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第三部 オーブを求めて

第二十九話 テレパシー

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「なぁ、サクセス……流石にこれ以上、こいつら引きずって進むのきつくねぇか? つか、よく引っ張れるな。」


 カリーは、俺の状況を見て漏らす。


 そうなんです。
 結構大変なんすよ。


 現在俺は、ロープに縛り上げた盗賊たちを全員引きずりながら歩いている。


 当初は、捕縛した奴を一ヶ所にまとめて置いておこうという話もあった。

 しかし、あまりにこのアジトの作りが複雑すぎて、道がわからなくなる可能性があって断念した。
 人がいれば体温を感知し、カリーのスキルで進めるが、いなくなるともうわからない。


 まぁ、断念した理由は他にもあるんだけどな……
 それにしても肩がこるぜ。


「そうだな。やっぱり一回戻るか? それとも、一か八かで、どこかにまとめて置いていくとか……。」


 正直、俺も限界が近かった。

 流石にこれ以上捕縛人数が増えると、腕がパンパンになっちまう。

 いくら力のステータスが高くても、盗賊80人以上……つまり、約8トン近くの重りを引いて歩いているのだ。

 普通ならまず不可能な重さである。


 カリーはその場に立ち止まって考え始めた。

 そして……


「難しいところだな。纏めてどこかに置くのであれば、ロープも一緒にだろ? ロープは一つしかないんだよな?」


 そう、もう一つの理由が正にそれだった。
 ロープを一つしかもらってないから、残りの盗賊を今までみたいに捕縛することができなくなる。 


「一つしかないね……。魔法のロープがないと、これ以上捕縛はできないよなぁ。やっぱ戻ろうぜ、カリー。ちなみに、あと何人くらいアジトに残ってるかわかる?」


「……戻るのが賢明だな。残りの盗賊の人数は、俺のスキルで把握できる限りだと、あと十数人ってところだ。こいつらは結構奥の方にいるみたいだから、この距離なら多分バレる事は無い。よし、簡単な目印をつけながら戻るぞ。一度イモコにこいつらを引き渡そう。」


 カリーはそう言うと、踵を返しながら、俺が持っているロープを手に持つ。


 カリーがロープを掴んだ瞬間、俺に掛かっていた負荷がグッと楽になった。


 さっきまで、このロープは俺が一人で持っていた。
 理由は簡単だ。
 カリーには、敵の探知と警戒に集中してもらいたかったからである。


「いや、カリー。いいよ、これは俺の仕事だ。カリーは敵の警戒に集中しててくれ。」


「ダメだ。戻るところまでは俺も手伝う。大丈夫、もう警戒しないでも見つかることはない。それなら二人で引っ張って、急いで戻った方が効率がいい。」


 そう言ってロープを持つカリーだが、顔はかなり辛そうだ。
 

「本当に大丈夫か? 俺は楽になったけど、これは結構きついぞ?」


「ぐぐ……。へ、へいきだ。つうかよ、これ一人で引きずって歩くとか、本当にサクセスは化け物だな……。まぁいい、急ぐぞ。」


 カリーも、他の人から見れば化け物クラスに力のステータスは高い。
 だがそれでも、これだけの重量を引きずるのは辛いようだ。


 とりあえずカリーが平気というなら、手伝ってもらうかな。


「悪いな。俺は大分楽になったよ。じゃあ急ごう。」


 俺はそう言うと、さっきよりも力を込めて、強めに引っ張って出入口に向かって進んでいった。

 カリーは、辛そうにしながらも、分かれ道を通る時に壁を軽く蹴っている。


 何をしているかはわからないけど、多分あれがさっき言っていた目印なんだろう。


 こうして俺達は、ちょっと道に迷いながらも、なんとか出入口に戻ってくることができた。


「おし、着いたぞカリー。 カリー?? おい、平気か??」

 俺は、やっとのことで外までたどり着いたことから、後ろにいるカリーに声を掛ける。
ーーが、カリーからの返事が来ない。

 振り返ると、カリーは全身汗だくになって、肩で息をしていた。


「はぁはぁはぁ……やっとか……。クッソ疲れたぜ。力もそうだけど、スタミナもかなり消費するな。なんでサクセスは平気なんだよ……。マジ無理……なぁ、もう帰らねぇか?」


 行きと違って、カリーが弱音を吐いていた。
 どうやら、相当きつかったようである。
 無理しないでもよかったのに……。


「普通にダメだろ。ガンダッダを捕まえるまで、戻る訳には行かない。もしも、本当に辛かったらこのままここで休んでてくれ。後は俺がなんとかするから。」


「冗談だよ。サクセス一人に任せるわけねぇだろ。ったく、この報酬は高くつくぜ。サクセス、戻ったらがっちり金を貰おうな。あと、あの町で一番高い宿に泊まるぞ。」


「そうだな、ボッサンからも町からもガッツリ貰わなきゃ割に合わないな。よし、じゃあちょっとゲロゲロに思念を送るから、カリーはアジトの状況を、引き続きスキルで確認しててくれ。」


「あいよ。」


 カリーはそう返事すると、もう一度アジトの中に入る。


 さっき戻りながら聞いたところ、熱探知スキルはエリアスキルらしく、外に出ると使えないようだ。
 それなので、カリーには引き続きアジトの出入口に入って警戒してもらう。

 そして俺はというと、ゲロゲロに今の状況を伝える為に思念を送っていた。

 魔心に転職してから、魔物つかいのスキルが強化されたようで、ある程度ゲロゲロと離れていても、こっちの意思を伝えることができるようになったのである。
 当然、ゲロゲロからも俺に伝えることができ、俺はこれをテレパシーと呼んでいる。


 唯一弱点なのは、俺がゲロゲロに伝えられても、ゲロゲロが他の者に伝えられないというところだろう。
 しかし、今回に関しては、その点について既に対抗策を打ってあるのだ。


 俺はここに向かう前、イモコに対して、いくつかの指示を出していた。
 その内の一つが、ゲロゲロの鳴く回数で伝達事項を伝えることである。


 ゲロ(1回)  敵が外に逃げた。捕まえてくれ。
 ゲロ(2回)  危険がそっちに迫ってる。俺達を置いて逃げろ。
 ゲロ(3回)  不測の事態だ。こっちに船をつけてくれ。
 ゲロ(4回)  成功したから迎えに来てくれ。


 ということで、今回は3回である。
 もう敵の殆どは捕縛しているし、船をここに横付けしても問題はないはず。
 なので、イモコにはここに来てもらうことにした。



(ゲロゲロ、そっちに問題はないか?)


 ゲロォォォォォ(ひまぁぁぁぁ)


(ならよかった、よく聞いてくれ。俺達は無事に敵の大部分を捕縛した。そいつらを一度、船に引き渡したい。だから船をこっち持ってくるようにイモコに伝えてくれ。イモコのところに行って、ゲロと3回鳴いてくれればいい。やれるか?)


 ゲロゲロォ(大丈夫! 簡単!)


 よし、ゲロゲロにはうまく伝わった。
 あとは、ゲロゲロがイモコにちゃんと伝えられるかだな。


 それから数分後、俺が立っている岩礁に向かってペリー号が近づいてくるのが見えてきた。
 どうやら、ちゃんと伝わったらしい。

 

 うし!
 ペリー号が到着したら、さっさと盗賊を引き継いで、アジトに戻らないとな。
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