、もう一度ブリーフィングルームにいこうか。」


「御意……でござる。それでは、某についてくるでござるよ。こっちでござる。」



 こうして、最高のBBQを片付けまで含めて全て満喫した俺達は、今度は植物園という謎の船内施設を見て回るのであった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉

Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」  華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。  彼女の名はサブリーナ。  エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。  そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。  然もである。  公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。    一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。  趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。  そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。 「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。  ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。  拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。    

【完結】4人の令嬢とその婚約者達

cc.
恋愛
仲の良い4人の令嬢には、それぞれ幼い頃から決められた婚約者がいた。 優れた才能を持つ婚約者達は、騎士団に入り活躍をみせると、その評判は瞬く間に広まっていく。 年に、数回だけ行われる婚約者との交流も活躍すればする程、回数は減り気がつけばもう数年以上もお互い顔を合わせていなかった。 そんな中、4人の令嬢が街にお忍びで遊びに来たある日… 有名な娼館の前で話している男女数組を見かける。 真昼間から、騎士団の制服で娼館に来ているなんて… 呆れていると、そのうちの1人… いや、もう1人… あれ、あと2人も… まさかの、自分たちの婚約者であった。 貴方達が、好き勝手するならば、私達も自由に生きたい! そう決意した4人の令嬢の、我慢をやめたお話である。 *20話完結予定です。

処理中です...