14 / 397
第一部 サクセス編(改稿版)
13 ベビーウルフ
しおりを挟む「まったく魔物に遭遇しないな……。」
俺たちは、現在テーゼに向かっているところであるが、その間、全く戦闘がなく、森の木の実や薬草などを採取する以外やることがなかった。
しかしそんな森も間も無く終わりを告げる。
木々の合間から、その先にある草原が見えてきた。
「そうですね、私達のレベルが高くなっていますから、私達が近づくのを感じて逃げているのでしょう……あっ!!」
シロマはそう答えた瞬間、何かに気づいた。
「魔物です! あれはオオアルマジロ! この森で一番の強敵です……が動きがおかしいです。えっと……何かを囲んでいるようですね。あれは……。ベビーウルフ?」
俺は、シロマが指差す方を見た。
大きいイノシシのようなモンスターがいるが、あれがオオアルマジロだろう。
うわ、なんか細長い舌がチロチロ伸びてて……きも!
そしてそいつらに囲まれているのは……白色の子犬?
なんか頭に緑色の角が三本生えているな。
「シロマ、囲まれているのも魔物なのか?」
「はい、フロッグウルフと言うモンスターの赤ちゃんですね。多分、親とはぐれてオオアルマジロの縄張りに入ってしまったのかもしれません。」
なるほど、魔物同士でも縄張り争いとかあるのか。まるで普通の動物と同じだな。
「アタイ、助けに行ってくる!」
「待て、リーチュン。団体行動中だ! 勝手は許さない。大体魔物同士の喧嘩に、我々がわざわざ間に入る必要はない。助けたところで、助けた魔物に噛まれるのが関の山だ。」
俺とシロマの会話を聞いていたリーチュンが駆け出そうとするが、それをイーゲが止める。
「離して! そんなの関係ない! 魔物だったとしても赤ちゃんがあんな大きい奴に囲まれてるのよ! きっと怖い思いしてるはずだわ! アタイは助ける!」
純粋な心を持つリーチュンにとって、魔物も動物も関係ない。
ただ、可哀そうなものをほっとけないのだ。
そんな心優しいリーチュンを見て、俺は決めた。
俺があの赤ちゃんを助ける!
「わかった、じゃあ俺が行く。俺のステータスなら攻撃されてもダメージはない。それならいいだろイーゲ? 3人はここで待っててくれ。」
ここでまたリーチュンとイーゲが喧嘩になってもしょうがないし、俺が行けば済む話。それに俺も助けてあげたい。
「サクセス様がそうおっしゃるのであれば、私は構いません。」
「サクセス! ありがとう!」
イーゲがしぶしぶ了解をすると、リーチュンが抱きついてくる!
ムニュ……。
おっほーー!
スイカとは思えない柔らかさだ!
すると、隣でそれを見ていたイーゲもまた
「サクセスさまぁ!」
といって、抱きついてきた。
おい、どこを触ってんだよ!
つうか、お前は助けるのに反対してただろ!
イーゲは、どさくさに紛れて俺の陰部を触ってくる。
「この変態がぁぁぁ!」
バシッ!
俺は、イーゲの手を強く払うと、逃げるようにベビーウルフの元に向かい、どうのつるぎを抜く。
すると、俺に気付いたオオアルマジロ達は、一斉に俺の方を見て逃げていってしまった。
やはりモンスターは、冒険者の強さを感じ取る事ができるらしい。
惜しい事をした。
主に金と経験値……。
追いかければ倒せると思うが、先にあの子犬っぽい魔物の保護だ。
俺はその魔物に近づいていくと、そこに残されたベビーウルフは、俺を見てお腹を上に見せるように転がって鳴き始める。
ゲルゥ ゲルゥ。
その姿は、実家で飼っている犬が降伏を示す動作と同じだった。
それを思い出すと少し可愛く見えてきて、俺はその剥き出しの腹を優しく撫でる。
すると気持ちよさそうにベビーウルフ鳴いた。
魔物のくせに襲い掛かってこないし、めっちゃ可愛いなコイツ。
鳴き声は変だけど。
「変な鳴き声だな。くぅーん、とか、ワンとかじゃないのか……。」
俺に敵意が無いのを悟ったのか、今度は立ち上がって俺の手をペロペロし始めるベビーウルフ。
「お前……可愛いなぁ。どっから来たんだ?」
俺がそう聞くと、ベビーウルフは草原に向かって、
ゲロン!
と鳴いた。
俺にはそれが「あっち!」と答えたように聞こえる。
言葉が通じるはずもないが、何故かそのベビーウルフには通じている気がした。
「かわいい! ねぇ、サクセス。この子飼おうよ! ねぇいいでしょ?」
リーチュンは、その可愛さに目を奪われ、俺に上目遣いでお願いしてくる。
確かに可愛い。リーチュンがな。
「ん? そういえば魔物って飼ってもいいのかな?」
「はい、飼うことは可能かと。魔物使いという職業もありますし。ただ、私達の中に魔物使いはいませんので色々面倒な事が起こる可能性はあります。」
俺の質問にシロマがすぐ答える。
その言葉は冷たく感じるが、目は完全にベビーウルフの虜だった。
しかし、イーゲだけは鋭い目でベビーウルフを見つめている。
どうやらこいつは飼うことに反対らしい。
「サクセス様、私は反対です。獣くさいのは我慢なりません。」
「いや、お前の行動の方が獣くさいぞ、イーゲ……。そうなると、俺も我慢ならないな。」
「飼いましょう! サクセス様!」
俺の一言で即刻意見を覆すイーゲ。
あほか。
とりあえず、これでベビーウルフを飼う事が決まったわけだ。
すると、リーチュンが興奮した様子でベビーウルフを抱っこする。
「やったぁぁ! じゃあ今日からこの子は、私達のペットね。ねぇねぇ、この子に名前つけようよ! アタイはねぇ、ポチがいいと思うの!」
名前かぁ。
確かに必要だな。
「いや、サクセス様の下僕として、ここはやはり性獣がいいかと……。」
おい……この変態エルフ……。
ふざけんな、それはどっちの意味だコラ。
詳しく聞こうか? あん?
リーチュンとイーゲはそれぞれ、ベビーウルフに自分がつけた名前で呼んでみるも、ベビーウルフは全く反応せず、俺の事をキラキラした目で見つめている。
その様子は、まさに
【ベビーウルフは名前を付けて欲しそうにこちらをみている】
と言った感じだ。
しかし困ったな。
俺はこういったセンスが無いんだよな。
そうだなぁ……。
「よし、お前はゲロゲロ鳴くから、お前の名前は今日からゲロゲロだ! いいか?」
ゲロロロぉぉぉ。
俺にそう呼ばれたベビーウルフは、嬉しそうに雄たけびをあげる。
どうやら、ゲロゲロという名前を気に入ってくれたらしい。
そして、ふと俺の冒険者カードが光った気がして取り出してみると、そこにはさっきまでは無かった文字が加えられていた。
サクセス 戦士?(魔物使い)レベル11
あれ? マーダ神殿に行かないと転職できないのでは?
いや、カッコだから転職はしていないのか?
冒険者カードのシステムがよくわからない。
「シロマ、見てくれ! なんか俺の冒険者カードがバグっちまった!」
「え? こんなのをみたのは初めてです。長寿のイーゲさんなら知っているのではありませんか?」
シロマは、俺のカードをイーゲに渡す。
「いえ。わかりませんね。ただ一つ言える事は、サクセス様が素晴らしいという事です。流石は我が愛する君。これでモンスターを連れていても問題にはなりません。」
この世界を長く生きるイーゲにもわからないか……。
不思議だな。
まぁとにかくこれでモンスターを連れてても問題がなくなるならばそれで良しとするか。
こうして俺たち4人パーティに新しく一匹のもふもふな仲間が加わるのだった。
7
お気に入りに追加
292
あなたにおすすめの小説
王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?
木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。
これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。
しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。
それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。
事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。
妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。
故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。
令嬢はまったりをご所望。
三月べに
恋愛
【なろう、から移行しました】
悪役令嬢の役を終えたあと、ローニャは国の隅の街で喫茶店の生活をスタート。まったりを求めたが、言い寄る客ばかりで忙しく目眩を覚えていたが……。
ある日、最強と謳われる獣人傭兵団が、店に足を踏み入れた。
獣人傭兵団ともふもふまったり逆ハーライフ!
【第一章、第二章、第三章、第四章、第五章、六章完結です】
書籍①巻〜⑤巻、文庫本①〜④、コミックス①〜⑥巻発売中!
【完結】姉に婚約者を寝取られた私は家出して一人で生きていきます
稲垣桜
恋愛
私の婚約者が、なぜか姉の肩を抱いて私の目の前に座っている。
「すまない、エレミア」
「ごめんなさい、私が悪いの。彼の優しさに甘えてしまって」
私は何を見せられているのだろう。
一瞬、意識がどこかに飛んで行ったのか、それともどこか違う世界に迷い込んだのだろうか。
涙を流す姉をいたわるような視線を向ける婚約者を見て、さっさと理由を話してしまえと暴言を吐きたくなる気持ちを抑える。
「それで、お姉さまたちは私に何を言いたいのですか?お姉さまにはちゃんと婚約者がいらっしゃいますよね。彼は私の婚約者ですけど」
苛立つ心をなんとか押さえ、使用人たちがスッと目をそらす居たたまれなさを感じつつ何とか言葉を吐き出した。
※ゆる~い設定です。
※完結保証。
異世界を満喫します~愛し子は最強の幼女
かなかな
ファンタジー
異世界に突然やって来たんだけど…私これからどうなるの〜〜!?
もふもふに妖精に…神まで!?
しかも、愛し子‼︎
これは異世界に突然やってきた幼女の話
ゆっくりやってきますー
転生初日に妖精さんと双子のドラゴンと家族になりました
ひより のどか
ファンタジー
ただいま女神様に『行ってらっしゃ~い』と、突き落とされ空を落下中の幼女(2歳)です。お腹には可愛いピンクと水色の双子の赤ちゃんドラゴン抱えてます。どうしようと思っていたら妖精さんたちに助けてあげるから契約しようと誘われました。転生初日に一気に妖精さんと赤ちゃんドラゴンと家族になりました。これからまだまだ仲間を増やしてスローライフするぞー!もふもふとも仲良くなるぞー!
初めて小説書いてます。完全な見切り発進です。基本ほのぼのを目指してます。生暖かい目で見て貰えらると嬉しいです。
※主人公、赤ちゃん言葉強めです。通訳役が少ない初めの数話ですが、少しルビを振りました。
※なろう様と、ツギクル様でも投稿始めました。よろしくお願い致します。
※カクヨム様と、ノベルアップ様とでも、投稿始めました。よろしくお願いしますm(_ _)m
薬の知識を手に入れたので、裏稼業でもしてみようか
紅雪
ファンタジー
久々に出社した俺は、後輩と飲みに行くことになった。他の同僚とは都合が合わず、二人だけでの飲みになったわけだが。そこそこの見た目だから、お持ち帰りでもしてやろうかと目論んで。
俺は脂の乗った35歳、普通のサラリーマンだ。ちなみに腹に脂が乗っているわけじゃねぇ、年齢的にって意味だ。まだ遊びたい年頃なんだろう、今のところ結婚も考えて無い。だから、後輩をお持ち帰りしてもなんの問題も無い。
そんな後輩と会社から近い有楽町に、二人で歩いて向かっていると、ろくでもない現場に出くわした。しかも不運な事にその事件に巻き込まれてしまう。何とか後輩は逃がせたと思うが、俺の方はダメっぽい。
そう思ったのだが、目が覚めた事で生きていたのかと安堵した。が、どうやらそこは、認めたくは無いが俺の居た世界では無いらしい。ついでに身体にまで異変が・・・
※小説家になろうにも掲載
ソフィアと6人の番人 〜コンダルク物語〜
M u U
ファンタジー
中央の男は言う。
「同じ所で、同じ人が出会い、恋に落ちる。そんな流れはもう飽きた!たまには違う事も良かろう。道理を外れない事、それ以外は面白ければ許す。」と。送り出された6人の番人。年齢、性別、容姿を変え、物語の登場人物に関わっていく。創造主からの【ギフト】と【課題】を抱え、今日も扉をくぐる。
ノアスフォード領にあるホスウェイト伯爵家。魔法に特化したこの家の1人娘ソフィアは、少々特殊な幼少期を過ごしたが、ある日森の中で1羽のフクロウと出会い運命が変わる。
フィンシェイズ魔法学院という舞台で、いろいろな人と出会い、交流し、奮闘していく。そんなソフィアの奮闘記と、6人の番人との交流を紡いだ
物語【コンダルク】ロマンスファンタジー。
誕生日当日、親友に裏切られて婚約破棄された勢いでヤケ酒をしましたら
Rohdea
恋愛
───酔っ払って人を踏みつけたら……いつしか恋になりました!?
政略結婚で王子を婚約者に持つ侯爵令嬢のガーネット。
十八歳の誕生日、開かれていたパーティーで親友に裏切られて冤罪を着せられてしまう。
さらにその場で王子から婚約破棄をされた挙句、その親友に王子の婚約者の座も奪われることに。
(───よくも、やってくれたわね?)
親友と婚約者に復讐を誓いながらも、嵌められた苛立ちが止まらず、
パーティーで浴びるようにヤケ酒をし続けたガーネット。
そんな中、熱を冷まそうと出た庭先で、
(邪魔よっ!)
目の前に転がっていた“邪魔な何か”を思いっきり踏みつけた。
しかし、その“邪魔な何か”は、物ではなく────……
★リクエストの多かった、~踏まれて始まる恋~
『結婚式当日、婚約者と姉に裏切られて惨めに捨てられた花嫁ですが』
こちらの話のヒーローの父と母の馴れ初め話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる