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第二部 新たなる旅立ち

第十一話 にじみ出る涙

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【サクセス達の戦場】

「ダメ! 全く効かないわ! どうする? サクセス。」

 相変わらずスライムバウアーに、攻撃が効かずに苦戦する俺達。

「ディバインチャージを使ってみる。リーチュン、囮を頼めるか?」

「わかったわ! 任せて!」

 リーチュンは素早い動きでスライムバウアーを翻弄する。

 ドシィーン!

 押しつぶし攻撃もギリギリで避けた。
 攻撃は効かなくとも、敵の攻撃は避けられる。
 だが既に、リーチュンの体力に限界が見えてきていた。

「よし、いいぞ! リーチュン離れろ! 【ディバインチャージ】」

 俺は光の斬撃をスライムバウアーに放つ……が、なんとスライムバウアーはその光を吸収してしまう。

「なんだと!? 嘘だろ、おい!」

 実はスライムバウアーの属性は光だった。
 愛という奇跡の光で合体したスライム。
 そして、不運な事にディバインチャージは光属性相手だと効果がない。

 物理攻撃は無効。
 唯一の属性攻撃である光も効かない。
 絶体絶命な状況であった。

「やはり、イーゼの火魔法を付与してもらわないとダメか。一旦合流するぞ。」

 俺はそう言ってイーゼ達のいる方を見ようとすると……

 ドシィーン!

「ぐわッ!」

 よそ見をした瞬間、のしかかり攻撃によって弾き飛ばされる。
 しかし俺の視線は、少しだけだがイーゼ達を捉えた。
 イーゼ達は何かと戦っている。

「大丈夫? サクセス!?」

「あぁ、対してダメージはない。だが、まずいな。イーゼ達も苦戦している。今こいつをあっちに連れていくのは危険かもしれない……。」

「じゃあどうしたらいいの? アタイの攻撃じゃ意味がないし、サクセスだって……」

「やってみるしかないだろ。 くそ! とにかく攻撃を続けるぞ!」

 ブチュ!

 やはり俺の攻撃はスライムバウアーに吸収されてしまった。

「くっそ、こいつマジでムカつく!」

 再度、剣を引き抜くと俺は毒づいた。

「何か……何か方法はないのか……。」

「ねぇサクセス。アタイ、やってみたい事があるんだけど……いいかな?」

 リーチュンは自分の拳を見つめながら呟いた。

「ん? 何をするんだ?」

「さっきからね、何か体の内側からオーラが湧いているのが見えるのよ! ちょっとこれを拳に集中して、あいつを殴ってみたいわ。なんかイケる気がする……だから、これ持ってて!!」

「え? おい! リーチュン!」

 リーチュンはそういうと、装備していた【はがねのつめ】を俺に渡して、スライムバウアーに突撃した。
 その手が白く光っている。

「これでもくらいなさい!!」

 ドォォン!

 リーチュンはスライムバウアーの胴体目掛けて正拳突きを放った。
 すると、スライムバウアーの体が内側から爆発して穴が開く。

「やったぁ! 効いてるわ、サクセス!」

 リーチュンが使った技は気功法と呼ばれる技だった。
 体の内側から発する内気を拳に集約させて、敵の内側から破壊する攻撃。
 今までこんな事はできなかったはずだが、リーチュンは【戦姫のチーパオ】を装備してから、この気が見えるようになっていた。
 そして、疲れて余計な思考が消えた今、それを自然と使えるようになったのだ。

「いくわよぉ! 百裂キック!!」

 リーチュンの内気がこもった連続蹴りが、スライムバウアーにヒットする。

「ウラウラウラウラウラァァ!!」

 スライムの胴体の穴が大きくなっていく。

「トドメよ! スピニングブレイクキック!!」

 リーチュンは逆立ちすると、足を大きく水平に開いてヘリコプターの羽の様にぐるぐると回った。

  パタパタパタ 
  ブゥーーン

 足の回転により低いブレードスラップ音が響き渡る。

 ズバッ!!

 スライムバウアーの体を真ん中から一刀両断すると、遂にスライムバウアーは爆散した。

「す、すげぇぇ……黒色のTバック……。」

 その必殺技はパンティがモロダシになっていた。
 俺ですら攻撃がまともに効かなかった相手を倒したリーチュン。
 だが、その衝撃よりも、目の前のお宝が脳裏から離れない。

「Tバッ……リーチュン! やったな! 凄いぞ!!」

「サクセス! やったわぁ! アタイ! 倒したわ!!」

 リーチュンが嬉しさから、俺に飛びついてくる。
 そして俺は押し倒され……唇が合わさってしまった……。

 チュッ! チュッ!

 しかも、リーチュンは我を忘れて、そのまま何度もチュッチュしてきた。
 どうやら興奮がおさまらないらしい。
 多分、自分の行動に気付いていない。

 お、お、おおおお!

 俺の二度目のキス。
 それは突然起こった事故?

 だが、こんなにも何度も激しくされると……もうオラ……
 我慢できないっぺよ!!

 イーゼの時の優しいキスとは違う……熱烈なキス。
 その破壊力はTバックを越えていた。 

「あ! ご、ごめん! アタイ今なにしてたの!?」

 しばらくリーチュンの百裂キッスが続くと、リーチュンはやっと我に返った。

「お、おう。じ、事故だっちゃ……それよりもよくやったな!」
 
 焦りながらも答える俺。
 しかし、残念だ。
 次は俺のターンだったはずなのに……
 俺の必殺技【したのびーる】を披露する事は叶わなかった。

 すると、リーチュンは俺に馬乗りになったまま、満面の笑みを浮かべる。

「えっへへー! どうだ! 凄いでしょ! どう? 見直した?」

 おう、あのTバックは凄かったぜ……。
 見直させてほしい。
 だがそれよりも、この激しいキスの方がよっぽど凄かった。

「あぁ、凄いキスだった……。」

「なによそれ! って、え? 今キスって言った?」

 どうやら、まじでわかってなかったらしい。
 興奮しすぎて我を忘れていたか。

「あぁ、熱烈なキスだったっちゃよ……。」

「えええ! 嘘! ごめん!」

 そう言うと、リーチュンは照れた顔をしながら俺の上からどいた。
 俺の上に圧し掛かっていた、柔らかい重みが消える。

 く、もう少し堪能したかったぜ。
 だがしかし、俺は安堵もしている。
 なぜなら、あと少しポジションがずれていたら……
 俺の硬質化された息子があたるところだったからだ。

 しかも息子の目から、少し涙がにじんでいるのを感じる。
 よっぱど嬉しかったんだな……。

 立ち上がったリーチュンは、俺の方に振り返ると頬を紅色に染めながらいった。

「アタイの初めては……やっぱりサクセスだったわ……。」

 少し潤んだ瞳で俺を見つめるリーチュン……。

 ドキン……。

 いつも元気いっぱいで明るい彼女。
 そのリーチュンが照れながらも呟くその姿に、俺の胸の鼓動は激しく揺さぶられた。

 か、可愛すぎだろ……。

 こうして俺の戦場も、一滴の涙をパンツに残して、無事に幕を閉じるのだった……。
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