上 下
18 / 397
第一部 サクセス編(改稿版)

17 イーゲの悪意

しおりを挟む
現在のパーティ
サクセス  戦士?(魔物使い)18レベル
リーチュン 武闘家      30レベル
シロマ   僧侶       30レベル
イーゲ   魔法使い     32レベル
ゲロゲロ  フロッグウルフ  23レベル
-------------------------------------------
 俺たちは無事ガーディアンを倒した後、なんなくダンジョンを抜け出す。 
 今回の戦闘では経験値10倍の影響もあり、全員かなりレベルアップした。 
 シロマとイーゲに関しては使える魔法が増えたようだ。 

 しかし俺たちは、ダンジョンを出た後、直ぐに町に向かって出発せずに、近くで野営をする事に決めた。 
 レベルアップにより、体力も精神力も回復はしているものの、やはり命の危険があった後はしばらく休んだ方がいいらしい。


「改めてサクセス様の強さに惚れました! 一生あなたにつきまとうことを誓います!」


 つきまとっちゃダメだろ! 

 野営早々、イーゲがアホな事を口走る。

 それを言うなら、一生ついていきますじゃないの? 
 まぁどちらにしても断固拒否だ! 
 何度も言うが俺は男に興味はない。
 だがしかし、こいつの知識にだけは興味がある。 


「そうか、わかった。それは拒否するとして、俺に少し魔法を教えてくれないか?」 

「よ、喜んで!!」 


 普段俺から邪険にされているからか、物凄く嬉しそうに了解するイーゲ。 

 その後、俺はイーゲからのセクハラを交わしつつ、火魔法、氷魔法、雷魔法などを教わってみたが、どれも使えなかった。 
 やはり光魔法だけが特別だったようである。 
 結構ショックは大きい。

 魔法が使えれば、魔法戦士的な者になれると浮かれていたからだ……。 


「サクセス様、気を落とさないで下さい。魔法など使えなくても、あなた様は最高に素敵です。」 

 
 イーゲの目はハートマーク。
 
 でも男のお前に素敵と言われてもなぁ……。 


「まぁ、正直かなり悔しいけど光魔法が一つでも使えるなら……いや、やっぱり悔しい! 魔法を使いたい!」 


 納得しようと思ってみるが、一度期待してしまうと中々諦められないのが人の性というものだろう。 
 今夜は悔しくて眠れなさそうだ。
 右手と遊ぶか……。 


「サクセス様、それなら少ないですが、私が知っている他の光魔法も試してみますか?」 

「ほんとか! まだあるのか!?」 


 イーゲの言葉に、俺の目は、再び輝きを取り戻し、興奮しすぎてイーゲの肩を掴んで揺さぶった。 
 するとイーゲは、顔を赤らめて黙り込んでしまう。 

 おい、やめろ。 
 その反応はやめろ! 
 ポッ……じゃねぇよ。 
 早く教えてくれ! 

 どうやら、エルフは攻められるのには弱いみたいだった。 
 
 いらんわ、そんな情報。 


「わかりました。では唯一知っているライトヒールとディバインチャージをお教えします。」 

「おお! なんかわかんないけど格好いいじゃねぇか! どんな魔法だ?」 


「ライトヒールは知力依存の回復魔法で、ディバインチャージは、力と知力を合わせた光の剣戟でございます。イメージしながら唱えてみて下さい。」 


 俺は、今言われた事をイメージしながら二つの魔法を唱えてみる。 

 しかし発動したのはライトヒールのみだった。 
 ディバインチャージは発動出来ない。 
 だが俺は回復手段を得た! 
 しかも使える魔法が二つになったんだ。
 もう魔法戦士を名乗ってもいいんじゃないか? 


「でかした! イーゲ、お前やっぱり最高だよ!」 

「ありがとうございます。それでは一つお礼を返していただけないでしょうか?」 

「おう、いいぞ! なんでも言ってくれ! いや待て! なんでもは無しだ! できる範囲でならいいぞ!」 


 危なかった! 
 うっかり勢いで罠に嵌められるところだった。


「そんなに大したことではありません、少し指を切って血をこの紙に落としていただければいいだけです。」 


 そう言うと、イーゲは懐から何も書かれていない一枚の紙を取り出す。


「そんなことならお安い御用だ、じゃあ……。」 

「ちょっとまったぁぁぁ!」


 俺が指を切ろうとしたその時……リーチュンが叫んだ。 


「アンタ! どさくさに紛れて何しようとしてんのよ! サクセスも油断しすぎ! これは呪われた誓約書よ!」 


 イーゲの出した紙には何も書かれていない。 
 だから、俺は何も考えずにやろうとしたんだが、よく考えれば確かに怪しすぎるな。 

 これは一体なんだ? 

 リーチュンの声を聞いたシロマも近づいてくると、その紙を手に取って、何か呪文を唱えた。

 すると、紙に文字が浮びあがってくる。


 この紙の上で互いの血が交わる時、二人は一生愛し合う事を誓約する。


「なんじゃこりゃ! おい、テメェふざけんな! こんな事していいと思ってるのか?」 


 流石にこれには俺も怒った。

 リーチュンは、以前これで騙された人を見たことがあった為、気づいたようだ。 
 何も知らない俺は、危うくイーゲに洗脳されるところであった……。 


 悪事がバレたイーゲは、焦った様子で直ぐに謝罪を始める。


「すいません! サクセス様、ほんの……ほんの出来心なんです! 許してください!」 

「ダメだ。これは完全に計画犯だろ……たしかにお前は有能だし、今回かなり見直した。けどもうお前を信用できない。今後、お前とはパーティを組まない! 町に戻ったらお別れだ。」

「そ、そんな……。お願いします! なんでもしますから! 見捨てないで下さい。」 


 俺の言葉に焦ったイーゲは、必死に縋り付いて泣きながら懇願する。 

 でも、ダメだ!
 マジでこいつは危なすぎる。 
 百歩譲って好意を寄せるのはいい、それは自由だ。 
 だが、相手の気持ちを蔑ろにして騙してくる相手とは一緒にはいられない。 


「ダメだ。俺はもう……お前を信用できない!」 


 イーゲの顔は、まるでこの世の終わりかのように絶望一色に染まった。 
 
 正直イーゲは惜しい。 
 だが無理なものは無理だ。 


「少し待ってもらえませんか? サクセスさん。言っている事はごもっともです。しかし良い方法があります。」 


 俺とイーゲのやり取りを黙って見ていたシロマは、何かを提案する。 
 しかし、今回だけはシロマからの言葉でも受け入れられないぞ。 


「シロマ、俺の気持ちは変わらない。俺はコイツを許すわけにはいかないんだ。」 

「はい、ですからイーゲさんに罰を与えましょう。」 


 罰だと? 
 そんなもん意味ないだろ。 


「罰を与えたところでこいつは繰り返す、俺にはわかる。」 

「はい、ですからこういった事ができなくなる罰を与えます。その紙を貸してください。」 


 俺はシロマに言われるがまま、イーゲが使おうとした紙をシロマに渡した。 
 するとシロマはその紙に呪文を書き加える。 

 そこに書かれていたのは。

 一つ、パーティメンバー及びサクセスを騙すことはできない。

 二つ、パーティメンバー及びサクセスを害する行為はできない。

 三つ、パーティメンバー及びサクセスが許可をしない限り1メートル以内に接近できない。(戦闘中は除く)


 なるほど、確かにこれならば今後の不安は無くなるな。 


「確かにそれなら安心かもしれない。だがまだ不安が残る。イーゲは天才だからな。もう一つ付け加えてくれ、できるか?」

「はい、後一つくらいなら……ただ、結構な血が必要になるとは思いますが……。」

「よし、じゃあ完全な女性になるまで俺を好きにはならないと加えてくれ!」 


 これなら、もう二度とおれにちょっかい出さなくなるだろう。 
 正直、さっきのだけじゃ頭のいいあいつの事だ、絶対抜け穴をかいくぐってくるはず。 

 だが、流石に性転換は無理だろ。
 あれ? 無理だよね? 


「できるかわかりませんが、それでは一応付け加えておきます。」

「イーゲ! それでいいか? ダメならここでお別れだ。」 


 イーゲは未だに絶望から戻ってこない、しかし手渡された紙を見て頷く。 


「わかりました、サクセス様と離れないで済むなら何でもします。」 


 そう言うと、イーゲは持っていた短剣で、思いっきり自分の腕を切った。 

 血が凄い……。 
 大丈夫だろうか? 

 イーゲの顔が物凄く青くなっている。
 だがそれよりも、もっとグロいものが俺の目に映った。 

 イーゲの持っている紙は、凄まじい勢いでイーゲの血を吸収していく。

 正直グロすぎる。 
 俺はあれをやられそうになったのかよ……。 

 そう思うと背筋が凍る思いだ。

 しばらくしてその紙は、血を大量に吸い尽くすと輝きだし、紙から出てきた黒いモヤがイーゲを包み込んだ。 


 バタっ!! 


 イーゲはそのまま意識を失って倒れる。 


「こわ! なにこれ! ホラーかよ! っつか、あいつ本当に大丈夫なのか?」 


 イーゲの出血は止まったが、意識が戻らない。 
 一応、俺も覚えたてのライトヒールを使ってみるが効果はなかった。 
 だがイーゲの胸に耳を当てると、心臓は動いているようだったので死んではいないはず。 

 とりあえず俺は、イーゲを馬車の中に運び入れて寝かせることにした。 


「シロマ、あいつ大丈夫かな?」 


 流石に心配になった俺は、シロマに尋ねる。 


「今回、大分呪いが強かったですからね、でも成功していましたので命は大丈夫かと思います。明日になれば目覚めるかと……。」 

「そうか……。」 


 大丈夫という割にはシロマの声は不安に満ちていた。 
 その声に俺も不安になってくる。 
 すると、リーチュンが俺の肩を叩いて言った。 


「サクセスが気にやむ事じゃないわ。今回はイーゲが悪い。アタイはサクセスの味方だよ。」 


 リーチュンの慰めが胸に染みる。 
 でも、今後はもう少しイーゲに優しくしようかな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】4人の令嬢とその婚約者達

cc.
恋愛
仲の良い4人の令嬢には、それぞれ幼い頃から決められた婚約者がいた。 優れた才能を持つ婚約者達は、騎士団に入り活躍をみせると、その評判は瞬く間に広まっていく。 年に、数回だけ行われる婚約者との交流も活躍すればする程、回数は減り気がつけばもう数年以上もお互い顔を合わせていなかった。 そんな中、4人の令嬢が街にお忍びで遊びに来たある日… 有名な娼館の前で話している男女数組を見かける。 真昼間から、騎士団の制服で娼館に来ているなんて… 呆れていると、そのうちの1人… いや、もう1人… あれ、あと2人も… まさかの、自分たちの婚約者であった。 貴方達が、好き勝手するならば、私達も自由に生きたい! そう決意した4人の令嬢の、我慢をやめたお話である。 *20話完結予定です。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

処理中です...