49 / 397
第一部 サクセス編(改稿版)
48 王国祝賀会
しおりを挟む
目の前に広がる無数の見たことがない豪華絢爛な料理の数々。
……ジュルリ。
さっきから見るだけで、涎がとどまる事を知らない俺。
貧乏農家の三男である俺にとって、このような派手な場所で立食パーティは当然経験もしたことはないし、もはやこんな光景を目に入れるだけでも、夢のまた夢であった。
しかも俺の隣にはこの国で一番偉い王様が立っているときたもんだ。
涎と涙の一つくらいは、出て当然だろう。
早速王様は、酒が注がれた杯を手に取ると高らかに掲げる。
「今日、わが国に英雄が誕生した。その者達は魔王の手の者を滅ぼし、更にはこの国の危機を救ったのである。今日という日は、正にこの英雄達の伝説の幕開けとあるであろう。それでは皆の者、杯を掲げよ! 救国の英雄達に乾杯!」
王様ことセンニンが乾杯の挨拶をすると、いつから来たのか、この国の重鎮と思われる者達が一斉に杯を掲げて乾杯をした。
当然英雄とは、俺達の事であるのは言うまでもない。
王様の隣には俺が立ち、その隣には仲間達が並んでいる。
センニンの挨拶が終わると貴族たちは、普段なら偉い順番に挨拶に来るようだが今日は違った。
俺達がいるから、王の邪魔することはできない。
故に、最初は近くの者達と今回の件について話し合っているようだったが、その内に俺達に直接話を聞こうとじわじわと近づいて来る。
そして見た目麗しい俺の仲間達を一目見て、あわよくば声をかけようと画策していた。
ただ一つ、不思議な事は、大臣が見当たらないことだ。
「本日はパーティの裏方に専念致します。」
と言って引っ込んでしまったらしい。
まぁそんなことは、この俺が許さんがね。
ちゃんと謝罪をしてもらうまでは許しませんよ?
「いやぁ! 本当に豪華な食事だなぁ。しかもどれも美味しい! センニンありがとな!」
俺は、既にこの国の王様とタメ口だ。
周りに人がいる時は、遠慮しておくと言ったのだが……
「英雄なんだから遠慮はいらない。サクセスと余は対等である。」
とかいって普通に話すように言われてしまった。
俺の中でセンニンの好感度は急上昇中。
冒険者を辞めたら、この国に住むのもありかもな。
「こんな事ぐらいでは感謝しきれんじゃろ。余は、いや、この国はサクセス達によって救われたのじゃからな。改めて申す、ありがとう。」
「もういいって。そんなに王様が頭下げたらまずいって。感謝は十分受け取ったよ。それに俺達はもう友達だろ?」
「……サクセス。余は生まれて初めて心を許せる者を得た気がする。これが友というやつなのだな。」
センニンが涙を流し始めた。
「ちょッ! やめてくれよまじで。それより大臣はこないのか? 色々聞きたい事があるんだけど、呼べないかな?」
「お安い御用じゃ、おい! カッパを連れて参れ! 大至急だ!」
センニンは、隣のメイドにそう伝えると、メイドは一礼をした後、大急ぎで大臣を呼びにいった。
「ねぇサクセス! あっちに美味しそうなのあるから、食べにいっていい?」
リーチュンは目の前に広がる宝(飯)の山に目を輝かせている。
「おう、みんなも好きにしてくれ。俺はちょっと大臣を交えて話したい事があるから、自由に楽しんでくれよ。」
「わかったわ! よし! シロマ、食べるわよ!」
リーチュンはそう言うと無理矢理シロマを連れて、奥に並んでいる宝の山の攻略を始めた。
パーティは、前衛リーチュン、ゲロゲロ、後衛シロマの三人である。
多分作戦は【ガンガンいこうぜ】で間違いないだろう。
こんな時ぐらいはそれでいいと思う。
じゃあ俺の作戦は【みんながんばれ】だな。
と言いつつ、さっきから俺の箸も止まらないんだけどね。
「ふふふ、邪魔者は消えましたわ。サクセス様、はい、あ~ん。」
リーチュン達が消えるまで、影を潜めていたイーゼが俺に飯をあ~んさせてくる。
俺にとって人生初あ~んは、王様の羨ましそうな目線の下で行われることになった。
もぐもぐもぐっ……。
「うん、うまい。けど自分で食べるからいいよ。イーゼも好きに食べてくれ。」
「料理など目に入りません。私が見たいのはサクセス様だけ。あ~んしてくれるだけで十分ですわ。もしくは私にあ~んあんあん……させてくれるでもいいですわよ。うふふ。」
おい!
この変態エルフはこんなところでなんっつう事を口走るんだ。
何が、ア~ンアンアン……だよ!
見て見ろ!
隣のセンニンが羨ましいを通り越して、虫の息になってるぞ!
「だ、大丈夫かセンニン! あれは冗談だ、冗談なんだよ。お前には言うけどな……俺まだ童貞なんだ。」
すると、センニンの目に光が戻る。
「なんと! そんな馬鹿な! こんな見た目麗しい女性に囲まれているのにか!」
「そうなんだ。仲間に手を出したら冒険者はやってられないだろ? だから毎日違う意味で苦しんでいる。正直永遠の毒状態だよ。」
「そうじゃったか……余に何か手伝えることはないか? そうだ、余の秘蔵の……。」
センニンが何か重要な事を言おうとした時、イーゼが割って入ってくる。
「あら? そんな事を気にしてらっしゃったのですか? 私なら全く気にしませんわ。別に私以外の者を抱いても、私さえ愛してくれるなら構いませんわよ。なんなら全員同時に愛してくれても……。」
ブファッ!
俺は思わず吹き出してしまった。
「ななな、何言ってんだ。できるわけないだろ! そげな高度なこと!」
童貞に4Pとか、いきなりできるはずもない!
いやいや違う、そこじゃない!
「うふふ、私がリードしてあげますわ。」
え? リードしてもらえるなら……俺にもできるかな?
ってちが~う!
ダメだ! 乗るな、悪魔の誘惑に!
「いいのうぅ、いいのうぅ、うらやましいのう。わしも入れてくれんかのう。」
さっきまで同情していたセンニンだったが、今はまるで友達のいない少年が、楽しそうに遊んでいる子達の輪に入ろうとモジモジしているような状態になっている。
【センニンは仲間になりたそうにこちらを見ている】
【仲間にしますか? はい いいえ】
いいえ 一択だ!
いくら友とはいえ、それだけはダメだ。
というか、そもそもの前提が土台無理な話である。
職業【童貞】
にそんなスキルはない!
ん? いや待てよ?
今の職業は【性戦士】だっけか?
ってんな訳あるかぁ!
そこに突然、息を切らしたメイドが戻ってきた。
「お話中、申し訳ございません、連れて参りました。」
見ると、そこには顔から汗を流しまくっている大臣が立っている。
「遅れて申し訳ございませぬ!」
「馬鹿もん! 余が来いといったら三秒で来い! 大臣が来ないせいで余は劣等感で自殺しそうになったわい! どうしてくれるのじゃ!」
八つ当たりの様に大臣を責め立てるセンニン。
それを見ると、大臣に仕返しをする気分も若干萎えてくる。
つか、自殺とか物騒な事言うなや、そんなにか!?
「た、たいへん申し訳ございませぬ。自殺などと……ご容赦ください!」
「ふん! 聞いたぞカッパよ。お前はこの英雄にとんだ無礼を働いたようだな。余だけでなく、あまつさえガンダッダを捕縛したと報告をした英雄を牢獄に入れるなど、恥を知れ!」
あっれ~、これ、もう俺何もしなくていいんじゃね?
なんかめっちゃ周りに注目されてるし。
一部はリーチュン達に接触しようと必死に声をかけて返り討ちになってるけど……ざまあ。
うん、もういいかな。
こいつのことはセンニンに任せよう。
「返す言葉もございません。このカッパ、どんな処分も受ける所存でございます。」
「余に謝ってどうするのじゃ! サクセスに謝らんかバカ者!」
「はは! この度は大変なご迷惑をお掛けしまして誠に申し訳ございません。」
大臣は俺の目の前で土下座した。
こうして謝罪もしてくれたんだ、水に流すか。
「謝罪は受け取った。許すよ。でもな、大臣という立場であれば、もう少し冷静に判断するんだな。それと聞きたい事が二つある。一つは緊急クエストをギルドに出した後、何を偽物の王に命令されたか、そして俺が捕縛した本物のガンダッダやその一味についてだ。」
俺はずっと気になっていた事を確認する。
すると、大臣は更に大量の汗をかきだし、報告するのをためらっている。
「そ、それが……実を言いますと、偽物の命令でガンダッダとその一味は……その……言いにくいのですが、サクセス様に騙された被害者だから解放せよと命を受けて……」
「まさか逃がしたのか!?」
俺はつい大声をあげてしまった。
「……はい。現在軍を上げて捜索しております。ギルドにも捜索と捕縛依頼を出してきたところです。」
カッパは震える声で報告した。
どおりでここにいなかったわけだ。
色々やる事が多かったのか。
だがそれを聞いたセンニンは激昂した。
「なんじゃとぉぉ! 余は全くそのような話は聞いておらぬぞ! なぜ黙っていた! なぜ伺いを立てぬ! クビだ! カッパ、お前はクビだ! いやこれだけの事をしでかしたのじゃ! 一族郎党全員打ち首じゃぁぁぁ!」
まぁ失敗はもとより、報告連絡の不徹底は致命的だな。
しかし、打ち首は流石に可哀そうだろう。
王に激怒されたカッパは顔を真っ青にして、今にも倒れそうだった。
報告連絡はともかく、こいつも騙されていただけの被害者には間違いはない。
しかも魔物だったとは言え、王と信じた者から命令されれば断れるはずもないよな。
うん、やっぱり死刑はダメだ。
こいつが悪意をもってやったなら、それでいいとは思うけど。
「センニン、落ち着いてくれ。確かにこいつは重大な事を報告しなかった。それ相応の罰を受けるべきだ。」
「そうじゃろ! せっかくサクセスが捕縛したものを……許せるはずもない。」
「いや、許してやれ。奴らは俺が必ず捕縛する。」
「ゆ、許せじゃと? なぜじゃ! サクセスは余以上にカッパに酷い目に遭わされたはずじゃろ?」
「そうだな、さっきまでは、このハゲー! っと言ってやりたい気持ちで一杯だったが、今はその気も失せた。こいつも被害者だからな。偽物に騙されたとは言え、それを看破するのは普通に無理だよセンニン。絶対無理な事を言われて、できなかったら死刑って、それが王様のすることか? それならあの魔物の王と同じだぞ?」
「そ、それは……そうじゃの。わかった。サクセスがそういうなら、騙されて行った事には目を瞑ろう。しかし! それでもただ騙されるだけの無能な大臣はいらぬ。よってお前には、今日からこの城の小間使いを命ずる。サクセスに感謝をするんじゃぞ!」
よかった。流石に一族郎党打ち首はやり過ぎだ。
センニンが人の意見を尊重してくれる王でよかった。
「さすがはサクセス様ですわ。懐が深いですわ。素晴らしいですわ。」
イーゼはとろけたような表情で俺を見つめながら、ぶつぶつ呟いている。
「サ、サクセス殿! 本当にありがとうございます! ありがとうございます!」
そしてカッパは跪きながら、涙を流して俺の足に顔をこすり付ける。
キショ!!
普通にやめてほしい。
つか、鼻水ついてるじゃねぇか!
「これに懲りたら、また一からやり直すんだな。もしも、お前が本当に有能ならば、センニンはまた要職に据えるだろ。そうだろ?」
「普通ならありえない事じゃが……そうじゃな。もしも有能であればそれを使わないのは王としての能力が疑われるじゃろう。うむ、精進するのだなカッパ。」
「はは! ありがたきお言葉! このカッパ、一から出直したいと思います!」
そういって再度、センニンに頭を下げるカッパ。
しかしガンダッダの野郎は逃げたか。
すると、ワイフマン達もか?
あの精神状態から逃げるという選択肢があるとは思えないが……。
逃げるという事は、俺にまた追われるという事。
それに耐えられるとは思えない。
まぁいい、やる事は決まった。
マーダ神殿にオーブを届ける事と、ガンダッダの捜索だ。
とりあえず、今日くらいはみんなで騒いで楽しもう。
そう決めると、俺は旨そうなワインに手を付け始めた。
大事な事を聞くまでは控えていたのである。
ゴクゴクゴクッ!
「う、うみゃい! 今日はどんどん飲むべさ!」
酒で一気にテンションが上がった俺は、翌日起きた後、その後の記憶を失うのだった……。
……ジュルリ。
さっきから見るだけで、涎がとどまる事を知らない俺。
貧乏農家の三男である俺にとって、このような派手な場所で立食パーティは当然経験もしたことはないし、もはやこんな光景を目に入れるだけでも、夢のまた夢であった。
しかも俺の隣にはこの国で一番偉い王様が立っているときたもんだ。
涎と涙の一つくらいは、出て当然だろう。
早速王様は、酒が注がれた杯を手に取ると高らかに掲げる。
「今日、わが国に英雄が誕生した。その者達は魔王の手の者を滅ぼし、更にはこの国の危機を救ったのである。今日という日は、正にこの英雄達の伝説の幕開けとあるであろう。それでは皆の者、杯を掲げよ! 救国の英雄達に乾杯!」
王様ことセンニンが乾杯の挨拶をすると、いつから来たのか、この国の重鎮と思われる者達が一斉に杯を掲げて乾杯をした。
当然英雄とは、俺達の事であるのは言うまでもない。
王様の隣には俺が立ち、その隣には仲間達が並んでいる。
センニンの挨拶が終わると貴族たちは、普段なら偉い順番に挨拶に来るようだが今日は違った。
俺達がいるから、王の邪魔することはできない。
故に、最初は近くの者達と今回の件について話し合っているようだったが、その内に俺達に直接話を聞こうとじわじわと近づいて来る。
そして見た目麗しい俺の仲間達を一目見て、あわよくば声をかけようと画策していた。
ただ一つ、不思議な事は、大臣が見当たらないことだ。
「本日はパーティの裏方に専念致します。」
と言って引っ込んでしまったらしい。
まぁそんなことは、この俺が許さんがね。
ちゃんと謝罪をしてもらうまでは許しませんよ?
「いやぁ! 本当に豪華な食事だなぁ。しかもどれも美味しい! センニンありがとな!」
俺は、既にこの国の王様とタメ口だ。
周りに人がいる時は、遠慮しておくと言ったのだが……
「英雄なんだから遠慮はいらない。サクセスと余は対等である。」
とかいって普通に話すように言われてしまった。
俺の中でセンニンの好感度は急上昇中。
冒険者を辞めたら、この国に住むのもありかもな。
「こんな事ぐらいでは感謝しきれんじゃろ。余は、いや、この国はサクセス達によって救われたのじゃからな。改めて申す、ありがとう。」
「もういいって。そんなに王様が頭下げたらまずいって。感謝は十分受け取ったよ。それに俺達はもう友達だろ?」
「……サクセス。余は生まれて初めて心を許せる者を得た気がする。これが友というやつなのだな。」
センニンが涙を流し始めた。
「ちょッ! やめてくれよまじで。それより大臣はこないのか? 色々聞きたい事があるんだけど、呼べないかな?」
「お安い御用じゃ、おい! カッパを連れて参れ! 大至急だ!」
センニンは、隣のメイドにそう伝えると、メイドは一礼をした後、大急ぎで大臣を呼びにいった。
「ねぇサクセス! あっちに美味しそうなのあるから、食べにいっていい?」
リーチュンは目の前に広がる宝(飯)の山に目を輝かせている。
「おう、みんなも好きにしてくれ。俺はちょっと大臣を交えて話したい事があるから、自由に楽しんでくれよ。」
「わかったわ! よし! シロマ、食べるわよ!」
リーチュンはそう言うと無理矢理シロマを連れて、奥に並んでいる宝の山の攻略を始めた。
パーティは、前衛リーチュン、ゲロゲロ、後衛シロマの三人である。
多分作戦は【ガンガンいこうぜ】で間違いないだろう。
こんな時ぐらいはそれでいいと思う。
じゃあ俺の作戦は【みんながんばれ】だな。
と言いつつ、さっきから俺の箸も止まらないんだけどね。
「ふふふ、邪魔者は消えましたわ。サクセス様、はい、あ~ん。」
リーチュン達が消えるまで、影を潜めていたイーゼが俺に飯をあ~んさせてくる。
俺にとって人生初あ~んは、王様の羨ましそうな目線の下で行われることになった。
もぐもぐもぐっ……。
「うん、うまい。けど自分で食べるからいいよ。イーゼも好きに食べてくれ。」
「料理など目に入りません。私が見たいのはサクセス様だけ。あ~んしてくれるだけで十分ですわ。もしくは私にあ~んあんあん……させてくれるでもいいですわよ。うふふ。」
おい!
この変態エルフはこんなところでなんっつう事を口走るんだ。
何が、ア~ンアンアン……だよ!
見て見ろ!
隣のセンニンが羨ましいを通り越して、虫の息になってるぞ!
「だ、大丈夫かセンニン! あれは冗談だ、冗談なんだよ。お前には言うけどな……俺まだ童貞なんだ。」
すると、センニンの目に光が戻る。
「なんと! そんな馬鹿な! こんな見た目麗しい女性に囲まれているのにか!」
「そうなんだ。仲間に手を出したら冒険者はやってられないだろ? だから毎日違う意味で苦しんでいる。正直永遠の毒状態だよ。」
「そうじゃったか……余に何か手伝えることはないか? そうだ、余の秘蔵の……。」
センニンが何か重要な事を言おうとした時、イーゼが割って入ってくる。
「あら? そんな事を気にしてらっしゃったのですか? 私なら全く気にしませんわ。別に私以外の者を抱いても、私さえ愛してくれるなら構いませんわよ。なんなら全員同時に愛してくれても……。」
ブファッ!
俺は思わず吹き出してしまった。
「ななな、何言ってんだ。できるわけないだろ! そげな高度なこと!」
童貞に4Pとか、いきなりできるはずもない!
いやいや違う、そこじゃない!
「うふふ、私がリードしてあげますわ。」
え? リードしてもらえるなら……俺にもできるかな?
ってちが~う!
ダメだ! 乗るな、悪魔の誘惑に!
「いいのうぅ、いいのうぅ、うらやましいのう。わしも入れてくれんかのう。」
さっきまで同情していたセンニンだったが、今はまるで友達のいない少年が、楽しそうに遊んでいる子達の輪に入ろうとモジモジしているような状態になっている。
【センニンは仲間になりたそうにこちらを見ている】
【仲間にしますか? はい いいえ】
いいえ 一択だ!
いくら友とはいえ、それだけはダメだ。
というか、そもそもの前提が土台無理な話である。
職業【童貞】
にそんなスキルはない!
ん? いや待てよ?
今の職業は【性戦士】だっけか?
ってんな訳あるかぁ!
そこに突然、息を切らしたメイドが戻ってきた。
「お話中、申し訳ございません、連れて参りました。」
見ると、そこには顔から汗を流しまくっている大臣が立っている。
「遅れて申し訳ございませぬ!」
「馬鹿もん! 余が来いといったら三秒で来い! 大臣が来ないせいで余は劣等感で自殺しそうになったわい! どうしてくれるのじゃ!」
八つ当たりの様に大臣を責め立てるセンニン。
それを見ると、大臣に仕返しをする気分も若干萎えてくる。
つか、自殺とか物騒な事言うなや、そんなにか!?
「た、たいへん申し訳ございませぬ。自殺などと……ご容赦ください!」
「ふん! 聞いたぞカッパよ。お前はこの英雄にとんだ無礼を働いたようだな。余だけでなく、あまつさえガンダッダを捕縛したと報告をした英雄を牢獄に入れるなど、恥を知れ!」
あっれ~、これ、もう俺何もしなくていいんじゃね?
なんかめっちゃ周りに注目されてるし。
一部はリーチュン達に接触しようと必死に声をかけて返り討ちになってるけど……ざまあ。
うん、もういいかな。
こいつのことはセンニンに任せよう。
「返す言葉もございません。このカッパ、どんな処分も受ける所存でございます。」
「余に謝ってどうするのじゃ! サクセスに謝らんかバカ者!」
「はは! この度は大変なご迷惑をお掛けしまして誠に申し訳ございません。」
大臣は俺の目の前で土下座した。
こうして謝罪もしてくれたんだ、水に流すか。
「謝罪は受け取った。許すよ。でもな、大臣という立場であれば、もう少し冷静に判断するんだな。それと聞きたい事が二つある。一つは緊急クエストをギルドに出した後、何を偽物の王に命令されたか、そして俺が捕縛した本物のガンダッダやその一味についてだ。」
俺はずっと気になっていた事を確認する。
すると、大臣は更に大量の汗をかきだし、報告するのをためらっている。
「そ、それが……実を言いますと、偽物の命令でガンダッダとその一味は……その……言いにくいのですが、サクセス様に騙された被害者だから解放せよと命を受けて……」
「まさか逃がしたのか!?」
俺はつい大声をあげてしまった。
「……はい。現在軍を上げて捜索しております。ギルドにも捜索と捕縛依頼を出してきたところです。」
カッパは震える声で報告した。
どおりでここにいなかったわけだ。
色々やる事が多かったのか。
だがそれを聞いたセンニンは激昂した。
「なんじゃとぉぉ! 余は全くそのような話は聞いておらぬぞ! なぜ黙っていた! なぜ伺いを立てぬ! クビだ! カッパ、お前はクビだ! いやこれだけの事をしでかしたのじゃ! 一族郎党全員打ち首じゃぁぁぁ!」
まぁ失敗はもとより、報告連絡の不徹底は致命的だな。
しかし、打ち首は流石に可哀そうだろう。
王に激怒されたカッパは顔を真っ青にして、今にも倒れそうだった。
報告連絡はともかく、こいつも騙されていただけの被害者には間違いはない。
しかも魔物だったとは言え、王と信じた者から命令されれば断れるはずもないよな。
うん、やっぱり死刑はダメだ。
こいつが悪意をもってやったなら、それでいいとは思うけど。
「センニン、落ち着いてくれ。確かにこいつは重大な事を報告しなかった。それ相応の罰を受けるべきだ。」
「そうじゃろ! せっかくサクセスが捕縛したものを……許せるはずもない。」
「いや、許してやれ。奴らは俺が必ず捕縛する。」
「ゆ、許せじゃと? なぜじゃ! サクセスは余以上にカッパに酷い目に遭わされたはずじゃろ?」
「そうだな、さっきまでは、このハゲー! っと言ってやりたい気持ちで一杯だったが、今はその気も失せた。こいつも被害者だからな。偽物に騙されたとは言え、それを看破するのは普通に無理だよセンニン。絶対無理な事を言われて、できなかったら死刑って、それが王様のすることか? それならあの魔物の王と同じだぞ?」
「そ、それは……そうじゃの。わかった。サクセスがそういうなら、騙されて行った事には目を瞑ろう。しかし! それでもただ騙されるだけの無能な大臣はいらぬ。よってお前には、今日からこの城の小間使いを命ずる。サクセスに感謝をするんじゃぞ!」
よかった。流石に一族郎党打ち首はやり過ぎだ。
センニンが人の意見を尊重してくれる王でよかった。
「さすがはサクセス様ですわ。懐が深いですわ。素晴らしいですわ。」
イーゼはとろけたような表情で俺を見つめながら、ぶつぶつ呟いている。
「サ、サクセス殿! 本当にありがとうございます! ありがとうございます!」
そしてカッパは跪きながら、涙を流して俺の足に顔をこすり付ける。
キショ!!
普通にやめてほしい。
つか、鼻水ついてるじゃねぇか!
「これに懲りたら、また一からやり直すんだな。もしも、お前が本当に有能ならば、センニンはまた要職に据えるだろ。そうだろ?」
「普通ならありえない事じゃが……そうじゃな。もしも有能であればそれを使わないのは王としての能力が疑われるじゃろう。うむ、精進するのだなカッパ。」
「はは! ありがたきお言葉! このカッパ、一から出直したいと思います!」
そういって再度、センニンに頭を下げるカッパ。
しかしガンダッダの野郎は逃げたか。
すると、ワイフマン達もか?
あの精神状態から逃げるという選択肢があるとは思えないが……。
逃げるという事は、俺にまた追われるという事。
それに耐えられるとは思えない。
まぁいい、やる事は決まった。
マーダ神殿にオーブを届ける事と、ガンダッダの捜索だ。
とりあえず、今日くらいはみんなで騒いで楽しもう。
そう決めると、俺は旨そうなワインに手を付け始めた。
大事な事を聞くまでは控えていたのである。
ゴクゴクゴクッ!
「う、うみゃい! 今日はどんどん飲むべさ!」
酒で一気にテンションが上がった俺は、翌日起きた後、その後の記憶を失うのだった……。
0
お気に入りに追加
292
あなたにおすすめの小説
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第二章シャーカ王国編
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
騎士王と大賢者の間に産まれた男だけど、姉二人と違って必要とされていないので仕えません!
石藤 真悟
ファンタジー
自分の家族、周囲の人間に辟易し、王都から逃げ出したプライスは、個人からの依頼をこなして宿代と食費を稼ぐ毎日だった。
ある日、面倒だった為後回しにしていた依頼をしに、農園へ行くと第二王女であるダリアの姿が。
ダリアに聞かされたのは、次の王が無能で人望の無い第一王子に決まったということ。
何故、無能で人望の無い第一王子が次の王になるのか?
そこには、プライスの家族であるイーグリット王国の名家ベッツ家の恐ろしい計画が関係しているということをプライスはまだ知らないのであった。
※悲しい・キャラや敵にイラッとするお話もあるので一部の話がカクヨムでのみの公開としています。
ご了承下さい。
『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?
mio
ファンタジー
特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。
神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。
そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。
日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。
神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?
他サイトでも投稿しております。
二度目の異世界に来たのは最強の騎士〜吸血鬼の俺はこの世界で眷族(ハーレム)を増やす〜
北条氏成
ファンタジー
一度目の世界を救って、二度目の異世界にやってきた主人公は全能力を引き継いで吸血鬼へと転生した。
この物語は魔王によって人間との混血のハーフと呼ばれる者達が能力を失った世界で、最強種の吸血鬼が眷族を増やす少しエッチな小説です。
※物語上、日常で消費する魔力の補給が必要になる為、『魔力の補給(少しエッチな)』話を挟みます。嫌な方は飛ばしても問題はないかと思いますので更新をお待ち下さい。※
カクヨムで3日で修正という無理難題を突き付けられたので、今後は切り替えてこちらで投稿していきます!カクヨムで読んで頂いてくれていた読者の方々には大変申し訳ありません!!
*毎日投稿実施中!投稿時間は夜11時~12時頃です。*
※本作は眷族の儀式と魔力の補給というストーリー上で不可欠な要素が発生します。性描写が苦手な方は注意(魔力の補給が含まれます)を読まないで下さい。また、ギリギリを攻めている為、BAN対策で必然的に同じ描写が多くなります。描写が単調だよ? 足りないよ?という場合は想像力で補って下さい。できる限り毎日更新する為、話数を切って千文字程度で更新します。※
表紙はAIで作成しました。ヒロインのリアラのイメージです。ちょっと過激な感じなので、運営から言われたら消します!
Sランクパーティから追放された俺、勇者の力に目覚めて最強になる。
石八
ファンタジー
主人公のレンは、冒険者ギルドの中で最高ランクであるSランクパーティのメンバーであった。しかしある日突然、パーティリーダーであるギリュウという男に「いきなりで悪いが、レンにはこのパーティから抜けてもらう」と告げられ、パーティを脱退させられてしまう。怒りを覚えたレンはそのギルドを脱退し、別のギルドでまた1から冒険者稼業を始める。そしてそこで最強の《勇者》というスキルが開花し、ギリュウ達を見返すため、己を鍛えるため、レンの冒険譚が始まるのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる