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第二部 新たなる旅立ち

第五話 仁義なき戦い

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「アースウォール」
「ストーンウォール」

 イーゼが魔法を唱えると、広いスペースを囲むように、土と石の壁が出来上がった。
 これで、直接敵から襲われる事を防げる。

「ホリフラム」

 続けてシロマも魔法を唱えた。
 これにより、モンスターはこの付近に近づく事ができなくなる。

 俺たちの野営は、この三つの魔法により安全を保っていた。
 モンスターを見かけないとはいえ、油断は禁物だ。
 それに、このホリフラムは虫も来なくなるため、大変便利である。
 中には猛毒を持った虫もいるため、虫除けはとても重要だ。
 旅の敵はモンスターだけに限らない。

 そうこうしている内にどうやら、飯の準備が終わったようである。
 なんか今日はいい匂いだな。

「出来たよー! アタイ特製燻製肉の鍋!」

 今日の料理当番はリーチュンだ。
 リーチュンが作る料理は豪快であり、単純。

 ……つまり、不味い。

 一度リーチュンを料理当番から外そうとしたところ、これに猛抗議。
 暴れて手に負えなくなりそうだったので、みんな渋々これを受け入れたのだ。

 今回の料理……と言っていいのだろうか。
 まぁいい。
 リーチュンが出してきたのは、何のダシも取らずに、適当に野菜とキノコ、そして燻製肉をそのまま鍋にぶち込んで、煮込んだ謎鍋。

「じゃ、じゃあ……いた、だきます。」

 俺は若干躊躇しながらも、謎鍋を食べる事にした。
 そして、リーチュンはそれをキラキラした目で見ている。

「ねぇ、美味しい? ねぇ、ねぇ。」

 そして口に入れようとすると、リーチュンがしつこく聞いてくる。
 新婚さんか!

「やめなさい! サクセス様が落ち着いて食べられないでしょう。大体、こんなの料理でも何でもないですわ。」

 イーゼが皮肉を込めて怒ると、リーチュンの眉間に皺が寄る。

「なんですって! アタイ、今回は自信あるんだからね! そんなに言うなら、食べさせないわよ!」

「いりませんわ、こんなもの。そこら辺の雑草を食べた方がマシですわ。」

「言ったわねぇ! 今日という今日は絶対許さないんだから!」

「許さないのはこちらの方です。こんなものを食べさせられるサクセス様の身になりなさい。お腹を壊したらどう責任をとるつもりですか!」

 遂に喧嘩が勃発した。
 このまま放置すれば、飯どころではない。

「いい加減にしろ! 喧嘩はやめてくれ。イーゼ、口が過ぎるぞ。リーチュンだって頑張って作ってくれたんだ。そんなにいうなら手伝ってあげればいいだろ?」

「手伝おうとしましたわ。ですが、それを拒否したのです。その挙句に出来たのがこれですわよ? 私だって怒りますわ。」

 イーゼは全く反省していない。
 まぁ、手伝おうとして拒否されたなら、わからないでもないが……。

「イーゼの言いたい事はわかった。じゃあ、これからはみんなで作ろう、それでいいな? それとだ、ちゃんと食べてみろ。今回の料理は美味しいぞ。」

 実はさっき一口だけ汁を飲んでみたのだが、予想外に美味しかった。
 肉からいいダシが出ている。
 塩気のある肉が、逆に良かった。

 さっきまで怒っていたリーチュンであったが、この言葉に目を潤まる。

「サクセス! サクセス大好き! アタイ、頑張っていいお嫁さんになるね!」

「ぐぼふぁ!」

 俺は、次の一口で肉をモグモグしていると、リーチュンがいきなり抱きついてきた。
 思わず喉の奥に肉が詰まる。

 喉に詰まったのは、飯だけでは無く、リーチュンのセリフもあったかもしれない。

「大丈夫!? サクセス! どうしたの!?」

 俺を必死に揺らすリーチュン。
 やめてくれ、これ以上は……噴射する。

「リーチュン、やめてください! サクセスさんが苦しんでいます。それに何ですか、いいお嫁さんって。そのセリフは聞き捨てなりませんね……。」

 シロマは、リーチュンを止めてくれたものの、ここでも違う意味で戦闘が始まってしまった。

「アタイはね、サクセスにプロポーズされてるの。だから、いいお嫁さんになる為に、料理の特訓をしているのよ。」

 リーチュンはでかいメロンを張りながら、フフンと二人を見下ろして言う。

「本当ですか? サクセスさん?」

 リーチュンの言葉を受け、今度はシロマが真剣な目をして、俺を問い詰めてくる。

 どうする俺?
 今日はバトルは無かったはずだ。
 なのに、どうしてこんなにも窮地に立たされているんだ。
 教えてくれ! 神様!

 俺は神に祈るも、助けは来ない。

「うっ!」

 そして肉と言葉を詰まらせた俺は、そのまま倒れ込んだ。

「サクセスーー!!」
「サクセスさん?」
「サクセスさま!?」

 サクセス 享年16歳
 死因 肉を喉に詰まらせた事による窒息
 彼の人生は、童貞のまま終わりを告げるのだった……。



 とはならず、その後リーチュンが背中を殴打し、肉が口から飛び出たことで一命を取り止める。

「がはっ! ハァハァ。すまない、ありがとう。」

「大丈夫?」

「あぁ、でも少し気分が悪いから、先に馬車の中で休ませてもらってもいいか?」

 俺が全てを有耶無耶にする為に、馬車に逃げようとしたところ、全員がついて来ようとする。
 簡単に逃してはくれない。

「大丈夫ですかサクセス様? 私が付き添いますわ。」

「いえ、ここは僧侶の私が良いと思います。」

「何言ってんの! 大体シロマがサクセスに詰め寄ったからこうなったんでしょ!」

「確かにそうですね。私が原因ですから、責任をとって私が看病しなくてはなりませんね。ですので、皆さんは先に食事を済ませて下さい。」

「ダメですわ。シロマさんは、そう言ってサクセス様に無理矢理、色々聞こうとするに決まってますわ。わたくし、そう言うのは良くないと思いますの。」

「わかった! じゃあサクセスはアタイが看病してるから、みんなはご飯食べてて!」

「何がわかった! ですか? 大体、リーチュンが変な事を口にするからこんな事になったんですよ。」

「アタイ、別に変な事なんか言ってないわよ。事実を言っただけだわ。」

 今ここに、女性三人による

  仁義なきの戦い

が始まった。
 
 そして俺はというと、女性の醜い争いは見たく無かったので、そのまま何も言わずにゲロゲロを連れてそっと馬車なら戻る。

 ゲロゲロは口をモグモグさせながらも付いてきてくれた。

 ちなみにゲロゲロは、みんなが争っている間に謎鍋をむしゃむしゃ食べていたようだ。

 ゲロォ!(肉、美味しい!)

 みんなゲロゲロを見習って、食事に集中してくれないものだろうか……。

「お前だけが、俺の救いだよ。」

 俺は馬車の中で毛繕いをしているゲロゲロを眺めながら、そのまま寝るのだった。

 その夜、遅くまで三人の仁義なき争いは続いていくのだった……。
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