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第一部 サクセス編(改稿版)

47 タートルセンニン

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 煌びやかな王城のパーティ会場。
 そこには現在、たくさんの豪勢な料理が次々と運ばれていった。
 指揮するは、アバロン王国大臣のカッパ。

 彼は大臣という要職の立場にありながら、敬愛する王が捕らえられて、魔物が王に成り代わっていた事にも気づけずに、そればかりか魔物の王にそのまま従ってしまったのである。
 客観的に見れば、当然大臣が気付けるはずもないことであるが、王はそうは思わない。
 全ての責任が大臣にあるとは言えないが、それでも大臣という立場に身を置くものであれば相応の責任が伴うものだった。

 そして現在、王の信頼を取り戻すべく、王の権威が損なわないようなパーティの準備をしている。 


「ほれ、そこ! 違う! そうじゃない! もっと全体の景観に気を遣え!」

 普段、こんな小間使いのような事をする大臣ではなかったが、今は違う。
 とにかく今できる事に、全力で取り組むしかないのだ。
 パーティ準備にも熱が入る。
 料理の質、見た目、景観、全てにおいて最高品質の物を提供するつもりだ。 


「ふぅ……。わしは何てことをしてしまったんじゃ。王に合わせる顔がないのじゃ……。しかし、どこに勇者がいたのかはわからないが、国の危機を救ってくれた事には感謝じゃな。」


 大臣は、広がった額に零れ落ちる汗をぬぐいながら一人ごちる。
 王にいつまでに準備しろと命令されてはいないものの、求めるのはきっと最速であろう。 


「ワシが、直々に指揮を執るんじゃ。最高の宴にしてみせよう。」


 大臣は、その輝く額に零れる汗を拭いながら、気合をいれるのであった。


※ 謁見の間


 そこは、普段なら沢山のロイヤルガードに囲まれ、豪華な飾りつけがされている立派な場所。
 しかし今は違う。

 旗は破れ、壁は壊れ、床は一面に爆破の余波を受けて凸凹だらけ。
 まるでそこは昔に滅んだ国の様相を呈していた。

 しかし、玉座だけは幸運にも無事である。
 その玉座に座る王の前にサクセス達は立っていた。 


「まずは勇者殿、礼を言う。よくぞ我が国を救ってくれた。此度の貴殿らの働きは過去に類がなきほど大きなものであった。感謝する。」

 頭を下げた事もない王が、俺達に頭を下げて礼を述べた。
 それだけ、今回の功績は大きい。 


「頭をお上げください王様、私達は一介の冒険者パーティに過ぎません。先ほどは口が滑り勇者と言ってしまいましたが、勇者ではありませんので、そこのところは勘違いないように願います。」


 勇者かどうかなんて冒険者カードを見ればすぐバレる。
 今の内にこれだけは言っておかないとな。
 もう、あんな公務員生活は嫌だ! 


「そうであったか。しかし、あの輝きは……いや貴殿がそう言うならばこれ以上は野暮であろう。わかった。では余は、貴殿を勇者ではなく、国の英雄として扱おう。」 

「ありがたき幸せ。しかし、それは私一人の力ではございません。私の仲間達が王を救ってこそ今があるのです。ですので、私一人を英雄扱いするのはご遠慮願いたい。」 

「おぉ! そうであったそうであった。そこの美しい娘達よ。此度は余を救い出してくれあことに深い感謝を述べる。」 

「滅相もございません。私達はサクセス様の作戦通り動いたにすぎません。全てはそこにおられる私のダーリン……聖戦士サクセス様の力によるものにございます。私達が王に頭を下げて頂くなど恐れ多いです。」


 女性代表でイーゼが王の謝辞に答えた。
 しかし、ダーリンと言った時のリーチュンとシロマの目が怖かった。 


「そうであったか。聖戦士とな? ふむ、初めて聞く職業であるな。しかし、英雄には変わりあるまい。」


 王はアゴに指を当てて考え込むと、続けて俺達に今回の説明を求めた。 


「それで此度の真実について、世に話してもらえないだろうか。余は冒険者ギルドに緊急クエストを出すように命令した後、魔物に襲われて地下の牢獄に連れていかれたのじゃ。」


 王は、申し訳なさそうに話す。
 俺は、そんな王の態度に少し好感を抱いた。
 助けたとしても、また偉そうに踏ん反り返って、命令口調で言われると思ったからだ。

 あの金ぴか野郎、いや魔物のように。
 あ、なんか思い出してきたらムカついてきたわ。
 あまり仕返しできなかったからな。
 まぁ、代わりに魔物と一緒になって俺を陥れてくれた大臣に相応の報いをうけてもらうか。

 そんな事を考えながらも、俺達は、緊急クエストを見つけてからの事について王に説明する。 


「なんと! 魔王の影とな! そうか、遂に魔王が復活するのか……。よく知らせてくれた勇者……ではなく英雄サクセスよ。その名はこの先未来永劫、わが国で伝えられるであろう。何度も申すが、感謝する。」 

「やめてください。私は元農民ですから、そんなことをされたら恥ずかしいです。」 

「何言ってんのよサクセス! いいじゃない! 恰好いいじゃない! いいなぁ、私もその伝承には入れてよね!」

「リーチュン、やめてください。私もサクセスさんと同じで恥ずかしいです。」 

「私は絶世の美女として伝えて頂ければかまわないわ。後、サクセス様の伴侶ともね。」 

「もちろん、そしらの美しい女性達も伝えていくつもりだ。しかし伴侶であるか……残念じゃ……。」


 おい、何が残念なんだよ?
 言ってみろ。今度は俺がこの国を亡ぼすぞ。 


「王様、この仲間達は私の大切な者です、できたらそのような目で見るのはご遠慮願いたい。さっきから私の剣が震えておりますゆえ。」  

「そそそそ、そのような事は! すまななかった!」


 俺が鞘に手を当てて、プルプルしていると、いきなり王が慌てて土下座した。
 どうやら、相当びびったようである。

 しょうがねぇ許してやるよ、このスケベじじぃ。 


「頭を上げてください。ただ、二度目はありませんのであしからず。それで、私がガンダッダから奪い返した財宝についてですが、いかがしますか?」 

「そ、そうであった。伝説のオーブを取り戻してくれたのじゃったな。……もしよければ、マーダ神殿まで届けてくれないだろうか? もちろん、相応の報酬は出す。まだこの国には魔王の手の者がいないとも限らぬ。それ故、英雄殿なら間違いはないじゃろう。引き受けてはくれぬか?」 


 王は、引き続き土下座をしている。
 こんな姿を他の者が見たら大変だな。
 まぁ誰もいないから、王も軽い感じでできるのだろうが。 


「わかりました、引き受けましょう。それとですが……。」


 俺は、王に近づいて耳打ちする。


 コソコソコソ……。 


「あの、やべぇ水着はどうしますか?」

「ま、まさか! あれも取り返してくれたのか!」 

「声がでかいです。みんなに聞こえてしまうでしょう。」 

「すまなかった、つい。それで例の物は今どこに?」 

「安心してください。それについては私が肌身離さず身につけております。」 

「なんと……。」 

「すみません、一度掴まってしまったので、隠すところがなくて……。」 

「いいんじゃ。それであれば、あれはそなたに譲ろう。ワシも我慢できなくて、いつも自分で装備してしまっての。このままじゃまずいと思ってマーダ神殿に贈ったものじゃ。」


 おい!
 このおっさんの使用済みだったのかよ!
 いらねぇよ、その情報!
 匂いクンクンしちまったじゃねぇか!


 おえぇぇぇ。 


「そ、そうですか。それならばあれは私が一生の宝物として大事にします。」 

「ほっほっほ、そうじゃろう……あの娘らに着せるんじゃろ? できれば余にも……。」 

「それはできません! ですが、ぐへへ。そうですね、ぐはは。笑いが止まりませぬな。」 

「ほっほっほ、お主もエロじゃのう……。」 

「お代官様程でも……。はっはっは……。」


 いつのまにか二人は肩を組合い、笑い合っていた。
 男の熱い絆が生まれた瞬間である。
 同じ水着の試着者として……。 


「なんだか楽しそうですね、サクセスさん。」 

「えぇ、あんなに王様と仲良くなるだなんて流石ですわ。でもサクセス様に肩を抱かれるなんて、例え王様でも爆破したい気分ですわ!」 

「楽しそうよねぇ、アタイも混ざってこようかな。」


 そして俺は、王と力強く握手した。 


「我が英雄、いや我が友よ! これからもよろしく頼む!」 

「王……いや、友よ! これからも良い物があったらお互い分かち合おうではないか! 旅先で何か見つけたら必ず持ってくるよ!」 

「おお、それはありがたい! 流石我が理解者!」


 二人が新しく芽生えた友情を確認していると、一人の男が扉を開けて入ってきた。
 その男は扉を一歩入ったところで、跪く。 


「失礼します! 王よ! 宴の準備が整いました。ささ、こちらへ。」 

「おお、そうか。それでは友よ、一緒に食事にしよう! 救国の祝いと新たな友の歓迎会じゃ! こんな楽しみな宴は久しぶりぞ!」 

「ははは、それは楽しみだ。さっそく行こうじゃないか……ん? そう言えば俺は王の名前を知らないな。友達になったんだ、名前を教えて欲しい。」 

「おお、そうじゃった。余の名はアバロン・タートル・センニンという名じゃ。」 

「じゃあこれからはセンニンと呼んでもいいか?」 

「もちろんじゃ、サクセス! わっはっは!」

 そういって王は笑った。
 しかし、そこに笑えない者が一人。


(うそじゃろ、あれはガンダッダではなかったのか? あやつが勇者? だが王を呼び捨てとは許せぬ! いやしかし、国を救ったのは確かである。待てよ! それならば、ワシは……。)


 大臣は気づいてしまった。
 己がした過ちを。
 そしてチラリと俺を見ると……。


 ブルブル……。


 大臣は激しい悪寒を感じた。
 そこには、邪悪な笑みで大臣を見ている俺がいるのであった。
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