上 下
178 / 397
第三部 オーブを求めて

第二十一話 腕相撲

しおりを挟む
 俺達がボッサンに案内された宿屋は、至って普通の宿屋だった。

 普通といっても、風呂もあるし、個室にはベッドもちゃんと設置されていることから、決して悪い宿屋ではない。


 だがしかし、ボッサンは一国の王である。


 王様が泊まるにしては、かなりレベルが低いと言えよう。
 そしてここも当然のように、一階は酒場になっており、夜というのもあって、店内は至る所で罵詈雑言やら何やら飛び交っており、非常に賑やかだ。

 
 しかしそれよりも、ちょっとだけ気になることが……。

 立派な甲冑を着こんだ動く石像みたいな兵士が、ドアの前に二名、俺達のテーブルというか、ボッサンの脇に二名立っていた。

 この光景の中で、かなり浮いている。


「おう、サクセス。ここの飯はうめぇんだわ。冒険者の頃から、ここは俺のお気に入りでよう。ふむ、ちょっとお前ら邪魔だから他のところに行っててくれねぇか?」


 ボッサンはテーブルに着くなり、普段通りの汚い笑顔を浮かべて……おっと失言だったな、まるで久しぶりに旧友にあったかのような、笑顔を浮かべて話し出した。

 ちなみに、久しぶりといっても、最後に会ってからそんなに経ってはいない。


 二ヵ月ぶりくらいかな?
 よく日にちは覚えていないが……。
 

 それよりも、やはり王という立場なんだから護衛位はいるとは思ったが、あからさますぎだろ。

 逆に目立ってよくない気もするんだが……。
 多分、大臣の差し金だな。

 だって、さっきからボッサンは、うざそうにしてるっというより、ダイレクトにどこか行けとか言ってるな。


 可哀想な兵士さん。


「いえ、そう言うわけには行きませぬ。王の命を守るのが我らの使命。それだけは譲れませぬ。」


 動く石像……もとい、動く甲冑戦士は、王に対して一歩も引かなかった。

 凄い使命感である。
 さっきのノロに見習わせたいもんだな。


「ふむ、わかった。だがな、俺の前にいるのは人類最強の男だぞ? お前らが1万人いても敵わない強さだ。それでもお前らは必要か?」


 だが、ボッサンも引かなかった。

 まぁ確かに、俺とカリーとゲロゲロがいれば、魔王が出てきても倒せる気がする。

 もしも、ボッサンに何かあってもライトヒールがあれば一発で回復するしな。


 確かに正論だーーそれを知っている相手にならば……。

 
「ふっ……。」


 俺の予想通り、ボッサンのボディガードの兵士は俺を見ながら、小さく笑った。


「お戯れを……。そのような者がどこにいるというのですか? 王の警護は譲れませぬ。」


 カッチーーン!!
 

 確かにさ、俺は弱そうかもしれないよ?
 でも、笑うのはちょっと……。
 お前あれだな……少しぶっ飛ばすぞ?


 兵士の態度に若干ピクついた俺だが、なんとか抑え込んだ。


 別に俺は、そんなに短気ではないんだからね!
 それに弱そうに見えるなら、それはそれでいいし!


 と思った俺だったが、ボッサンが少し語気を強めて、更に兵士に言う。


「ほう、言ってもわからねぇか? 王が嘘をつくとでも? まぁいい、なぁサクセス。ちょっといいか? こいつと腕相撲してやってくれねぇか? ちなみにサクセスは小指しか使っちゃダメだぞ。これでもこいつらは大事な兵なんでな。壊されちゃかなわん。」


 えぇ?
 小指だけかよ!!
 つか、大事ならやらせんなや!


 って、まぁいいだろう。

 あまり自分の強さを自慢したいわけじゃないが、笑われたままなのも嫌だからやってやろうじゃないか!


「はぁ……。小指だけですか……。いいでしょう、それで王の機嫌が戻るならば構いませぬ。なら、さっさと始めて終わらせましょう。」


 その兵士は馬鹿々々しいと言った感じでため息を漏らす。


「俺も構わないよ。なんなら、兵士様は両手でもいいですよ?」


「がっはっは! だってよ。おい、じゃあお言葉に甘えて両手使えや!」


 ボッサンがそう言うと、少しだけ兵士の顔がピクついたように見えた。
 俺の煽りもあってか、少し舐められすぎてムカついてるっぽい。

 でもな、むかついてるのも、面倒くさいのも俺も同じだからな!

 正直ね……、俺はさっきから、めっちゃ腹減ってんねん!!

 こういうイベントいらんから、飯寄越せ!


 だが、そのやり取りを聞いていた周りの冒険者連中は、何事かといった感じで集まってくる。


 こういうの大好きだからね、冒険者達は。


「おお! なんか面白そうだな!!」

「ん? 兵士が両手で、そこのひょろいあんちゃんが小指だと!?」

「おぉーい! 賭けしようぜ! 賭け! 俺はあんちゃんに50ゴールドだ!」


 集まりだした冒険者連中が突如行われる面白そうなイベントに騒ぎだす。


 ちなみに、カリーとゲロゲロはいつの間にか隣のテーブルに置かれたうまそうな飯を食い始めていた。

 まるで興味がないらしい。

 カリーはわかるけどさ……ちょっとゲロゲロちゃん? 

 俺より飯か!!


 と、若干恨めしい目をカリーとゲロゲロに送った後、目線を目の前のごつい兵士に戻す。


  ガチッ!!


 目の前の兵士は、俺の事を睨みながらも、俺の右手の小指を潰そうとするが如く、両手で握ってきた。


 おい、こいつまじで両手で来やがった!
 プライドはないのか?
 いいだろう、手加減なしだ!
 やったんぜ、おらぁ!


 俺と兵士の間で、見えない火花が飛び散る。


 それを見て、周りは大はしゃぎだ……そう、あいつもな。


「おっし、じゃあおめぇらいいか? 賭けの準備はできたか? 俺はこのサクセスに1000ゴールドだすぞ!」


 ボッサンがそう叫ぶ、場は更に盛り上がる。

 賭け金が高い故だ。
 そして、自分で言うのもあれだが、弱そうな俺に賭けたんだからな。

 周りからすれば、「今日は奢ってやるぜ」と言われているも同じに感じているっぽい。


「うおぉーー太っ腹! なら俺は兵士に50だ!」

「じゃあ俺も兵士に100!」

「今日はただ飯だぜ! ヒャッホー! 兵士に50っとね!」


 おい、こらボッサン!!


 なんでお前まで楽しそうに、冒険者連中に混じって賭けしてんだよ。


 しかも、くそ楽しそうな顔しやがって! 
 腑に落ちねぇ……。


 と、いってもあれか、城に戻るとこういう祭りもなくて暇なのかもな。


 いいだろう、乗ってやるよ!
 だけど、その買った金で今日の飯は奢ってもらうからな!!




「それでは私が今回のレフリーを務めまーす。はい、皆さまご存知の通り、私こそ! この町のギルドマスター、ボクネンジンでアーール!!」


「うおおおおお!! マスターーー!」
「待ってました! ボクネンジンさぁぁん!」
「公平にたのみまっせぇ!!」


 突如現れたタキシード姿の謎紳士。
 自称ギルドマスターであるが、酷い名前だ。

 周りの雰囲気から、間違いなくこいつがギルドマスターなんだろうけど、名前もそうだが、なんでこんなところにギルドマスターがいるんだよ……。


 パチン!


 俺がそんな疑問を浮かべていると、そのマスターは俺に目配せをしてくる。


 どういう意味か全くわからない。
 まぁいい、さっさとやってくれ!
 俺は、早く飯が食いたいんだ!



「それではお二人とも準備はイイデスカー!? いきますよぉーー! レディーーごおおおーーー!」

 
 ボクネンジンがGOの合図をする前に、兵士は両手に力を入れる。
 まるで、俺の小枝のような小指をへし折るが如くだ。


 いやさ、本当にプライドないんかね。
 フライングですぞ?


「ぐぬぬぬぬぬぬぬ……。」


 兵士は顔を真っ赤にさせながら、全体重(装備の重みも含めて)を俺の小指を倒すほうに乗せて頑張っている。


 一方、俺の方は、やはり予想どおりというか、まったく押されている感じがしない。

 なんだろね、例えるならば、小指に息を吹きかけられているような……そんな感じ。


「おい! なに遊んでるんだよ! やらせかぁ?」

「ふざけんなよ、ちゃんとやれよ、くそ兵士!」

「小指を倒せないとか、ギャグですか? ぷーくすくす。」


 冒険者のヤジが一斉に兵士に飛んだ。


 その野次と茹タコのように顔を赤くしている兵士の顔がおかしくて、俺はまだ倒さない。
 ちょこっと押されている振りをしてみたりして、少しだけ遊んでいるのだ。


「おう、サクセス! 飯が冷めるからさっさとやってくれや!」


 俺に対する唯一のヤジはボッサンだった。

 お前……マジで覚えてろよ!
 くそ、んじゃ、やっちまうか。


「ったく! じゃあ潰すぞ……おらぁぁぁ!!」


 バァァァン!


 その瞬間、兵士の両手をテーブルに押し倒すと、勢い余ってテーブルを突き破り、兵士の体が床に穴をあけて、床にはまってしまった。


 …………。


 さっきまでやかましかった場が、一気に静まり返る。
 というか、全員氷魔法でも直撃したかのように固まってらぁ。


 でもそれより、兵士の格好だ。

 顔面床フルダイブ!

 ちょっとその姿、面白いね。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

騎士王と大賢者の間に産まれた男だけど、姉二人と違って必要とされていないので仕えません!

石藤 真悟
ファンタジー
 自分の家族、周囲の人間に辟易し、王都から逃げ出したプライスは、個人からの依頼をこなして宿代と食費を稼ぐ毎日だった。  ある日、面倒だった為後回しにしていた依頼をしに、農園へ行くと第二王女であるダリアの姿が。  ダリアに聞かされたのは、次の王が無能で人望の無い第一王子に決まったということ。  何故、無能で人望の無い第一王子が次の王になるのか?  そこには、プライスの家族であるイーグリット王国の名家ベッツ家の恐ろしい計画が関係しているということをプライスはまだ知らないのであった。  ※悲しい・キャラや敵にイラッとするお話もあるので一部の話がカクヨムでのみの公開としています。  ご了承下さい。

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

二度目の異世界に来たのは最強の騎士〜吸血鬼の俺はこの世界で眷族(ハーレム)を増やす〜

北条氏成
ファンタジー
一度目の世界を救って、二度目の異世界にやってきた主人公は全能力を引き継いで吸血鬼へと転生した。 この物語は魔王によって人間との混血のハーフと呼ばれる者達が能力を失った世界で、最強種の吸血鬼が眷族を増やす少しエッチな小説です。 ※物語上、日常で消費する魔力の補給が必要になる為、『魔力の補給(少しエッチな)』話を挟みます。嫌な方は飛ばしても問題はないかと思いますので更新をお待ち下さい。※    カクヨムで3日で修正という無理難題を突き付けられたので、今後は切り替えてこちらで投稿していきます!カクヨムで読んで頂いてくれていた読者の方々には大変申し訳ありません!! *毎日投稿実施中!投稿時間は夜11時~12時頃です。* ※本作は眷族の儀式と魔力の補給というストーリー上で不可欠な要素が発生します。性描写が苦手な方は注意(魔力の補給が含まれます)を読まないで下さい。また、ギリギリを攻めている為、BAN対策で必然的に同じ描写が多くなります。描写が単調だよ? 足りないよ?という場合は想像力で補って下さい。できる限り毎日更新する為、話数を切って千文字程度で更新します。※ 表紙はAIで作成しました。ヒロインのリアラのイメージです。ちょっと過激な感じなので、運営から言われたら消します!

Sランクパーティから追放された俺、勇者の力に目覚めて最強になる。

石八
ファンタジー
 主人公のレンは、冒険者ギルドの中で最高ランクであるSランクパーティのメンバーであった。しかしある日突然、パーティリーダーであるギリュウという男に「いきなりで悪いが、レンにはこのパーティから抜けてもらう」と告げられ、パーティを脱退させられてしまう。怒りを覚えたレンはそのギルドを脱退し、別のギルドでまた1から冒険者稼業を始める。そしてそこで最強の《勇者》というスキルが開花し、ギリュウ達を見返すため、己を鍛えるため、レンの冒険譚が始まるのであった。

処理中です...