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第三部 オーブを求めて

第五十九話 娯楽室

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 そして、簡単な注意事項を説明し終えると、今度は娯楽室に案内された。


「ここが娯楽室でござるよ。船旅は長く単調な生活になるでござるから、ここでストレス発散するのも大事な仕事でござる。」


 イモコが案内した娯楽室には、変な丸い的があったり、長方形の箱型のテーブル等が置いてあった。


「え? ここが、娯楽室? どこら辺が娯楽なんだ?」


 俺が疑問に思っていると、イモコは実際に置かれている物使って、一つ一つ丁寧に遊び方を教えてくれる。


 まず丸い的については、ダーツと呼ばれるゲームらしく、小さな矢のようなものを投げて、的の中心に当てて点数を競い合うらしい。


 正直、こんな簡単な事をして何が楽しいんだろう?


 と思った時もありました。


 実際にやってみると、これがまた凄く難しい。
 力加減が難しいのと、矢が小さくてうまく投げれないのである。
 だが、カリーだけは初心者と思えない程うまかった。

 俺が全然真ん中に当たらないでいるのに対し、カリーは百発百中で中央に当てている。
 
 悔しい!!
 絶対うまくなってやる!


 と思っていたのだが、隣に俺よりも酷い人が……。


 シロマもやってみたようだが、そもそも矢が的にすら当たっていない。
 魔法と違って、自分の思うところに飛ばせないようで、大苦戦している。

 そんなシロマを見ると、少しだけ溜飲が下がるというものだ。
 今度、俺がうまくなったら手取り足取り教えてあげよう!!
 さりげなくセクハラするのも忘れないぜ! てへぺろ


 次に教えてもらったのはビリヤードと呼ばれるゲーム。
 キューと呼ばれる細い棒で球を突き、テーブルの四隅にある穴に玉を入れるらしい。

 これも単純そうに見えて、やってみるとクソムズイ。
 まずキューを球の中心にあてることから難しすぎる。

 あまりにイライラしてきて、思いっきり球を突いたらキューが折れた。
 どうやら、力加減とか俺は下手なようだ。

 ある意味、こういったのも何らかの訓練になるのでは?
 そう考えないとやってられない。


 それなのに、こいつはまた……


 そうなんです、やはりカリーだけは最初から滅茶苦茶うまい。
 同じ初心者なはずなのに、どうしてこうも違うんだ。


 カリーが様になった格好でキューを突くと、球は「コンッ!」といういい音をさせながら、他の球に当たって、それが見事に穴に吸い込まれていく。
 イモコもカリーの腕を見て、拍手をしながら驚いている。
 イモコから見てもカリーの腕はプロ級らしい。


 だが、もう気にするまい。
 俺は俺、カリーはカリーだ。
 別に競い合ってるわけじゃないし……。
 
 下手だからこそ、上手くなる楽しさがあるんだ!
 そんな勝ち誇った顔されても悔しくないんだからね!


 ふとカリーを見ると、俺に顔向けてニヤっと笑う。


 く、く、悔しくないんだからね!


 しかし、その後も何度もカリーは俺を見て勝ち誇った顔を続けた。


 てめぇ! おらやったんぞこら!!


 遂に俺も切れてしまい、再度勝負を挑むがボコボコにされた。
 

 もういいっす……。


 俺は悔しくて、涙を拭っていると、部屋の隅に誰かが丸くなっているのが見える。


 シロマだ。


 シロマはいつの間にか部屋の隅で、膝を抱えて座っていた。
 「ズーン……」という効果音が聞こえてきそうなくらい、沈んだ様子。


 どうやら、こういった娯楽はシロマに向いてないらしい。
 シロマは勝負云々の前に、そもそもキューで最初の球を真っすぐ突く事もできなかったらしい。
 その姿に俺は勇気もらった。


「シロマ、一緒にうまくなろうな!! だから元気だして!」

「いいんです……私なんか何をやってもダメダメで……不器用で……いいんです……。」


 俺はシロマを必死に励ますも、中々立ち直ってくれない。
 しかし、その後も必死に励ます事で、なんとか3人とも、最後の一つの娯楽の説明を受けることができた。


 最後にやったのは将棋と呼ばれるボードゲーム。
 ルールが複雑で中々覚えにくかったのだが、シロマはなにやら真剣な目でそれを聞いている。

 そして実際やってみると、シロマは最強だった。
 最初の説明だけで、色々な戦術が浮かんだらしい。
 カリーも俺よりは強いが、シロマ相手だとボコボコにされていた。


 やぁーい、ざまぁみろ!


 と言いたいところだが、よく考えると、俺一番ダメじゃん……。
 ま、まぁいい。
 きっと俺は、大器晩成型!
 いつか目にモノみせてくれてやる!


 と気合を入れつつ、時間を確認すると、既に昼はとっくに過ぎている!
 夢中になり過ぎて、空腹すら忘れていた。


「あぁぁ! 飯! 早く戻らなきゃ! せっかく準備してくれてるのに。」


 俺が時間を確認して焦り始めると、イモコが近寄って話かけてきた。


「大丈夫でござる。昼は甲板でバーベキューでござるから、いつでも問題ないでござるよ。こうなる事を予想して、準備をさせていたでござる。」


 嘘だろ?
 船でバーベキューだと!?
 ここはパラダイスか!?


「イモコ、お前は本当に最高だよ。この天才め! このこのぉ~!」

「ほめ過ぎでござるよ。某も丁度お腹が空いて来たから一緒に食べてもいいでござるか?」

「当たり前だろ! みんなで楽しく食べようぜ!」

「ありがたき幸せでござる。それでは、みなさ……ん?」


 俺とイモコがこれから行われるバーベキューに胸を弾ませていると、カリーは未だに将棋盤を睨みつけて、苦しそうな顔をしている。

 カリーの目の前に座るは、余裕の笑みを浮かべるシロマ。
 その顔は、なんというか、まるで新しい玩具を与えられた女の子のような無邪気な笑み……ではなく、どちらかというと悪役令嬢が浮かべる邪悪な笑みそのものであった。


「うおぉぉぉ! くそお! 何でだ! 何でだよ!!」


 突然カリーが叫ぶ。


「中々良い手でしたが、残念です。もう詰みです。」


 パチっ!

 
 シロマの王手だ。


「くっそ! もう一回! もう一回だ! 頼む! もう一回だけ!」


 おい、カリー。
 何、人の女に何度も、もう一回なんて言ってやがるんだ?
 キャン玉蹴るぞ!


「どうしましょう? 私は構わないのですが……うふふ。」


 う~ん、なんかわからんがシロマが楽しそうなのは嬉しいが、これは納得がいかん。
 あんな顔のシロマを見るのは初めてだ、悔しい! ジェラシー!

 
 すると俺は、みっともないジェラシーに駆られて、二人に駆け寄った。


「シロマもカリーも終わりだ! まだ時間はいくらでもあるんだから、今度にしろよ。もうとっくに飯の時間が過ぎてるぞ。」


 俺は嫉妬心に駆られ、食事のせいにして二人の時間を邪魔するも、自分の小ささに罪悪感を感じてしまう。


 そんな俺をちらっと見て、微笑むシロマ。
 どうやらシロマにはバレたらしい、俺が嫉妬をしていることに。
 そう思うとなんだか、凄く恥ずかしくなってきた。
 

 シロマの目を見れない……。


「あ、そうでした。お昼でしたね。そういうことですので、カリーさん、また今度お相手お願いします。」


 そして、シロマはサラッとカリーの誘いを断る。
 多分シロマもまだやりたいんだろうけど、俺に気を使ったのだろう。
 悔しい、なんか、悔しい。
 嬉しいけど……なんだこの感情は……。


「くぅ~! くそおお! まぁ仕方ねぇ、次こそ絶対リベンジしてやるからな! 覚えておけ、シロマちゃん!」

「わかりました覚えておきます。それでは上に上がりましょう。」


 そう言いながらシロマは立ち上がると、俺の手を握って歩き出す。
 まるで、カリーには全く気がない、と俺にアピールするが如く。


 あぁ、負けだよ負け。
 シロマには勝てない。


 だが、これでいい!! 
 ちょっと大人っぽくなったシロマであるが、俺はそんなシロマも好きだ。
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