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第一部 サクセス編(改稿版)
80 決着後に残ったもの
しおりを挟む「ダメーーー! パパを殺さないで!」
その叫び声と同時に入ってきたのは、ちびうさだった。
「待ちなさい! うさ!」
続けてリーチュンも走って入ってくる。
なぜここにちびうさが?
魔王は突然の乱入者を見て、マモルへの攻撃をやめる。
いや、やめたように見えた。
そして、魔王の口元は卑しく開く。
「これは、これは面白い。父親の目の前で娘を殺す、これは思いの外、面白いことになりそうじゃ。」
「やめろ! 娘に手を出すな!」
マモルは、そう言って両手を開いて立ち上がると、ちびうさはマモルの背中目掛けて必死には走った。
「イーゼ! 俺に最大火力で火魔法を放て!」
俺は、その隙に魔王に向けて走り出すと、イーゼは何も言わずに、俺に言われた通り上級火魔法を放つ。
なぜ俺がそんな事をイーゼに頼んだか。
それは、マモルとの戦いで、マモルの火炎斬りの炎が俺の剣に纏わりつく現象を知ったからである。
俺はマモルと戦いながら、どうやって魔王を倒すかをずっと考えていた。
その結果、浮かんだ戦略がこれ。
イーゼの強力な魔法を剣に宿して攻撃をすること。
俺は、イーゼから放たれた上級火魔法を剣で受けると、案の定、俺の剣に激しい炎が纏わりついた。
魔王は、マモルとちびうさに夢中で、まだ俺に気づいていない。
今なら倒せる!
俺が魔王に向かって後方から近づき、炎の剣を振り抜く瞬間
ーー奴の手は既にマモルを貫いていた。
そして、その手はマモルを貫通し、マモルに抱きついたちびうさの胸をも貫く。
しかし、俺はまだそれに気づかない。
故に、即席の必殺技をカイザーレオンに叩きこむ!
【マグマブレイド】
ズバッシュ!
ゴォォォォォ!
俺の斬撃は、魔王の腕を四本切り落とし、更に切り落ちていない部分が燃え上がる。
どうやら、効果てきめんだったようだ。
「グ、グォぉおぉお! な、なにぃぃぃ!?」
【ブリザック】
イーゼは俺の攻撃の後、すぐさま上級氷魔法をカイザーレオンに打ち込んだ。
カイザーレオンの足が凍る。
俺はその一瞬を逃さず、更に破邪のつるぎをカイザーレオンの胸に突き刺すと、突然頭に浮かんだ言葉を叫んだ。
【ライトブレイク】
すると突き刺した剣先に光が集まり、カイザーレオンの内側から大爆発する。
ドゴォォォォォン!!
「おおおぉぉ! 何故だ! なぜだァァ! 勇者でもないお前が……なぜだぁァァ!」
カイザーレオンは断末魔をあげて、そのまま爆散した。
「やった……遂にやったぞ! イーゼ、よくやった!」
「はい! 流石はサクセス様です!」
俺は魔王を倒した喜びから雄叫びをあげる!
自分の剣を見ると、剣先には巨大な魔石が刺さっていたのだが、なぜかその魔石は残らず砕け散った。
だがその喜びも束の間、突然、リーチュンが鬼気迫る声をあげて駆けつけてくる。
「うさ! うさ!! しっかりして! うさぁ!」
その声に、ふと視線を下に目を向けると……
ーーそこには体に大きな穴を開けたマモルと、同じように体に穴を開けたちびうさがいた。
「マモル! ちびうさ!」
俺はやっと現実を認識する。
間に合わなかったのだ。
それに気づいた瞬間、一気に血の気が引く。
ピクッ……。
その時、マモルの指が少し動いた。
「よく……やってくれた。お前こそ……勇者だ。」
マモルが消えそうな声で話し始めると、マモルが抱きしめているちびうさの口も開いた。
「パパ……痛くない?」
体に大きな穴を開けているちびうさ。
しかし、不思議な事に痛そうにもせずに、普通に話している。
……と思ったのだが、よく見ると体が透け始めている。
「あぁ……大丈夫だ。約束を守れなくてすまない……パパは、ママを助けられなかった。」
マモルはちびうさを抱きしめながら、悲しい声で話し続ける。
「ううん、パパはちゃんと戻ってきてくれたよ? だって、アタチみたもん。パパはちゃんとママを連れて帰ってきたよ。でもね、その後二人ともいなくなっちゃったの。パパはアタチのこと嫌いになったの?」
ちびうさは死ぬ直前、レッドオーブの力で幻を見ていた。
その残酷にも優しい幻は、かつてと同じ様に、戻って来た両親と一緒に食事をしているものだった。
だから、ちびうさは死んだ時、笑っていたのだった。
ちびうさが何を言っているのかマモルには理解できない。
しかし、これだけは確かだった……。
「嫌いな訳ないだろ! パパは、ママも! ちびうさも! 世界一愛している!」
「よかったぁ。だってパパはいつもアタチが会いに行くと、帰れって言うから。アタチ寂しかったんだよ。」
「ごめん! ごめんよ……ちびうさ! パパは……。パパは……。」
すると、俺が持っていたヌーウの手鏡が光出した。
そして、マモルの姿がヘルアーマーから生前の姿に変わる。
更にはそこに、牢獄で見たヌーウも現れた。
現れたヌーウを見つけたちびうさは、満面の笑みを浮かべる。
「あ! ママだ! ママおかえり! やっぱりパパは約束守ってくれたよ! ママもパパも大好き!」
「ただいま、私の可愛いちびうさちゃん。沢山待たせちゃったね。でもこれからはずっと一緒よ。」
ヌーウは、ちびうさの頭を撫でると、ちびうさは気持ちよさそうに目をぎゅっとつむる。
その光景を、俺たちはただ呆然と見るしかなかった。
既にマモル達の姿は透明である。
もう、俺達にはどうすることもできない。
「ねぇ! ママ聞いて! アタチね、面白い友達できたの! リーチュンっていうの。料理が下手でぇ~、すぐに怒ってぇ~、それでねそれでね、とっても優しくしてくれるの。アタチね、リーチュンが大好き!」
「そうなのぉ!? 良かったわね、ちびうさちゃん。いいお友達出来たのね、ママも嬉しいわ。」
ヌーウはリーチュンを見ると微笑む。
その瞳にあてられたリーチュンは、そのまま膝から崩れ落ちた。
「あぁぁぁん! 嫌! 嫌よ! こんなの嫌! 絶対いやーーーー!」
そのままリーチュンは大声で泣き出してしまう。
俺とイーゼの目からも涙がこぼれ落ちた。
しかし、ちびうさは突然泣き出したリーチュンに近寄ると、リーチュンの頭を撫で始める。
「リーチュンどこか痛いの? 痛いの痛いの飛んでけー。はい、飛んでったよ。だからもう泣かないで。」
「ごめんなさい! ごめんなさい! アタイが……アタイがちゃんと……。うわぁぁぁん!」
「なんでリーチュンが謝るの? アタチ、今幸せだよ? だってリーチュン達のお陰で、やっとパパとママに会えたんだもん。でも、ごめんね。リーチュンの事大好きだけど、お別れしなきゃ……。」
すると、さっきまで笑顔だった、ちびうさの目からも大粒の涙が溢れ出てくる。
その姿を見たリーチュンは、ちびうさに抱きついたが、既にそこに形ある体は無く、無情にもすり抜けてしまった。
「うさ! うさ! やだよ! 行かないで! お願い、お願いだから行かないで! もっともっと楽しいところに連れて行ってあげるから! 美味しいご飯も作れるようになるから! だからお願い、行かないで!」
リーチュンは、触れる事もできなくなったちびうさを、必死に抱きしめて叫び続ける。
「ごめんねリーチュン。アタチね、これからパパとママと遠くに出かけるの。でもね、絶対またリーチュンに会いに行くから。だからね、アタチの事……忘れないで……。」
ちびうさも、泣きながらリーチュンを抱きしめた。
「忘れない! アタイは絶対忘れないから! 絶対絶対絶対だよ!」
「良かったぁ、じゃあ約束だよ。アタチね、またパパとママの子供に生まれるから、そしたらまた絶対遊んでね。」
ちびうさは、涙を流しながら微笑むと、そのまま母親に抱かれて空にあがって行く。
そして、マモルだけがそこに残った。
残ったマモルは俺の前まで来て、俺に手を差し出す。
俺は触れる事ができないとわかっても、その手を掴んだ。
「サクセス、君のお陰でまた家族全員が出会う事ができた。心から感謝する。君達には辛い思いをさせてしまった。だがあえて厳しい事を言わせてもらう。これからも同じような辛い事が沢山あるだろう。だが私は信じている、君はそれを必ず乗り越え、そして、この世界に光を照らす事を! 出来るならば、君と仲間としてもう少し一緒に戦いたかった……ありがとうサクセス!!」
マモルはそれだけ言うと急いで、妻と娘のところに上がっていく。
「俺も……俺もマモルとずっと仲間でいたかったよ!」
俺は必死に叫んだ!
マモルに出会えて良かった。
ちびうさの笑顔を見れて良かった。
それなのに……。
なんで……
なんでこんなに胸が苦しいんだよ!
なんでだよ!
どうしてだよ!
わかんないよ!
なんで俺は、こんなにも無力なんだ!!!
マモルは、俺の声を聞くと笑顔で手を振る。
そしてマモルの隣には、同じように笑顔で手を振っているヌーウとちびうさがいた。
「みんなぁ! バイバーイ! 元気でねぇー!」
その笑顔はとても幸せそうだった……。
謁見の間は、ちびうさの最後の声が消えると……
ーー決して消える事のない大きな悲しみと静寂だけが残るのだった。
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